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唖然とした。何故なら彼女が自分の正体を知っているような発言をしたからだ。どこか抜けているようで時々鋭いような性格の彼女、新谷永愛。まさか彼女にバレるとは思っていなかった。



久々にバイトに入ったポアロにやってきた彼女は、自分の顔を見るなり驚きと恐怖の匂いがした。いつもとは違うとすぐに分かった。
注文を聞きに行けば、彼女はいつも通りを装っていたが手が震えている。一体どういう事だ。何を隠している。

食事を終え、早々とレジの前に立つ彼女に、もっとゆっくりして行かないのかと声をかけた。いつもなら食事を終えた後にデザートを食べたり、ボーッとこちらを見ているので不思議に思った。

問いかけに答えた声は低く、誰が聞いても分かるくらい彼女は怒っているのだと感じ取れた。

「……一つ言っておきますけど、梓さんに手を出したら私許しませんから」

手を出したら許さない、か。彼女の言う"手を出す"は命を奪うという事だろう。こんな発言をすると言うことは、正体がどこかでバレたということだ。どっちだ、バーボン、それとも降谷零。……いや後者はありえない。

それにバーボンが何者か、組織が何をしているのか彼女は知っているのか。一体何処から……コナン君だろうか。コナン君は一緒に暮らす蘭さんより彼女の方がどこか気を許しているような、素を見せているのを見て取れる。どこまで知っているのか、彼女は一体何者なのか。

どういう意味でしょうか、と尋ねると、「貴方なら分かってると思いますけど」と返ってくる。殺気を含ませて言ったがそれでも向かってくるのか。彼女が店を出た後、自分の口角が上がっていることに気が付いた。



先程は少し動揺したが、恐らく正体がバレたのはこの間のミステリートレインでだろう。貨物車にシェリーの他にもう一人潜んでいた。それが彼女なのだろう。

帰りには彼女の姿が見えなかったし、間違いなくあの貨物車は爆発していたのをこの目で見た。あの爆発から回避し怪我も無い。一体どうやって抜け出したのか。

彼女が来ると何かが起きるだろうと招待状を手配したのは、正解だったようだ。……想像以上に面白い人だ。



面白い人と言えば、以前ポアロで事件が起きた時にいた男性もだ。ガラの悪い連中が毛利探偵事務所と間違えてポアロに入ってきた時のことだった。

あの程度の相手、自分だけで余裕だと思い戦闘体制に入るが、若い男性が自分も戦うと言う。初めてポアロに訪れた客だった。顔は中性的で体型はすらっとしている。止めに入った時に掴んだ腕は細かったが、ある程度筋肉は付いている。戦える腕だと感じた。

そして彼と背中合わせで男四人の様子を伺い、踏み出す。タイミングが全く同じだった事に驚いた。しかし驚いたのはそれだけではない。構えや戦い方が殆ど自分と同じ。後から聞くと見様見真似でやっていたらしい。コピー能力が優れているのか、と感心した。

しかしその男性は事件解決と同時に、胸の辺りを押さえて苦しそうな表情を見せた。殴られている様子はなかったが、どこか怪我をしたのだろうか。声をかければお代と言ってお金を渡される。そして慌ただしくポアロから出て行ったのだった。

すぐさま追いかけるが彼の姿は見当たらず、代わりに彼女 永愛さんがドア付近で立っていた。彼女と会話するうちにあることに気付く。先程の男性と服が全く同じだという事に。今思えば顔立ちも彼女に似ていた。

「(まさか……、いやそんなことは不可能だ。偶々同じだっただけだ。偶然……)」

それ以上深く考えるのはやめた。またあの男性と会えることを信じて。



ーー永愛さんの話に戻そう。
自分の正体を口外されては困る。彼女がポアロに訪れた数日後に、口止めする為に取引を持ちかけた。風見に調べさせた彼女の周りの人物。調べたところでどうこうするつもりはないが、取引を成立させるには必要だと思い写真を用意しておいた。

この写真を彼女の前に並べた時、彼女は目を見開いて一瞬酷く悲しむ表情を見せた後、何かを決意したような真っ直ぐな目でこちらを見た。

その目で確信した。取引は上手くいったのだと。そして僕は胸の前で手を組み口角を上げながら、彼女にこう告げたのだ。

「傷つけたくないでしょう?」

と。


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