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振り下ろされる拳を的確に避けていく。後ろを見ると安室さんはボクシングの構えで相手を一人、倒していた。見様見真似で拳を突き出し相手の鳩尾を狙う。相手の動きがスローモーションに見えるから、攻撃を上手くかわして鳩尾に拳を入れることができた。

一発入れただけで男は倒れ、気を失っている。やっぱり男になって筋力が上がっているみたいだ。

そして四人の男が倒れたのは、一瞬だったように感じた。思った通り、安室さんは強かった。彼にハイタッチを求められ片手をあげると、パチンと手を叩き合う良い音が響いた。

「貴方もボクシングを?」
「いえ、見様見真似で」
「へぇ。僕のを……」

彼は楽しそうに笑いながら私を上から下まで見回して言った。

「そういう風には見えなかったんですが、意外でしたね」
「?」
「面白い人を見つけてしまったな、と」

どういうことか分からず、答えられずにいるとクスクスと彼は笑った。

すると倒れた男の中の一人、毛利さんに恨みがあるらしい男がクソッ、と声を出した。それを聞いた安室さんは男の前に仁王立ちする。

「それで毛利先生にどんな恨みが?」
「……っ、あいつが浮気調査なんてするから、彼女と別れる羽目になったんだ!」

悔しそうに床を叩く男を見て、安室さんと目を合わせ私達は溜息を吐いた。

「それ、自分が悪いんじゃん。彼女の事を一途に思ってあげなよ」
「全くの同感です。毛利先生は悪くないですよね」
「っ、今までバレなかったのに……!」

やれやれだ。安室さんや子供達まで呆れている。あとは梓さんが呼んでくれた警察が来るのを待つだけかな。

「貴方とは相性が良いみたいだ」
「それは、よかっ、た……」

急に身体が熱くなった。ドクドクと血の流れる音がやけに大きく聞こえ、視界が揺れる。駆け寄って来たコナン君が心配そうに小声で話しかけてくるが、あまりよく聞こえない。

これはもしかして時間切れ……元に戻る合図なのか。そうだとすると、皆に見られるわけにはいかない。

「大丈夫ですか? まさかどこか怪我でも……」
「だ、大丈夫、です。これ、お代。ごちそうさまでした」

安室さんにお金を渡し、出口まで走る。外に出てドアが閉まる音が聞こえた瞬間、身体が元に戻っていた。幸い近くには誰もいなかったので、恐らく見られていないだろう。

「ふぅー、あっぶな……」

安堵の息をついて、建物の壁に身体を預ける。するとポアロのドアが勢いよく開き、安室さんが顔を出した。

「お客様!……あれ、永愛さん?」
「あ、こんにちは」
「今、若い男性が出てきませんでしたか?」
「ああああっちに! あっちに走って行きました!!」

適当に道を指差すと彼はそうですか、と残念な様子で返事をした。

「何か用でもあったんですか?」
「初対面の方だったんですが、せめて名前を聞いておきたかったんです」
「名前ですか」
「えぇ、彼と相性が良いみたいなんですよね。先程一緒に戦った時何をするにもタイミングが同じで」

確かに踏み出す時も相手を倒した時もほとんど同じタイミングだった気がする。相性が良いなんて嬉しすぎる。すると安室さんはあれ、と声を漏らした。

「永愛さん、その服」
「服、ですか?」
「……。いえ、なんでもありません」

服がどうしたんだろう。……もしかしてさっきの男が私だってバレた? でも何にも言ってこなかったしどうなんだろう。

「すみません。さっきちょっとした事件があって片付くまで店に入れないんです」
「今日は大丈夫です。帰るところなので」
「そうですか。またお待ちしています」

安室さんが店内に入った後、入れ替わるようにコナン君が出てきた。

「元に戻ったんだな」
「うん。危ないところだったよ」
「ったく、こっちもヒヤヒヤしたぜ。にしても安室さんもだけどすげーな、オメー」
「そうかな? 男になって力が強くなったからかも」
「男四人を倒しておいて店に一切被害ねぇんだもんな」
「全然気づかなかった。でも皆に怪我がなくて良かった」

効果が切れたし哀ちゃんに報告しないと。電話をかけると繋がった瞬間、「元に戻った?」と質問を投げかけられた。

「戻ったよー」
「効果は一時間ね。いいデータが取れたわ」
「……ハハッ」

通話の内容が聞こえていたのか、コナン君が疲れた様子で笑っていた。

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