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「いらっしゃいませ」
「……っ、こんにちは」
「お久しぶりですね、永愛さん。どうぞお好きな席へ」
「お久しぶりです。ありがとうございます」

ポアロに入るとバーボンこと安室さんがいた。あの列車事件から初めて顔を合わせるな。自分がバーボンって事がバレているなんて一ミリも思ってないんだろうな。
それにしても彼がポアロに復帰するっていうのは本当だったようだ。……いつも通りにしないと。

「パスタと紅茶をお願いします」
「はい、ありがとうございます」
「この間のミステリートレインぶりですね。ポアロも少しお休みされてたみたいで」
「えぇ、夏風邪を引いてまして」

そして彼は軽く頭を下げた後、微笑みながらカウンターに戻っていった。……あの人が組織の人なんだ。今更だけど怖いな。いつの間にか握られていた拳は汗でびっしょりだった。



********************


お会計をしようと席を立つとレジの前に安室さんが立った。バクバクと心臓が煩く音を立てる。以前のときめきとは違う心臓の音だ。

「今日はゆっくりしていかれないんですか?」

いつもの様に微笑む彼に、何とも言えない感情が湧き下唇を噛んだ。そして口を開く。

「……一つ言っておきますけど、梓さんに手を出したら私許しませんから」

自分でも驚くような低い声が出た。彼だけに発した言葉が梓さんにも聞こえていたようで、何故か笑われた。

「やだぁ、永愛ちゃんったら。私、安室さんの彼女じゃないわよ」
「どういう意味でしょうか」

笑って私の肩を叩く梓さんとは別に、鋭い眼差しが私に突き刺さる。私にしか見えないように。この人こんなに怖かったんだ。

「貴方なら分かってると思いますけど」

それでも負けじと彼の目を見てそう答えると空気が凍ったような気がした。バーボンを刺激するなよ、とコナン君から言われている。これ以上は何も言わないでおこう。

「ごちそうさまでした」

店を出ると焦った様子で梓さんが出てきて、私に話しかける。

「ちょっ、ちょっと永愛ちゃん! どうしちゃったの!? この前まで安室さんにメロメロだったのに……」
「……冷めちゃっただけです。ほら私飽きっぽいから」
「何かあったの? まさか彼に何かされたとか」
「いいえ、そんなことは」

先程の緊張からか、今は梓さんの前でも上手く笑えない気がして、思わず顔を背けた。

「またポアロに来てくれるわよね?」
「勿論です。梓さんとお話ししにきます」

彼女を悲しませない為に、そしてバーボンの行動を見張る為にも足を運ばなければならない。




********************


それから数日後の出来事だった。夕方、バイト帰り。突然彼は私の目の前に現れた。

「少しお時間宜しいですか?」
「……急いでいるので」
「手荒な真似はしたくないのでついて来てもらえると助かります」
「…………」

溜息を吐きたいのを抑えて、覚悟を決める。今ここで逃げたら何されるんだろう。黒ずくめの組織怖い。

私が自分に従うと分かったからなのか、彼は見覚えのある白い車へ歩き出した。そして助手席のドアを開けられたので、大人しく助手席へ座る。
以前は緊張してドキドキしながら座った席は、今は違う意味でドキドキする。勿論悪い意味で。



連れて来られた場所は車で十分程走った所で、お洒落なレストランだった。中に入ると個室に案内され、テーブルを挟み向かい合っている席が二つ。

「夕食はまだですよね。お好きな食べ物は?」
「まだ……ですけど、その、結構です」

私がそう答えると彼は返事する事なく、店員に料理を何点か注文していた。お腹減ってるのに目の前で食事してるところを見るのか。辛すぎだわ。
ぐぅ、と鳴るお腹を手で押さえていると、安室さんが口を開いた。怪しげな笑みだ、嫌な予感がする。

「取引をしませんか?」
「取引……」
「えぇ。君は僕の正体を知ってしまった。それを他言しないで頂きたい。周りの人物に。例えば……コナン君とか」
「はぁ。それで私にメリットは……。……っ!」

スーツの胸ポケットからスッと出てきたのは複数の写真だった。テーブルの上に置かれたので確認する。コナン君や蘭ちゃん、少年探偵団の皆、それに快斗と青子、ずっと仲の良かった友人が写っている。

「察しの良い貴女なら分かりますよね?」
「どうして……」

彼の顔見知りであるコナン君や蘭ちゃん達は兎も角、何故幼馴染みの二人や友人の情報まで一体どこで……。友人なんて彼と関わってからの期間は会っていない。

いや、それより彼が言いたいことについてだ。この複数枚の写真を見せられたという事は、つまり「私が彼の正体をバラすとこの人達に被害が及ぶという事」だ。

あぁ、小さな探偵と同じ状況だ。組織の関わるとこうなってしまうんだ。まだ自分の命があるだけマシか。

「傷つけたくないでしょう?」


後悔してももう遅い。向けられた笑顔に頷くしかなかった。


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