偶々ではあるがよく会っていた新一君は突然姿を消した。最後に会ったのはトロピカルランドの時だ。蘭ちゃんもその日から会っていないようだったが、彼の身に何かあったのか。そしてそれと同時に、新一君と入れ替わるようにやってきたのが、江戸川コナンと名乗る小学生だった。
「あー! 永愛お姉さんだー!」
「こんにちは。皆学校は終わったんだね」
「うん!」
「永愛さんも学校帰りですか?」
「そうだよ」
「誰だっけこのねーちゃん」
「永愛さんですよ。元太君」
「コナン君や蘭お姉さんのお友達だよ」
コナン君の同級生で、少年探偵団のメンバーが駆け寄ってきた。勿論蘭ちゃん、コナン君繋がりで仲良くなった。ここ最近で、友達がグンと増え嬉しい限りだ。
「あ、そうだ。コナン君」
「なぁに? 永愛姉ちゃん」
「今週の土曜蘭ちゃんと遊ぶ約束してるの。だから家にお邪魔するね」
「うん。待ってるね!」
はぁー、子供って癒されるなぁ。探偵団の皆と分かれ自宅へと向かう。すると後ろから名前を呼ばれ足を止めた。振り向くとコナン君が此方へと走ってきている。彼に目線を合わせるように屈む。
「どうしたのコナン君。何かあった?」
「これ、落としたよ」
小さい手の上に乗っていたのは、見覚えのある鍵だった。慌てて鞄を探り鍵を確認するとない。ということは、間違いなく私の家の鍵だ。
「ああああありがとう! 家に入れないところだった」
「永愛姉ちゃんって鈍臭いよね」
「えっ」
今、天使のような笑顔で毒を吐かれた気がする。幻聴かな。きっと聞き間違いだ。私に鈍臭いなんて言うの快斗か新一君ぐらいだし。
「あ、そうだ。コナン君に聞きたいことがあって」
屈んだままコナン君としっかりと目を合わせ、両肩を掴む。彼は気まずそうに目を逸らすが、そのまま続ける。
「私、トロピカルランドで君を見たの。サイズの合ってない服を着て頭から血を流した君をね」
「た、多分僕と似た子なんじゃないかなぁ。僕知らないよー」
ニコニコと笑うコナン君。でもあの時の子は恐らく彼で間違いないはずだ。もしかして頭を殴られて記憶がなくなっているのか。
「それに、新一君の服着てたよね?」
「そっそれ、永愛姉ちゃんの見間違いだと思うな! 僕新一兄ちゃんの服なんて着てなかったよ!」
と言うことはあそこにいたのはこの子ってことで決まりだな。
「そっかー! 私の見間違いだったかぁ! コナン君と会うようになってから新一君と一度も会ってないから、同一人物なのかと疑っちゃったよー。あははっ」
「あははー……」
「でも新一君と全然会えてないから、寂しいなぁ」
「ねぇ、永愛姉ちゃんって新一兄ちゃんのこと、す、好きなの?」
「うん。好きだよ」
サラリと答えるとコナン君はえっ、と顔を赤らめた。自分から聞いておいて何なんだ。流石に嫌いとは答えないだろう。
「あ、もちろんコナン君も好きだよ。友達だからね!」
「あはは……ありがとー」
何故か溜息を吐かれた。私に好かれるのは嫌ってか。全く失礼な子だな。
「そうだ! 寂しいなら新一兄ちゃんに電話しなよ」
「え、良いのかな」
「良いと思うよ! 僕も蘭姉ちゃんもよく電話してるし」
「そっかぁ。じゃあかけてみよ」
今かけようとスマホをポケットから取り出すと、コナン君は慌てた様子で「帰ってゆっくり話した方が良いんじゃないかな!?」と服の裾を引っ張ってきた。
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コナン君に言われた通り、彼に電話をかけてみようと思う。どのタイミングでかければ良いのか迷いまくって結局夜になってしまったが。恐る恐る新一君の電話番号をタップしてスマホを耳に当てる。
「も、もしもし?」
『おう。久しぶりだな永愛』
ニコール目が鳴り終わる前に懐かしい声が聞こえて、鼻がツンとして視界がにじんだ。
「久しぶり。最近どうしてるの?」
『色んな事件で忙しくてよ。なぁ、オメー声震えてねーか?』
「ううん、全然。元気なら良かった」
『フッ、もしかして泣いてんのか?』
「な、泣いてる……かも。何か久しぶりに新一君の声聞いたら安心して」
『永愛……』
鼻水も出てきたので鼻をかむと電話越しに汚いと怒られた。
「はー、スッキリした!」
『俺と話せてスッキリしたか?』
「ううん。鼻が」
それに返事は無く電話の向こうで、何かがぶつかる音だけが聞こえた。変なこと言ったかな。あ、そうだ彼に聞きたいことがあったんだ。
「ねぇ、最後に一つ聞いて良い?」
『何だぁ?』
「周りに言えない秘密って、何で言えないと思う?」
息がつまる音が聞こえる。少しの沈黙の後、彼は真剣にこう答えた。
『その秘密を知れば、知った奴の身に危険が迫るからじゃねーか?』
その言葉がやけに耳に残った。