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「よろしくお願いしまーす……。あ、どうぞ」

今日はティッシュ配りのバイトをしている。前々からしてみたかったんだよね、と思って大量のポケットティッシュを箱で渡されたのまでは良かった。まさか着替えも用意されているとは思わなかった。

肩出しにミニスカート。こんな露出した服なんて水着以外にないよ! 周りからはジロジロと視線が突き刺さるし、ハイハイ分かってますよスタイルがいいわけでもない女がこんな格好をして見苦しいなんて。

「おねーさん、肩寒くない? 大丈夫?」
「俺のジャケット貸してあげるよ」
「へっ、大丈夫です。今日暖かいし……! ティッシュどうぞ」

二人組の男だ。見たところ私より少し上だろう。心配してくれるのは有り難いけど肩を触るのはやめてほしい。ハァ、こっそり羽織れるもの持ってくるんだった。

「ティッシュよりおねーさんが良いなぁ。これは後で配っててあげるからさ、ちょっと俺達と遊びに行こうよ」
「いえ、お金貰ってるんでそういうのは困ります」
「固いこと言わずにさー」
「あ、ちょっ!」

背中に手を当て後ろから押される。どうしよう。でも人が多いところで問題起こすのもなぁ。

人通りが少ないところまで連れてこられる。こんな男二人すぐに投げ飛ばせば……。

「おっ、いい子いるじゃん」
「近くでティッシュ配ってたんで連れてきました」

ぞろぞろと次から次へと建物の影から男が出てくる。10、20、それ以上かな。全員倒すかこの場を逃げ切るか、普段鍛えてない私にとっては体力が持つかどうか。

「こ、こわぁい!」
「なっなんだ!?」

突然の大声を出した事に驚いたのか、男達は狼狽える。生まれてこのかたぶりっ子キャラを演じるのなんて初めてだ。しゃがんでポケットに入れてあったスマホで電話する。気付かれないようにするために画面を見ずの操作だ。誰でもいいから助けて……。

スマホのバイブが鳴り止んだ。きっと誰かに繋がったんだ。後は演じるだけ。

「怖がらなくても大丈夫だよー」
「私をどうするつもりですか?」
「そうだなぁ、美味しくいただいた後にどこかに売り飛ばすかな。君可愛いから金になるよ」
「呑め呑めって居酒屋があって、その向かいには斎藤カットっていう最近閉店してしまった美容室がある人通りの少ないところで私に何を……」
「人の話聞く気ある?」

あるわけ無いだろバーロー。こんなに説明して繋がった相手が大阪組だったら意味ないよね。かと言って女の子だったら危ないし。警察呼んでくれるかな。

「じゃあ中に入ろうか」
「腕を引っ張らないで! 何ですかマルハゲビルって!」
「マルルゲビルね! 文字が消えかかってるけどハゲじゃないから」

どうしよう。写真取られたり変なことされる前に逃げたい。キッドのハンググライダーがあればビルの屋上まで登ってそのまま飛べるのになぁ。

助けは諦めた方が良さそうだ。自分でどうにかするしかない。

「とりゃあー!」

男の腹に永愛さんの蹴りが入りましたー! 一人が倒されたことによって全員が私に暴言を吐きながら襲いかかってくる。私はそいつらを迎え撃った。


********************


はぁーっと息を吐く。暴れまくってもう体力の限界。やっぱりこの人数じゃ一人で相手するのは無理だ。三分の二は倒したから誰か褒めてほしい。

「まさかこんな強いなんて思わなかったぜ。だがそろそろ限界のようだな」
「うぐっ」

男二人に片腕ずつ掴まれ、ナイフを持ったモヒカン男が此方へ近づく。

「そのナイフ、どうする気?」
「さぁどうすると思う?」
「そのモヒカン頭をカットする」
「ハッハッ、冗談はやめてくれよ」
「いや冗談じゃないから。モヒカン似合ってないから。ねぇ?」

腕を掴まれてる二人に話を振ると、「失礼なことを言うな」「あの人はあの髪型がベストスタイルだと思ってんだよ」と注意された。

「まずは下からだなぁ」
「なっ!」

ナイフでスカートが破られる。女性にこんなことするなんて本当信じられない。残った体力でモヒカン男の顎に蹴りを入れる。

「クッ! ふざけやがって! コイツを押さえろ!」
「っ!」

地面に体を押さえつけられる。男二人分の体重がかけられ完全に身動きが取れない状態になった。

「覚悟は出来てんだろうなぁ……!?」
「?」

ガツン、そんな音が部屋中に響いた。そして目の前にモヒカン男が倒れる。私を押さえていた二人も誰かによって倒された。

「だ、だれ……」
「……」

目の前に立つのは眼鏡とハイネックが特徴の、沖矢昴さんだった。そして次々と部屋に警察の人が入って来る。

「大丈夫ですか?」

彼は長めの薄いコートを肩にかけてくれて、私をじっと見つめる。

「一応。沖矢さんはどうしてここに……」
「このビルの前にパトカーが数台停まっていて、何かあったのかと様子を見に来たんです」
「ありがとうございます。助けていただいて」
「大丈夫じゃないな」

沖矢さんがボソリと呟いたと思ったら、突然彼の胸板に顔を押し付けられて訳が分からず目を白黒させた。

「えっ、どっどうされたんですか!?」
「身体が震えている。怖かったでしょう」

抱き締められると落ち着いて自然と震えが治る。このまま誰も助けに来てくれなかったら、って不安で仕方なかった。

「……良かった。助けに来てくれて」
「君は、泣かないんですね」



パトカーが見えて多分偶々通りかかった沖矢さんがこの場に現れたって事は、この辺にいた誰かが通報してくれたって事? そういえば電話、誰に繋がったんだろう。発信履歴を確認すると、アドレス帳の一番上にあったであろう赤井秀一の名前が映っていた。

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