今日のバイトはケーキ屋でした。店長がお礼と言ってケーキをたくさんくれたから博士や哀ちゃんにもあげようと思って阿笠邸に来たけど、玄関の鍵が開いていたのでこっそり静かに入った。
静かに入ったのは勿論驚かせるため。それにしても鍵をかけ忘れるなんて不謹慎だなぁ。中には博士、哀ちゃん、そしてコナン君。あれ、もしかして真剣な話してる?
「ポルシェ356A、間違いなくアレはジンのだ。まぁスケボーがなかったから追いかけることは出来なかったけどな」
「しかし何しにこの近くに」
「まさか奴らに私の!」
「いやそれはねーよ」
ポルシェって確か車、だよね。何の話してるんだろう。ってどうしよう……声かけづらいなぁ。よしなるべく大きくドアを開けて今入って来たように装おう。
ガチャッ
「!!」
「こんにちはー。バイト先でケーキ貰ったから皆で食べよう!」
「永愛、姉ちゃん」
「食器借りますねー」
「おぉケーキか。嬉しいのぅ」
「流石に永愛の前でこの話は」
「……そうね」
私に車の話を聞かれたらまずいのかな。でもそんな難しい顔してるってことは、やっぱり……。
「その外車って組織の車だったりして」
「何でその事知って……!」
「ん? ……あっ」
「ハァー」
そそそそういえば哀ちゃんから教えてもらった事はコナン君には内緒だったんだ!! どうしよう、やってしまった……。哀ちゃん溜息吐いてたし。
「オイ灰原! どういう事だ! 説明しろ!」
「……言ったのよ全部。この子殆ど気付いてたから。中途半端に知っておく方が危ないと思ってね」
「殆ど……? 組織の事もか!?」
「えぇ、貴方の事も薬も、組織も、ぜーんぶ推理していたわ」
推理なんて凄いものじゃないし、寧ろ盗み聞きしちゃったことの方が多いけど。
「!!」
コナン君は驚愕を目に表しながら私を見たけど、苦笑いを返すしかなかった。
「ご、ごめんね……。コナン君が新一君なんじゃないかって探っていくうちに、知らなくて良いことまで知っちゃったみたい」
「俺の正体がバレてるのは薄々勘付いてた。それに服部に聞いてたんだろ? コナンと新一は同一人物だよねって」
「う、うん。まぁ。服部君とコナン君の話を偶然聞いちゃったこともあって。あと服部君にも色々と教えてもらったんだよね。それでその後哀ちゃんにも教えてもらって……」
「服部もかよ!」
怒らせちゃったかな。イライラする時は甘いものだよね。ショートケーキで良いかな。
「第一、この秘密を知ってるってことはオメーも危険にムグッ!?」
「落ち着いてー」
「んんんぐっ!」
「大丈夫大丈夫。常に神経を張り詰めててもしんどくなるだけだよ。甘い物でも食べて気を緩めよう、ねっ哀ちゃん」
「そうね。美味しいわ」
「美味いのぅ」
「博士、三つ目は駄目よ」
「しゅん」
ケーキを口に押し込んでやれば、コナン君は段々と落ち着いてきた。口の周りにクリームいっぱい付いてて可愛い。私がやったんだけれども。
「……組織の奴らがどれだけ危険か分かってねーんだよ、オメーは」
「新一君の頭殴って薬飲ませるくらいだからね、危ないのは分かるよ。それに、新一君も哀ちゃんも命を狙われてるんでしょ? 私も何か助けになりたい。協力者は多い方が良いじゃん?」
「……ったく。こっちの世界は危険なんだ。わーってんのか?」
「その組織の人に会った事ないから分からないと言えば分からないな」
「貴方、会った事あるわよ。組織のジンとウォッカに」
「えぇっ!? いつの間に!」
「パン屋で働いていた日に全身真っ黒の格好をした二人組を見たんでしょう?」
「あの人達が!? まじかぁ……。私クロワッサンいかがですかって声かけちゃったよ」
「度胸あるわね」
まじでかぁ。あの二人組はトロピカルランドでも目にしている。という事は、あの二人組を私が目撃した時は新一君に薬を飲ませて去った後だったのか。その後に新一君の体が縮んだところを見た。成る程辻褄が合う。
「なぁ、一つ聞いていいか?」
「どうしたの?」
「オメーは俺の正体を知ってて、抱きついたり膝に乗せたり、あっあーんしたりしてたのか?」
そういえばしたなぁ。子供だからスキンシップも全然緊張しないし。
「うん。そうなるね」
「ありえねー……」
「でも見た目は小学生だからさ。反応も面白かったし」
「ったく、中身は子供じゃねーんだからやめろよな」
「えー。あ、今だから出来る話だけど、新一君の子供の演技プロ並みだよね」
「うっせ」
コナン君はプイッとそっぽを向いてしまった。からかってやろうかと横から頬を突いてやれば、やり返しに頬を引っ張られた。とても痛い。
「そうだ! 私ずっと気になってたんだけど、その眼鏡と腕時計ってどうなってるの?」
「あぁ、これは」
「ゴホン! これはじゃのう……」
阿笠博士がコナン君が身につけている発明品を次々と紹介してくれた。聞いていると上から下まで発明品だらけじゃないか。怖いよこの子。それにこれらを発明した博士。
そしてまさか眠りの小五郎が、蝶ネクタイ型変声機と腕時計型麻酔銃を使って推理していたコナン君だとは思わなかった。また今度生で見てやる。
何はともあれこれからは隠し事はなく、彼らと心置き無く話せることに嬉しさを感じた。