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「永愛ちゃん! 動きが固いぞー」
「すみません……」
「昴君はバッチリじゃ!」
「ありがとうございます」
「今日はここまでにするかの。今日は解散じゃ」

私と沖矢さんは劇の練習に来ていた。台詞は一通り覚えたけど演技が固いと私だけ指摘されてしまいショックを受ける。沖矢さんは台詞も演技も完璧にこなしていて、おじいさんも彼の演技には満足しているようだった。

そして次の予定を打ち合わせした後、沖矢さんと一緒に帰ることになった。

「沖矢さんは演劇の経験があるんですか?」
「いえ、ありませんね」
「そうですか」

その後彼はボソリと毎日演技しているようなものですから、と漏らしていたけど聞こえないふりをした。本当の自分は誰にも見せないぜー、的な感じなのかな。ちょっと変わった人なのかもしれない。
しかし経験がないのに演技ができるなんて大体のことは何でもできる完璧人間なのかも。

「永愛さんは恋愛シーンになると演技が固くなりますよね」
「そ、そうですか?」
「えぇ、分かりやすいほどに。この後時間はありますか?」
「えっ。はい、特に予定はないです」
「永愛さんの苦手なシーン、練習しましょうか」

ニコリと微笑む沖矢さんを見て、思わずヒエッと声が出た。


********************


久々の工藤家だーと言いたいけれど、全然久々ではない。この前お世話になったぶりだ。彼には色々と迷惑をかけてしまっているな、と改めて思った。

「では二人のダンスシーンから」
「お願いします」

『私達も踊りましょうか』
『はい。そうですわね』
『そんなに離れていては踊れませんよ』
『ひゃっ!?』
『緊張されてますか?』
『勿論ですわ』

そして公爵が微笑んだ後、二人でダンスを踊る。ダンスが終わればこのシーンは終わる。


「ダンスは完璧ですね」
「はい、練習しましたから!」
「一人でですか?」
「そんな寂しいことしないです。幼馴染に練習付き合ってもらいました」
「ほー。ダンスのできる方で良かったですね」

確かに。すんなり受け入れてたけど快斗がダンス出来るなんてすごいや。普通の学生はできないよね。一体どこで、いつの間に。

「あとは恋愛シーンの演技ですね。何度も練習すれば慣れますよね」
「えっ」
「ね?」
「……はい」
「……」

無言の圧力がすごい。この人本当何考えているか読めない。

「ぜひお願いします」
「えぇ」


それから時間のある日は沖矢さんと劇の練習をしていた。快斗と青子が私の家に来ても遊べない日が続いていて、ちょうど今も快斗が来ていた。

「せっかく来てくれたのにごめんね。今日も練習の予定が入ってて」
「まーた練習かよ。最近多すぎねぇか?」
「うん。あと三日だし。それに個人練習もしてるし」
「個人練習なら付き合ってやるって」
「相手役の人と一緒にやってて」
「ふーん。最近練習に誘ってこないと思ったら、相手役の奴と二人でか? どこで?」
「相手の家で二人で」
「はぁ!? やめろ! 今すぐ!」
「えぇ!? ずっとやってたのに!?」
「ずっとぉ!?」

快斗はいきなり大声を出し、私の肩を掴んで前後に激しく揺らした。目が回る。

「バーロー! 一人暮らしの男の家に何度も行くなんてあぶねーだろ!」
「危なくないよ。何もないし」
「何かされてからじゃ遅いだろ」
「もー。快斗お母さんみたい」
「オメーが心配なんだよ」
「そんな心配しなくても、子供じゃあるまいし。あの人に襲われることはないと思うけど、例え襲われたとしても護身術は身につけてるじゃん」

沖矢さんは私より強い気がするけど。只者って感じがしないんだよねあの人。

「……じゃあ、俺の力振り解けるのかよ」
「ちょっと!?」

真剣な顔の快斗に両手首を片手で掴まれる。びくともしない手に力の差を思い知らされる。快斗ってこんなに力強かったんだ。
心配してくれているのに反抗は出来ないし、負けを認めよう。

「……ごめん、分かった」
「……」
「でも引き受けたからには、ちゃんと良い劇にしたいの。沖矢さんの家はやめて、いつも皆で練習してる場所で個人練習する。……それでどうかな」
「おう。二人きりもなしな」


********************


なんとか快斗には納得してもらった。そして沖矢さんには幼馴染に心配されていることを伝えて、練習場所を変えてもらった。何故か終始笑われていたけど。

「面白い幼馴染がいるんですね」
「心配性なんです」
「心配……というより、」
「?」


ーーそして町内会のイベント当日。劇は無事成功し、幕を閉じた。

おじいさんは満足したようで沢山お礼品をくれた。関係者の方に挨拶を済ませて、観に来てくれた幼馴染みの二人の元へ行く。

「永愛! くっつきすぎじゃなかった!? 青子気が気じゃなかったよ」
「えっ!? そうかなぁ」
「ね、快斗もそう思うでしょ!?」
「……おう。あれは俺らに見せつけるようにしてたな」
「えぇ!?」

確かに練習の時より密着してた気がするけど、今日は本番だし彼が役に入り込んでいるのかもと思ってた。

「でも劇だし、ね」
「もー! ほんと永愛って危機感ないんだから!」
「それより今から何か食べに行こうよ。お腹減っちゃった」
「ほんとオメーは……。よし、食いに行くか」
「青子ハンバーグが食べたーい」
「私も!」

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