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今日は港近くのドームで歌手のコンサート準備をしていた。勿論アルバイトである。交通費もお弁当も出て最高だけど、一日中立ちっぱなしなのが辛かった。明日はきっと筋肉痛だな、と疲れて震える脚を見て思った。

そして帰りに近くで海でも見て帰ろうかな、なんて思ってしまったのが駄目だったのだ。この時真っ直ぐ駅に向かい、電車で帰っていれば今頃家に着いていただろう。


でもまさか、事件に巻きこまれるなんて誰が分かっただろう。おかしいな、新一君がいないのに巻き込まれるなんて。私に運が移ったのかな。嫌だな返したい。あぁ、また銃声が聞こえた。これで何度目だ。

「生きて帰れるかな」

この辺は倉庫や工場が沢山並んでいて、私は倉庫の壁に背中を合わせている。動きたいのに近くで銃声がするため安易に動けない。

よく考えると知り合いが周りにいないとなると、この状況はとても危険ではないか? やっぱり助けを呼ぼうか。
スマホを取り出し警察に電話を掛けようとすれば、足音が聞こえた。しかも徐々に音が大きくなっている。誰かが近付いている。

なるべく足音を立てずに逆方向へ移動する。そこの曲がり角を曲がれば、近づいていた人からは死角になるはず。

「っ!?」

曲がった先には男がいた。片手には銃。終わりだ。私は今日死ぬんだ。
しかし男は銃口を私には向けず、もう片方の手で私の腕を掴み自分の方へと引き寄せた。煙草の匂いが鼻を掠める。

「今すぐ立ち去れ……と言いたいところだが、此処には危険な奴等がまだうろついている。大人しく今から言うことに従ってくれ」

周りを警戒しながら男は、倉庫の扉を開いて中にある荷物の陰に隠れるよう私に指示した。コクリと頷くとまた銃声の音が聞こえたので、男は走って出ていった。

外では危険なことが起こっているのだろう。あの人もそれに関わっている。今出て行けば誰かに殺される。あの人を待っていても恐らく殺される。いや、でも殺すなら態々ここに隠れろなんて言わないか。

恐怖で息が苦しい。手が震える。自分はどう行動すれば良いのか。再び警察に電話を掛けようとスマホを見ると圏外になっていた。溜め息を吐き大人しく先程の男を待つしかないと決めた。


********************

それから一時間くらい経った頃、倉庫の扉が音を立てて開く。息を潜めてじっとしていると先程の男の声が聞こえた。

「もういいぞ」
「……はい」

何だろう、この人。目つきが悪くて見るからに怪しいけど助けてくれたのか。それとも今から私を殺す? どっちだ。

「安心しろ。俺は君の敵ではない」
「そんな事言われても安心出来ません」

しょ、正直に言い過ぎたー……。男の目が一瞬で鋭くなったが、私の手を見て「震えているぞ」と鼻で笑った。一応助けてもらったわけだしお礼を言ってすぐに立ち去った方が良いだろうか。そうしようと口を開くが男は私の腕を引き何処かへ歩いていく。

「ど、どこに連れて行くんですか! まさか殺す気!?」
「もう暗い。送って行くだけだ」
「送るって死の世界にですか」
「……君はもう少し警戒心を解いたらどうだ。仮にも俺は君を助けたつもりなんだが」

初めて会った人に、ましてや銃を所持してる人に心を開けと言われても無理に決まっている。掴まれた腕を振り解こうとしても力が強くて出来なかった。そのまま停まっている車に強引に連れて行かれ、男は助手席のドアを開ける。

「乗りませんよ。知らない人の車なんか」
「終電時刻は過ぎているがどうするんだ?」

バッとスマホで時間を確認すると日にちが変わっていた。元々バイトの終わる時間が遅かったのに、変な事件に巻き込まれてしまったから終電を逃してしまったのか。ここから家は遠い。タクシーを呼ぶにもお金もそんなに持ってきていないしどうしよう。ここは神様を信じるしかない……。

「……殺しませんよね?」
「君を殺す理由はない」

恐る恐る助手席に乗ると男は運転席に乗り車のエンジンをかけた。家まで距離あるし暫くの間この人と二人きり……。暗闇を走る車内は薄暗く、男がどんな表情をしているか分からなかったが、何となく分かったのは煙草に火をつけた事だった。

「煙草、苦手なんですけど」
「そうか。ところでどこに向かえば良い」

スルーされた! なんだこの人。運転席側の窓を開けて煙を外に出すようにしてくれたけど。

「米花町までお願いします」
「米花町か」
「……あの、貴方何者なんですか?」

「赤井秀一。それ以外は答えられない」
「別に名前は聞いてませんけど」
「君は変わっているな」

変なのはそっちでしょ。さっきまで銃で誰かと戦っていたみたいだし。それにしても何でこんな怖そうな人が、助けてくれた上に送ってくれるんだろう。まさか何か交換条件を出してくるとか。

「お金ならありませんよ!」
「何を考えていたのかは知らないが、君を助けたのもこうやって送っているのもただの気まぐれさ」

お金を請求してくるわけではなかったので安心した。じゃあ何が目的なんだ。本当に気まぐれなのか。この人の思考が理解できない。

「あの場所で何をしていたんだ」
「えっ、あぁ。バイト帰りに海でも見ようかと思って」
「暗いのにか」
「波の音聞くだけでも落ち着くんですよ。それなのに波の音ではなく銃声が聞こえるとは思いませんでしたけど」
「それは悪いことをしたな」


結局、家の近くまで車で送ってもらい車の外からお礼を言った。神様ありがとう。私生きてる。
極力会いたくはないが後日何かお礼をした方が良いと思い、連絡先を聞いたものの教えてはくれなかった。良かったのか良くなかったのか。

赤井秀一。名前しか知らない不思議な人。もしまた会う事があればその時お礼をしよう。


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