絶体絶命だと思われた状況下、コナン君が飛行船に戻ってきた。そして赤いシャムネコを次々と気絶させているという。
コナン君が暴れ回っているお陰で、ラウンジが手薄になっていく。彼からリーダーをやっつけたという報告があったところで、青子のお父さん達が動き出す。ずっと寝ていた毛利さんも目を覚ましウエイターの女を押さえつけた。
「永愛くん。大丈夫だったか?」
「はい、ありがとうございます。博士」
阿笠博士に縄を解いてもらう。やっとこれで自由に動ける、とは言ってももう必要ないか。
コナン君も合流し、赤いシャムネコの本当の目的を教えてもらった。本当の目的とは殺人バクテリアに怯えた人々が関西を脱出し、誰もいなくなった奈良県の寺にある国宝級の仏像を盗み出すことだった。それを推理した服部君と奈良県警によって盗みを犯した犯人全員が逮捕されたらしい。この事件に服部君も関わっていただなんて驚きだ。
「殺人バクテリアなんて盗んでなかったんだよ」
「じゃあ蘭は……」
「うん。蘭姉ちゃんも感染してないよ」
「だったらどうして蘭ちゃんの腕が発疹してたの?」
「それはーー」
感染者たちの症状は漆によるかぶれだったようだ。コナン君と園子ちゃん、毛利さんは蘭ちゃんを迎えに行った。これで一件落着、そう思って息を吐いた。数分後、戻ってきた人の中にコナン君がいない。
「蘭ちゃん、コナン君は?」
「それが……どこかへ走って行ったの」
「え?」
「きゃああああああ!」
「動くな!」
園子ちゃんがカメラマンの男に捕まってしまった。そんな……まだ仲間がいたなんて。完全に油断していた。
「園子! っ!?」
蘭ちゃんの後ろにいたレポーターの女が蘭ちゃんの頭に銃口を突きつけた。これじゃ動けない。
そのままここにいる全員を縛られ、動けない状態になった。やっと解放されたと思ったのにまたか。それに加え、二つの爆弾装置が壁に貼り付けられたのを見て恐怖せざるを得なかった。
しかし突然、飛行船が90度に傾いた。皆が驚きの声を上げるが、手首を縛られているため身動きが取れない。カメラマンとリポーターが慌てていることから、予想外の事が起こっている様だ。ということは、コナン君が何かしたのだろうか。
少しすると飛行船も安定してきて、毛利さんが皆に大丈夫か尋ねた。皆大丈夫そうだ。
「奴らはどうした?」
「犯人の二人ならそこで伸びとるわい」
「?」
「さっきの急上昇の時、壁に激突してな。自業自得じゃ」
「俺達は縛られてて助かったわけか」
青子のお父さんと園子ちゃんのおじさんが会話している中、ルパンという犬が吠え出した。吠えた先にはキッドがいる。
「いやぁー驚きました。ホールまで様子を見に来たらいきなり床が傾くんですから」
「おのれキッド!」
「キッド様!」
スタスタと蘭ちゃんの元へ歩くキッド。蘭ちゃんは不安そうな顔を浮かべコナン君は?とキッドに尋ねた。
「あのボウヤなら無事ですよ。もう時期ここに来るでしょう」
そして蘭ちゃんのロープを解いて彼女から離れた。
「じゃあ皆さんのロープも解いてやって下さい」
ついでに私のロープも解いてくれたら良いのに、なんて口を尖らせていると不意に目が合い彼がクスリと笑う。
「そんなに見つめなくても貴女のも解いてあげますよ」
「!! あ、ありがと……」
彼の手によって手首が解放され自由になる。快斗のくせに……。ちょっとドキッとしちゃったじゃないか。
「では皆さん。お約束通りお宝はいただいて参ります」
「待て! 逃げるなキッド!!」
彼は宝石を盗んでこの場を去っていった。
********************
その後負傷したコナン君が戻ってきて手当てした後に、皆でご飯を食べることになった。コソッと聞くとコナン君は犯人グループのボスに頭と腕を銃で撃たれたらしい。怖すぎるんですけど。病院行かなくて大丈夫なのかな。
ディナーの時間までに少し時間があったので、見れていなかったスカイデッキを見に行くことにした。ビッグジュエルはもう無いけど。エレベータで登り到着する。見上げれば月がいつもより大きく見えてとても綺麗だった。
中央にはキッドがいて驚いたが、彼の白い衣装が月明かりに照らされて綺麗だ。こちらの存在には気づいていない様だったけど、彼の方へ歩き声を掛ける。
「キッド」
「!!」
「コナン君を助けてくれてありがとう」
「どういたしまして。……手首、赤くなっていますね」
「うん。そのうち治るよ」
キッドは私の両手を掴んで中央へ寄せ、そのまま自分の口に寄せた。私の手首からリップ音がこの静かな空間に鳴り響く。
「ばっ、バカッ!」
「顔が真っ赤だ」
こいつ、楽しんでいる。普段だったら絶対こんな事しないのに。不意に後ろにあるエレベータが動き出したので、こんな所を警察に見られると共犯者だと疑われる、そう思いキッドの胸を押して宝石が置いてあったであろう場所の後ろに隠れた。
「貴女は何をしているんですか?」
キッドに呆れた顔で見られるが、彼もエレベータが動いていることを確認した様で私から離れた。
エレベータが開くと蘭ちゃんが乗っているのが見えた。彼女はキッドの姿を確認すると、「新一」と声を掛けた。やっぱり蘭ちゃんはキッドが新一君だと勘違いをしている。
「ねぇ、新一」
「よぉ蘭。今日は中々刺激的な一日だったな」
「新一!」
「!!」
蘭ちゃんはキッドの背中に抱きついた。思わず声が出そうになったのを何とか堪える。
「自首して新一。やっぱり泥棒は泥棒。良くないよ。お願い新一!」
「うぉっ」
動揺して顔赤らめてるじゃん。でもうんうんわかるよその気持ち。蘭ちゃんみたいな可愛い子に後ろから抱き締められたらそうなる。同性の私でも絶対なるもんね。
気まずそうなキッドと目が合った。パクパクと何か言っているが読み取れず分からなかった。誤解を解きなさいという意味を込めて握り拳を彼に向けたら、彼はどう受け取ったのか口角を上げた。
「分かった。俺が一番欲しかったお宝をオメーがくれたら警察に出頭してやるよ」
「え? でも私何も持ってない……」
「シー。それは勿論……」
「えっ!?」
キッドが蘭ちゃんの後頭部に手を回し顔を近付ける。それはまるで、今からキスをするかのよう……ってダメダメ!! アンタが蘭ちゃんに手を出しちゃダメ! お姉さんは許しませんよ!?
「ちょっと、ストッ……」
「貴方、新一じゃないわね? ……って何か声した?」
「げっ」
そこへエレベータが到着し、コナン君と園子ちゃんが下りてきた。コナン君はすぐに中央へと走る。
「あっ!」
「コナン君!!」
「キッド、てめぇ!」
「そう。私は探偵ではなく泥棒。泥棒は盗むのが商売。たとえそれが人の心でもね」
キザな言葉を残してハンググライダーで彼は飛び立った。全く、今度会った時怒ってやろう。
「キッド様、素敵!」
「あんな事された後に言われてもねぇ」
「え?」
「あんな事って?」
「あっ、レディスカイ。キッド返してったのねぇ」
「ねぇねぇキッドに何されたの!?」
「だから新一がやらない様なことよ!」
蘭ちゃんは顔を真っ赤にして何故か怒って行ったので、私も後をついて行く。コナン君と園子ちゃんにどこから出てきたんだと驚かれたけど、気にせずにエレベータのボタンを押した。
色々あったけど犯人グループは捕まったし、キッドも何も盗んで行かなかったし皆無事だし良かった。安心したらお腹が空いてきた。ディナー楽しみだなぁ。