現在、青子と快斗は映画を見ているらしい。逃げられないように快斗に手錠をつけて。
一方、私はお腹が空いたので持ってきていたおにぎりを食べて、中森警部たちのいる方へと戻ると警備員が皆倒れていた。大きな柱に隠れて哀ちゃんに借りてきた博士の発明品の眼鏡をかける。
中央では白い衣に身を包んだ怪盗を中森警部が捕まえていた。キッドの顔をしっかりと見たくて眼鏡のボタンを押して二人の方をズームして見る。
モノクルが取れたキッドは快斗にしか見えない。やっぱりキッドの正体は……。
「掛かったな! 怪盗キッド!」
「……クッ!」
「今こそ貴様の正体を!」
警部がキッドのシルクハットを取った瞬間、サラリとした髪がなびいた。
「なっ!? 青子ぉ!?」
キッドは一瞬にして青子に変装したのだ。私達が動揺してる間に彼は風を起こして姿を消した。
ーーーーここからが勝負だ。遊園地の方へ走りながらコナン君に電話を掛け、ここから遊園地まで10分で辿り着けるか尋ねた。
『遊園地までだと可能だな。ただ映画館までってなると無理だけど』
「頭の良い人……例えば怪盗キッドとかだったら!?」
『何でキッド。あいつでも流石に厳しいと思うぜ』
「そっか」
10分後に青子の元へ辿り着くのは不可能。ということは映画が終わった時に隣に快斗がいなければ、キッドと快斗は同一人物ということになる。
『でも待てよ……』
電話越しにキーボードを打つ音が聞こえる。パソコンで調べてくれてるのかな。
『ドラゴンコースターってのに乗ったらちょうど映画館の上を通るから、そこで飛び降りれば間に合うんじゃねぇか?」
「へっ?」
『まっ、そんなの人間業じゃねぇけどな』
…………うそ。
思わず声がこぼれそうになった。
ジェットコースターを眼鏡でズームして見ると、白い人がコースターに捕まっているのが確認できた。そしてジェットコースターから離れたかと思えば、映画館のドームの中へと落ちていった。
『永愛……?』
「……、ごめん。また連絡するね」
急いで遊園地の中に入り映画館の方へと走った。キッドが映画館に落ちたって事は、快斗は間違いなく今青子の隣にいる。快斗がキッドであってもそうでなくてもだ。
「はぁ……っ、同一人物の可能性が高まってしまった」
「あっ! 永愛!!」
「青子、……快斗」
映画館から出てきた二人と鉢合わせてしまった。青子は私の方へ駆け寄り「快斗はやっぱり快斗だったよ」と嬉しそうに微笑んだ。そうだね、と答えたが彼女と目を合わせることは出来なかった。
「二人ともちょっと待ってて!」
「えっ」
「あ、おい!」
走り去る青子を止めることが出来ず、快斗と二人きりになってしまう。快斗の顔もまともに見ることが出来ない。気まずい空気が流れ、快斗が口を開いた。
「どうした?」
「え、ううん。何でも」
「?」
本当に目の前にいる幼馴染は、怪盗なのだろうか。皆を騙して宝石を盗んで……。
「おっおい! 永愛!? 何で急に泣くんだよ!」
「……ごめん、何でか分かんないけど……」
「どこか痛いのか? それとも何かあったのか?」
片方の手は肩に、もう片方は私の頬に触れて心配してくれる快斗。混乱し過ぎて涙が止まらなくなった。
「快斗、私達に隠してる事……あるよね」
「……っ、ハァ!? 急にどうしたんだよ」
「……」
「オメーに何を隠すってんだよ。……、何もねぇよ」
「そう」
この問いかけ方ってまるで快斗がキッドだと決めつけてるような聞き方だ。分からない。私はどういう結果を望んでいるんだろう。混乱して快斗に迷惑をかけて……。
「ごめん。しばらく会いたくない」
「は、永愛っ!?」
彼の胸を押して出口へと走った。これ以上私の嫌な部分を快斗に見られるのは嫌だ。どうして青子の様に快斗は快斗だとはっきり口に出来ないのだろう。大切な幼馴染を疑う事しか出来ないなんて最低だ。
幸い快斗は追い掛けては来なかった。鳴り響くスマホの電源を落とし、私は一人家へと帰った。
……絶対快斗を傷つけた。きっと戻ってきた青子も事情を聞いて混乱するだろう。
私が、突き放してしまった。