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コナン君から工藤邸の掃除を頼まれてしまった。掃除道具を持って工藤邸に向かう。コナン君曰く今は沖矢さんが住んでいるから蘭ちゃんには断りを入れているらしい。私はいいのか? ってところだけど。

門の前でコナン君が立っているのが見える。私の姿を見つけると手を挙げた。待っててくれたみたいだ。

「よう、わりーな」
「別に暇してたから良いよ。今日はご両親はいないよね? 後ろから口塞がれて眠らされたりしないよね?」
「ハハー……そん時は悪かったな。今日は俺と昴さんだけだ」

三人で掃除かぁ。頑張ろう。ドアを開けると沖矢さんが廊下を掃除をしていた。

「こんにちは」
「お二人ともこんにちは」
「掃除ありがとう、昴さん。僕たちも手伝うね」
「えぇ、よろしくお願いします」

そして三人で掃除を始める。それぞれ別のところを掃除することになったは良いけど、相変わらず広くてどこから掃除したら良いか分からないな。


「しまっ……」

足元にあった雑巾で滑り、水の入ったバケツが手から離れる。上には水、下には階段。全てがスローモーションに見えた。打ち所悪かったら死んじゃうんじゃないかな。最近落ちること多いな……。

しかしいつまで経っても衝撃がくることはなく、目を開けるとびしょ濡れの沖矢さんがいた。階段から落ちる手前で腕を引っ張ってくれて助かりはしたけど、彼の姿を見て慌てずにはいられなかった。

「ごごご! ごめんなさい沖矢さん!」
「いえ、大丈夫……ですよ」
「全然大丈夫そうじゃない!」
「拭いてきますね」

タオルを取りに向かう沖矢さんだが、足取りがフラフラしている。怒っているのかとヒヤヒヤしたけどどこか様子がおかしい。もしかして、と思って彼に駆け寄りおでこに手を当てると予想通りだった。

「熱ですね……」
「熱……?」
「ちょっと寝室に行ってて下さい! タオル持ってきます」

タオルを取りに行き沖矢さんの部屋に向かうと、ベッドに腰掛け頭に手を当てている。息が荒いし身体も少し震えていた。

「本当にすみません。拭きますね」
「いえ、タオルを貸してくだされば自分で拭きます。それと僕のことは放っておいてくれてだいじょう……」

言い終わる前にフラリと彼の身体が揺れた。咄嗟に腕を出すも支えきれなくて一緒に倒れてしまう。背にはひんやりとした床、そして目の前には沖矢さんの火照った顔があった。私の顔の横には彼の腕があり、彼は二本の腕で何とか身体を支えているようだった。

「あっあの、熱が上がっちゃうので、看病させて下さい」
「……自分で出来ますので」
「でもそんなフラフラじゃ……。服も着替えた方が良いですし」
「分かりました。そうするので永愛さんは出て行ってくれて大丈夫です」
「でもっ、」
「少し静かにしてくれないか」
「っ!」

ダンっと私の左耳の横で彼は床を叩いた。そして薄く閉じられた瞳が開き綺麗な緑色の瞳が見える。どこかで見たことのある瞳に一瞬目を奪われるが、先程の彼の口調を思い出しハッとなる。これが彼の本性なのか。だとしたら相当怒らせてしまったようだ。

「……すみません、少し休みます。タオルお借りしますね」
「はい」

立ち上がった沖矢さんはタオルを取ってベッドに腰掛けた。私は静かに部屋を出て何が出来るか考えたところ、そろそろお昼の時間だと思いお粥を作ることに決めた。彼の怒りがおさまってくれるのを祈る限りだ。台所へ足を運ぶとコナン君が何故か帰る支度をしていた。

「あっ、永愛。蘭とおっちゃんに呼ばれてよ、掃除任せても良いか?」
「え、はい。大丈夫だけど、それより」

バタン。沖矢さんが熱みたいなんだけど、と続けたかったのにドアが閉まってしまった。まったく、話の聞かない子だ。


********************

お粥を作り沖矢さんのいる部屋へ戻ると、彼はベッドで寝ていた。少ししたら起こしてお粥食べてもらおう。

机にお粥を置いて椅子に腰掛ける。特にすることもなく辛そうにしている彼を見る。額の汗をタオルで優しく拭くとタオルに色が付いた。彼はメイクをしている様だ。

シャツのボタンが胸元まで開いており、首にチョーカーの様なものが見えた。そういえば彼はいつも首元を隠す様な服装だった気がする。あまり沖矢さんの事をまじまじと見る機会がなかったから分からないけど、このチョーカーは見られたくないものなのだろうか。

辛そうだしチョーカーも取った方が良いのかな。彼の首元に手を当てると、薄っすらと開けた目と目が合った。

「チョーカー、取りましょうか。苦しくないですか?」
「……あぁ。必要……ない」
「そ、ですか」

いつもと違う口調に違和感を感じる。ただ単に敬語をつかう余裕がないだけなのかもしれないけど。すると荒い息をする口元がパクパクと動いた。何か言う事があるのだろうか。

「す、ぐに……」
「え?」

囁くような声に耳を傾けると彼の手が私の頬に触れた。身体が熱いから私に触れたのか何か意味があるのかは分からないが緊張する。

「助けに……行け、な……て、悪か……った」

すぐに助けに行けなくて悪かった? 私の事ではないよね? 誰かと間違えてるのかな。助けに行けなかった人がいたのだろうか。


頬から伝わる熱で何だか眠たくなってきたーー

ーーーー
ーー


不味い、そんな一言が私の眠りを妨げた。何が不味いんだろう。瞼を開けると沖矢さんが上半身を起こして、お粥を食べていた。

「おはようございます」
「あ、はい。おはようご……私、寝てましたか」
「えぇ、ぐっすりと。お粥ありがとうございます」
「……さっき不味いって言ってませんでしたか?」
「美味しかったですよ」
「でも確かに不味いって」
「食べてみます?」

笑顔で口にねじ込むようにお粥を乗せたスプーンが入れられる。一度温めに行ったのかな。まだあたたかくて、美味し……くない。

「うぅ、甘い」
「どうやら砂糖と塩を間違えてしまったようですね」
「そうみたいです。本当に申し訳ないです」
「いえいえ」

お粥も美味しく作れない女だと絶対思われた……。

彼の熱も少し引いたようだし掃除を再開しようとすると、また今度来てほしいと言われたので今日は帰ることにする。でも少し寝ただけで熱が治るなんてすごいな。

ドアを開けて外に出た時にふと思った。彼の本性は一体どれなんだろう、と。

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