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朝、アルバイトに行く準備をしながら、テレビを横目で見る。怪盗キッドという名が、最近ニュースで話題にされる事が多くなったと思う。八年ぶりに復活したらしいが、八年も経てば結構年老いているのではないだろうか。元々何歳なのかは知らないけど。

家を出る準備ができ、アルバイト先へと向かう。色んな経験をしたい私は、アルバイトや派遣を数日毎に変える。こんなにコロコロと変えるから、友達も出来ないんだ。分かってる。


今日は最近新しくできたという、トロピカルランドでアルバイトです。可愛いリスの着ぐるみを着て、パーク内を歩きながらお客さんと写真を撮ったりする最高のお仕事です。笑顔でお礼を言う子供が特に可愛い。話してはいけないのが規則なので子供達と会話出来ないのは残念だが、このバイトを選んで良かった。

「こっちこっち!」
「ねぇ、どこ行くのよ新一!」

後ろから知ってる声が聞こえ、振り向くと新一君と蘭ちゃんがいた。まさかまさかのデートじゃないか!? 話せないので、二人に向かって全身を使い大きく手を振ると、蘭ちゃんは笑顔で手を振り返してくれたが、新一君はドン引きしているのがはっきりと分かった。その後二人は噴水の方から帰ってきたので、着ぐるみを着ているのを良い事に蘭ちゃんに抱きつきに行った。

写真撮影の決められた時間が過ぎれば、ちょうど休憩の時間だったので休憩室へ向かった。子供達に囲まれて人気者気分になれるのは良いけど、暑いし重いしで着ぐるみの中は大変だった。お陰で汗だくだ。着ぐるみを脱いで昼食をとる場所を探していると、デート中の二人に遭遇した。

「あれ? 永愛ちゃんじゃない」
「よう! 誰かと来てんのか?」
「あー……よう! そしてさらば!」

デート中の二人の邪魔をしてはいけないと思い、その場を走って離れた。

「……どうしたんだろ」
「さぁな」


しかし、私は運が悪い事に休憩ごとに二人に遭遇してしまった。あぁー、私のバカー! 二人の邪魔しちゃいけないってのにー! 再び逃げようと走ると二人はあろう事か追いかけて来た。そして……。

「捕まった……」
「バーロー。何で逃げんだよ」
「そうよ! 折角会ったんだから!」
「は、はひ」

何故か年下二人に説教される私。逃げていた理由を説明すると二人は大声でデートじゃない、と言い張っていた。どう見てもデートじゃないかというツッコミは心の中にしまっておいた。

「永愛ちゃんは一人で来たの?」
「え? うん」
「オイオイ。寂しい奴だな」

アルバイトだけど一人で来たことには違いないしなと思い答えると、可哀想な人を見る目で二人から見られた。泣きそうだ。

「トロピカルランドに行きたいなら、誘ってくれたら一緒に行ったのに」
「ほ、ほんと?」
「本当よ! 私達友達でしょう?」

そしてガシリと手を握られる。うわぁ嬉しい。なんか誤解されてるけど嬉しいよー! 今度出かける時は蘭ちゃん誘おう。

「いや、遊びに来たんじゃねーな」
「え? 何がよ、新一」
「コイツだよ。一人で遊びに来たのかと思ったけど、どうやら違うみたいだな」
「どういうこと?」

「まず身だしなみだ。髪はボサついてるし服はラフな格好。いつもはしていた化粧はせずにすっぴん。そして服のしわや髪の張り付き具合を見る限り、さっきまで大量の汗をかいてたんじゃねーか?」
「ふふーん。さて問題です。私は今日ここで何をしていたでしょうか」

事件が起きた時のように推理をする新一君を見て心が弾む。私が問題を出すと、彼は嬉しそうに口角を上げた。

「蘭、分かるか?」
「そうねぇ。ゲートの受付に居たら入る時に分かるだろうし、アトラクションのスタッフとか?」
「着ぐるみだよ」
「え、どうして?」
「前髪のはね具合からして何か被ってたんだろ。それに着ぐるみのバイトは化粧はしない方が良いしな」

「ご名答」

拍手を送ると新一君は得意げに微笑んだ。ふと時計を見ればそろそろ戻らなくてはいけない時間だったので、楽しんできてねと告げ二人に背を向ける。別れ際に新一君からの一言が耳に届いた。

「着ぐるみのバイトは低身長の方が好まれるんだよ」

蘭ちゃんはへぇー、と納得した様子だった。あえて何も言わなかったけど、ムカッときたよ? 聞こえてるからね探偵さん。今度会った時一発お見舞いしてやる。

「さーて。あとはラストまで頑張るぞー!」

握りこぶしを振り上げ、空を見ると夕暮れが迫っていた。休憩室に戻り着ぐるみを着る。あと三十分程度で終わりらしいので、もうひと頑張りだ。


********************

「お疲れ様です」

荷物を持ち、担当の人に挨拶をして休憩室を出た。少し遊んで帰ろうかな、なんて思ってたけどもう外は真っ暗だ。今日は大人しく帰るとするか。

ふと目に止まったのは、建物の陰から早足で出てきた黒ずくめの男二人だった。あんな人達でもこういったところに遊びに来るんだなぁ、と穏やかな気持ちになった。あの人達に比べて私は、こんな所に一人。つらすぎる。


ーーあぁぁぁぁあ!!

「!?」

誰かの叫ぶ声が聞こえる。あっちの建物の方か! 走って声が聞こえる方へ行くと、男の子が倒れていた。不幸な事に今日はスマホを家に置いてきてしまった。周りを見渡し近くにいた警備員さんを呼んで状況を説明した。

「ねぇ君、大丈夫!?」

良かった。息はしてる。それにしてもこの子、服のサイズが合ってない。それに見覚えのある服……。これは今日新一君が着てた服に似ている。頭から血を流しているし、何かあった事は確かだが、残念だが探偵さんのように謎を解くことは出来ない。

「君、もう帰って大丈夫だよ」
「あっ、はい。お疲れ様です」

訳ありそうな子だけど、あとは警備員さんに任せて大丈夫だろうと思い私はその場を去った。


その子に再び出会ったのは、それから数日後だった。

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