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安室さんがバーボンだったなんて。そのショックがあの事件から一週間経っても全く消えない。

安室さんの正体が分かった以上、彼から皆を遠ざけなければならない。でも自分の正体を哀ちゃんにバラしたということは、コナン君にも伝わっているのは頭のきれる彼なら分かっているだろう。いや、彼の中で哀ちゃんは爆発に巻き込まれて死んだことになってるのだろうか。そうなると次はどういった行動をとるのだろう。

彼は敵なのか……。その事実がまだ受け入れられない。彼が変装していたキッドとはいえ哀ちゃんに銃口を向けたのは事実。


「新谷さん、ちょっと良いかな?」
「……えっ?」


大学の校舎内を上の空で歩いていたため、反応に遅れてしまった。名前を呼ばれたし私に声を掛けたんだよね。ウェーブした髪にすらっとした体型の男性。誰だろうこの人。見たことある様な、ないような……。同じ大学の学生だとは思うけどそれしか分からない。


「俺、三年の佐藤って言うんだけど、前から新谷さんの事気になってて……」

……もしかして、この流れは告白なのかな。

「もし付き合ってる人がいなかったら、俺と付き合ってほしい」
「えっと付き合ってる人はいませんけど……」
「あー、好きな人がいるとか?」
「……」

その時、頭に浮かんだのが何故か安室さんだった。恋愛感情であるかは分からないけど、人として彼の事は好きだったし尊敬する部分も多々あった。



「……失恋したばかりなので、今は、ごめんなさい」

失恋ではないけど、この人にはそう伝えておこう。今の気持ちは失恋したのと同じような感じだし。

「そうなんだ。それなら仕方ないよね。でもまた声をかけても良いかな?」
「はい。ぜひ」

彼が去っていき、ふと思う。どうして真っ先に思い浮かんだのがあの人だったんだろう。

「……帰ろ」

いくら考えてもあの人は敵なんだ。裏切られたんだ。溜め息を吐きながら大学の正門へと足を進めた。


********************


いつのまにか夕暮れの景色に変わっていて、そういえば夕飯の材料がなかったなと思い出す。

「浮かない顔をされてますね」
「!? お、沖矢さん!」
「何かあったんですか?」
「あぁ、いえ」

沖矢さんに声を掛けられ立ち止まる。彼も買い物だろうか。
私、浮かない顔……してたかな。早く気持ちを切り替えないとな。


「よろしければこれから一緒に飲みませんか? 悩んでる時は一人でいるより二人の方が良いでしょう?」
「えっ」
「近くにオススメのバーがあるんです」
「えぇ!?」

彼は私の返事を聞かないまま腕を引っ張られ、半ば強制的にどこかへ足を進める。



立ち止まった先には少し長めの下りの階段。下に行くにつれ明るさはなくなり、怪しい雰囲気へと変わる。大丈夫なのだろうか……。


完全に信用していない人に付いて行くんじゃなかった。よく考えてみれば私この人の事全然知らないし、なんだか見た目も怪しく見えてきた。何かと理由をつけて引き返そうかな。


「逃げよう、なんて思ってませんよね?」
「っ!」

前を歩いていた彼の目がこちらに向き、恐怖で体が動かなくなった。私の考えが読まれていたのかと息をすることもできず、彼の次の行動を待つ。目を逸らされた時やっと息が出来た。

彼は眼鏡を光らせ口角を上げた。そしてそんなに怖がるな、と一言。

「入りましょうか」
「……」
「別に取って食ったりはしませんよ」
「は、はい」

怪しいから信じて良いのか分からない……。

ドアの中は薄暗いもののお洒落な雰囲気が漂うバーだった。カウンターに座らされ、マスターらしき人に沖矢さんが私の分までお酒を頼んだ。


数分後、私と彼の前にお酒が置かれた。彼はグラスを取り私に向けるので、私も同じようにする。グラスを合わせる音が鳴り、一口飲んだ。

「……美味しい」
「そうでしょう。貴女の口に合うと思いまして」


それから彼は何杯か口にしていたけれど、酔っ払う様子はなかった。私も美味しくてグラスが空になっては沖矢さんに彼のオススメを頼んでもらい飲んでいた。お酒なんて普段そんなに飲まないから、少し頭がぼーっとしてきた。

「私、沖矢さんが分からないんですけど」
「ホォ、どうしてです?」
「普通は知れば知るほど相手の事を分かってくるはずなのに、逆なんですよ。どれが本当のあなたなんだろうって……」
「それは興味深い話ですね。本当の私を突き止めてくれますか?」
「はい勿論。正体を暴いてやります。……あの人の様に」


段々と眠くなって視界が真っ暗になっていくのを感じた。
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