ついにこの時が来てしまった。大学の定期試験。科目は一科目だけなんだけど。でもあの時間が嫌で嫌で仕方ない。何故なら無音状態になるから! そしたらどうなる? お腹の音が鳴り響く!!
「と言うわけでお願いします。お薬下さい!」
「どういうわけよ」
「本当あのシーンとした空間でお腹の音がなるの恥ずかしくて耐えられないの!」
「そうね……。あげてもいいけど」
「ほんと!?」
「但し条件があるわ」
そう言って哀ちゃんが出した条件は、私がある薬の実験台になる事だった。その薬とは、性別転換。つまり一時的に男になる薬。
「どう? やる? やらない?」
二つの薬を両手に持ちながら口角を上げる哀ちゃん。
「やります!」
「交渉成立ね」
男になるなんて面白そう、なんて思ってしまった。哀ちゃんは二つの薬を私に手渡し、性別転換の薬を今飲むように言われた。薬を水と一緒に飲むと、身体が熱くなった。
そして数分後ーーーー
「上手くいったようね」
「わぁ……。あっ、声が低い」
体格は大きくなったし声も低い。髪も短くなった。すごい、男になった。
「顔も中々イケメンね」
「へへ、うれしい。早速だけどこの姿で出掛けてもいいかな!?」
「良いわよ。元に戻る時は見られないようにしてくれたらね」
「了解!」
哀ちゃんと一緒に外へ出ようと玄関の扉を引くと、タイミングよく帰って来た阿笠博士が驚いた表情をしていた。
「誰じゃ? 君は」
「永愛です、博士」
「ホォ! もしかして哀くんの薬でかの?」
「そうよ。実験台になってもらってるの。それで今から出かけるから留守番お願いね」
「そうか。さっき子供達がポアロにいるのを見たから、その姿を見るときっと驚くと思うぞ」
「よし! ポアロにいっくぞー!」
博士と分かれ、向かう途中で蘭ちゃんと園子ちゃんを見かけたので、片手を上げて左右に振った。
「おーい!」
「今男だってこと覚えてるわよね?」
「おっと危ない。……やぁ君達!」
二人に声をかけると二人とも驚いた様子で曖昧な返事をした。
「えっとどなたですっけ?」
「こんなイケメン覚えてないはずないんだけど」
「ふふ、初対面ですよ。二人とも可愛いから声かけちゃいました」
そう言って微笑むと二人はキャーと声を上げた。これはナンパ成功? すると蘭ちゃんが私の後ろにいた哀ちゃんに気付いた。
「哀ちゃん?」
「あぁ、友達なんです。今も一緒にお出かけ中で」
「へぇー! 私達もこの子と友達なんですー!」
園子ちゃんが興奮した様子で答えた後、私の手を握った。自分が大きくなったからか、女の子の手があまりにも小さくて驚いた。
「私達今から空いてますよ!」
「わた……俺も空いてるんだ。良かったらこれから遊びに行こうよ」
「勿論行きます! 蘭も行くでしょ!?」
「えぇ? 私は別に……」
「蘭ちゃんも是非。皆で遊んだ方が楽しいし二人と仲良くなりたいな」
「じゃ、じゃあ行こうかな」
ナンパ大成功だ! 二人と歩き出そうとすると、哀ちゃんに足を叩かれ足を止めた。前を歩く二人は私達には気付かず歩いていた。
「どうしたの?」
「あのねぇ、いつ効果が切れるか分からないのに遊ぶ予定を入れないでくれる? ていうか実験結果を確認するために私も同伴しないといけないんだから」
「あ、そっか。ごめんごめん。じゃあ蘭ちゃん達に断ってくるよ」
ちょっと遊びたかったけど、また今度元の姿で遊んでもらおう。哀ちゃんの薬の実験なんだし約束は守らないとな。二人に謝罪と断りを入れ、彼女と再びポアロに向かった。
途中で哀ちゃんがCDショップに寄りたいというので待っていると、派手めな女性に声をかけられた。
「お兄さん、これから暇?」
「えっと、行くところはあるけど」
「お兄さんすっごいカッコいいから遊んでほしいなぁ」
「連れがいるんだ。ごめんね」
うわぁぁ! 逆ナンだ!こんな美人なお姉さんに声をかけられるなんて貴重な体験をしてしまった。誘いを断るのは申し訳ないけど、哀ちゃんにまた注意されちゃうからしっかり断らないと。
「なーに? 彼女?」
「そ、そう! じゃあね!」
「ちょっと!?」
急に腕を絡められたので、腕をスッと抜いて逃げてきた。積極的な人だなぁ。私もあれぐらい積極的にいかなきゃ彼氏なんてできないだろうな。
「哀ちゃーん!」
「その姿で抱きつかないでくれる?」
「じゃあ戻ったら抱きつくね」
「そういう問題じゃないんだけど」
彼女を見つけたことにホッと安心し、嬉しくて抱き上げると頬をビンタされたので、仕方なく下ろす。めちゃくちゃ軽かったけど、男になって筋力も上がったのかな。
しかし子供達にこの姿で会ったとして、なんて言おうかなぁ。哀ちゃんの彼氏です、とでも言おうか。
「変なこと考えてないでしょうね?」
「うっううん!? なにも?」
……やめておこう。