×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


指定の場所に来た。今のところ周りには怪しい人は居ない。というか歩道橋にいるのが私しか居ない。
コツコツ、とヒールの音が耳に届いた。階段を登るのは黒髪の女性だった。焦点を失ったような目と目が合い、思わずびくりと肩が上がる。私を狙っていたのはこの人だとすぐに分かった。

「今回は姿を見せるんですね」
「…………」
「私、貴女に何かしてしまいましたか?」
「したわよ。私の彼に手を出したくせに、他の男にも手を出しているなんて!」
「えっ!? 何のことですか?」

口を開いたかと思えば、興奮しながら話し出す女性。彼女が何か勘違いをしている気がしてならなかった。

「しらばっくれるんじゃないわよ! あの人に指輪を渡してたじゃない!」
「指輪……?」
「あんたが彼に渡した指輪なんて、貰いたくないわよ!」
「ちょっ、ちょっと待って下さい。何か誤解が」

指輪なんて知らない、そう考えた時ふと数日前の出来事が頭をよぎる。そういえば小さな箱を落とした男性に声をかけ、落としたものを渡したことがあった。しかもその中身は確か……指輪だったはず。

「おおお思い出しました!! それ誤解です! あの男性が落としたものを私が偶然拾って!」
「笑い合ってたじゃない!」
「その人お相手の人にプロポーズをするって言ってて、応援しただけです! あの人とは初対面です」
「な、なにそれ……。嘘、嘘よ!!」
「何の関係もありません」
「えっ、じゃあ……私がしたことは……」

目の前の彼女は多分あの人がプロポーズするお相手だったのだろう。気が抜けたのか、彼女の体は崩れ落ちた。このままだと彼女は階段から落ちてしまう。

「危ない!」

咄嗟に腕を引っ張り自分の方へと引き寄せるが、脱力した身体を支えきれず自分の位置と入れ替えるように彼女を引っ張った。

しまった私が落ちてしまうと思った時には、身体は地面に向かって宙に舞っていた。歩道橋の上から落ちたら痛いだろうなぁ。そんなことしか考えれずに目を瞑った。


数秒後、体に痛みはなく誰かに包まれている感覚があった。私を受け止めてくれたのは、バーボンーー安室さんだった。

「何で、助けてくれるの」
「何でって、そりゃあ目の前で人が死ぬのは嫌でしょう?」
「貴方は私を……私の周りの人を殺すのが目的なんでしょ」
「いいえ、それが目的ではありません。それに君と僕は取引をしたはずだ。君が約束を守っていれば僕も何もしない。ですがそれよりも今は歩道橋の上にいる女性から話を聞くのが先です。話し声が聞こえていましたが、あの女性は君に何かしたんですよね」
「……えぇ」

ここ最近の事件はあの女性一人が起こしたものだ。バーボンは無関係だった。しかし無関係だと分かっても組織の人であることには変わりない。身体の震えが止まらなかった。

「永愛さん? 大丈夫ですか?」
「は、はい。ありがとうございました」

抱き合っている体勢だったので彼の胸を押し離れようとするも、彼の腕に力が入りまた二人の距離が近くなる。一体何を考えているのだろう。あの、と口を開くが何も反応がない。


「彼女を離してもらえますか」
「!」
「……貴方は」

安室さんは突然現れた沖矢さんを見た瞬間、目を見開き私からゆっくりと離れた。二人は知り合いなのだろうか。しかし沖矢さんは今日は用事があると出掛けていたのによく帰ってくる人だなぁ。……あ、さっきの約束破ってしまった。

「警察の方に事情を話しましょうか」
「はい。あの、すみま……」
「どうしてもここに向かわなければならなかったのでしょう」
「でも約束を破ってしまいました」
「そうですね。帰ったらお仕置きですかね」
「えっ! それはちょっと」

「まるで同じ家に住んでいるかのような会話ですね」
「えぇ、住んでますよ」

一緒に住んでるのは今だけなのにどうしてそう答えちゃうのかなぁ!? ニコニコと微笑む沖矢さんと安室さん。どちらも何を考えているのか読めない笑顔だ。

「そうでしたか。しかし一緒に住んでるのにどうしてこんなことに?」
「相手の素性を知るために様子を伺ってました。それに貴方が近くにいるのが見えたので大丈夫かと思いまして」
「僕が彼女を助けなかった場合どうしてたんです?」
「助けるだろうと思っていたので。それにしても永愛さんの危機管理能力が低くて困りました」
「それは僕も同意見です。この間レンガが落ちてきた時もそうですが、狙われていると分かっているなら一人で行動するのは危険です」
「そうですよね。すみません……」

どうしてだろう、いつの間にか二人に怒られてる。数分二人に説教された後、安室さんはポアロに入り、私と沖矢さんは警察の方に話した後工藤家に戻った。

あの女性は気を失っていたので救急車に運ばれているのが見えた。


荷物をまとめ、沖矢さんにお世話になりましたと頭を下げた。コナン君に事件は解決しましたと連絡を入れておく。二人には本当に感謝だ。

「またいつでもいらして下さいね」
「はい。ありがとうございます! では」
「……以前永愛さんは」
「え?」
「僕の正体を暴くと言ってましたね。いつ暴いてくれるんです?」
「へっ、そんな事言いましたっけ?」
「覚えていないのなら構いません。ではお気を付けて」

そんな事言った記憶がない。誰かと間違えてる……? 前も誰かと間違えているような発言があったけど、私と誰かを重ねている? それとも本当に私に言っているのかな。

数日ぶりの自分の家へと足を運ぶ。赤くなった空を見つめ呟いた。

「謎の多い人だ」


prev- 66 -next
back