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「#エロ」のBL小説を読む
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「町内会のイベント!?」
「うん。この前重そうな荷物持ってるおじいさんがいたから声を掛けたら、町内会の劇に出てほしいって言われて。そのおじいさん、会長だったみたいでその劇の演者を探してたんだって」
「何でそれを永愛がするんだよ」
「役がぴったりなんだって」
「すっごーい!」

青子の家に集まって、先程あった出来事を青子と快斗の二人に話していた。声掛けた時のおじいさん、目をカッ!と見開いて早口で話し出したから驚いたなぁ。

「それでそれで? どんな役なの?」
「天真爛漫の夫人役」
「天真爛漫ねぇ……。って夫人!?」
「うん。それで夫役を探してて、良い人いないかって言われてるの。だから快斗に声をかけてみたんだけど」
「うーん……」
「だめ、かな。もし嫌だったら他の人誘うし!」
「やりなよ快斗!」
「……仕方ねぇ。俺が引き受ける」


********************


「ダメじゃ! 君じゃと役に当てはまっとらん。夫役はもっと寡黙な感じが良いんじゃ。君とこの子じゃ、おてんばボーイとおてんばガールになるじゃろうが」
「おてんばボーイ……」

ごめん快斗……。落ち込む快斗の隣で青子がクスクスと笑っている。
おじいさんに快斗はどうですか、と紹介したものの、呆れた顔をされてしまった。本当は彼すごいんですよ、変装もできるし声だって変えれるんですよって教えてあげたい。

「わしが探しておるのは裏がありそうで知的に見える男性じゃ! 永愛ちゃん、そんな人はいないかの?」
「裏がありそうで知的……。あっ」

当てはまる人物がいた、かも。二人には謝罪して分かれ、あの人の元へ向かった。


********************


「おぉ! まさにわしが求めていた人物にぴったりじゃ! お前さん名前は?」
「沖矢昴と申します。劇をすることは聞いたのですが、どのような内容なのですか?」

次に紹介したのは沖矢さん。おじいさんは私と出会った時みたいに目をカッと見開いて、沖矢さんの手を握っていた。私とおじいさんのイメージが同じでよかった。
沖矢さんに劇の内容を聞かれたおじいさんは、興奮気味に話し出した。


ーー公爵は一見物静かで優しい人柄で領地民からの信頼も厚いが、その裏で国家に仇なすものたちを闇に葬ってきた暗殺者一家の当主。一方公爵からの寵愛を受け明るく純粋で、公爵の正体に徐々に気がつくも健気についていこうと決めた公爵夫人の波乱万丈な恋愛ストーリー。


「ほー、では永愛さんとは夫婦役ということですか」
「そっ!……そういうことになります」

あぁ、やっぱり快斗が良かったな、なんて後悔しても遅い。それから関係者の人達へ挨拶回りして脚本を貰った。
脚本を読んでみたら、強く抱き締めたとか口づけをとか同じベッドで、とか……ちょっと距離が近いシーンが多いことが分かり恥ずかしくなった。

「今日のところは解散じゃ! 二人ともまた土曜日よろしく頼むぞ」
「分かりました」
「はい、お願いします」


おじいさんと分かれて沖矢さんと二人で帰る。こんなにくっつくシーンがあるって知ってたら、沖矢さん誘わなかったのに……! ていうか快く引き受けてくれたものの、いきなり連れてきてしまった彼に申し訳ない。

「沖矢さん、怒ってませんか?」
「どうしてです? 寧ろ楽しみでしかないですよ。演じる役もとても興味深いので」
「えっ? そうなんですか。良かったです。確かに役がぴったりですもんね。優しく見えるけど裏がありそうな感じが」
「ほー」
「あっ!! いや、良い意味で!?」
「そんな風に思っていたんですね」
「えっ!? えーと……」

どうしよう、もう弁解の言葉が見つからない。思わず本音が出てしまった。表情から感情が読み取れないし。

「しっかり練習してきてください。楽しみにしているので」
「はいっ!!」


********************


それから私は必死に脚本を覚えて、快斗と青子に練習に付き合ってもらった。青子がナレーターで、快斗が公爵役。

「公爵の裏の顔を見てしまった夫人、セレスは公爵に聞こうか迷った」
「"公爵!"」
「"どうした?"」
「"私、その、さっき……"」
「"ふむ。私の事は公爵ではなく名前で呼ぶように言ったはずだが"」
「"えっ!? は、ハイド様。これでよろしいでしょうか"」
「"あぁ"」
「そして公爵は夫人を抱き締めた」

ここ抱き締めるシーンだったかぁ。正面に立つ快斗は脚本を見つめたまま黙った。

「公爵は! 夫人を! 抱きしめた!」
「あ、青子?」
「あぁーー! 分かってるっての!」
「セリフの読み合わせだけだし、しなくて良い……っ!?」

快斗は自分の胸へと私の身体を引き寄せた。彼の心臓の音が聞こえるほど近くて思わず「わっ」と声を上げてしまった。幼馴染といえど異性であることに変わりなくて、少し緊張する。

「……ごめん快斗」
「なんだよ」
「びっくりして台詞飛んじゃった」
「ハァ!?」
「永愛、次は"ハイド様! 私は先に部屋に戻らせていただきます"って台詞の後にシーンが切り替わるんだよ」
「ありがと青子」

ゆっくり快斗から離れると、彼は下を向いたままだった。台詞飛んじゃったから怒ってるのかな。

「これ、本当にあいつとするのかよ」
「そうだね。本当は快斗の方が良かったんだけど」
「え、そうなのか?」
「そりゃね」
「じゃあ俺で良いだろ。あのじーさんに言ってくる」
「もう、快斗は断られたでしょー。早く続きやろうよ。青子続き見たいー」
「ごめんごめん。快斗、続きお願い」
「……おー」

不機嫌かと思ったらそんなことないような、でもまた不機嫌になったり……。よく分からないけど、練習に付き合ってくれる二人に感謝して演劇の練習を続けた。



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