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「こんばんわ。お嬢さん」

怪盗キッドがまた宝石を盗んで行ったとテレビで報道している男の声が部屋に響き渡る中、ベランダには話題となっている怪盗がいた。

「怪盗……キッド?」
「おや、知っていて下さったのですか。光栄です」

ベランダの手すりに見事なバランス感覚で立ち、月明かりに照らされた怪盗さん。

「そんな所に立ってると、危ないですよ」
「ご心配なく」

彼はふわりと開いていたベランダから入ってきた。そして片膝をついたかと思えば私の手を取り唇を当てた。

「八年ぶりって聞いたのに若い。それに、見たことあるような……」
「私は変装が得意ですからね。なろうと思えば貴女にだって変装出来ますよ」
「へぇ。でも今は本来の姿?」
「それは秘密です」

覗き込むようにキッドの顔を見つめると、遠ざけるように肩を押された。

「おぉっと、これ以上はダメですよ。近付けばその唇を奪います」

そのセリフが何だか恥ずかしくて目を逸らすと、クスリと笑われる。近くで見るキッドは若くて顔が整っていた。テレビで見る限り相当な数のファンもいるみたいだし、確かにモテるのもわかる。

ふと近くで何台ものパトカーのサイレンの音が聞こえた。宝石を奪ってきたばかりなのだから、そりゃあ追われてるよね。

「早く逃げないと、捕まっちゃいますよ」
「ご忠告ありがとうございます。この出会いの祝福としてこちらを差し上げましょう」

私の髪を手に取り軽く口づけをした後、何かを手の上に乗せられた。手元を確認しようとしたが、キッドが再びベランダの手すりに立ったのでそちらに目を向ける。

「ではお嬢さん、またお会いしましょう」

そう言って彼は飛び降りた。え、飛び降りた? 慌ててベランダに出て下を見ると、見えるのは複数のパトカー。彼の姿を探せば、既に彼は夜空を飛んでいた。

「キザな人だなぁ」

真っ暗な空を眺めながら、自然と出た言葉がこれだった。そういえば何を渡されたのだろう。……ん? 何これ。もしかしてこれって。

急いで家から出てアパートの階段を降りる。複数のパトカーが並ぶ中、知っている人を発見した。

「青子のお父さんっ……!」
「ん? おぉ、永愛ちゃんじゃないか。久しぶりだなぁ」
「お久しぶりです」
「もしかして引っ越した先ってのは、この辺だったのか?」
「はい。あのアパートです。……ってそうじゃなくて! これ、さっきキッドに渡されて」

手に持っていたものを見せると、青子のお父さんやその周りにいた部下の人達が声を上げて驚いていた。

「これは、さっき奴が盗んでいった宝石じゃないかー!?」
「やっぱりそうですよね……」

先程あったことを説明すると、お礼を言われて宝石を持って帰ってもらった。キッドめ、なんて物を渡してくれたんだ。


ーー近付けばその唇を奪います。

うわぁ、思い出すな思い出すな! ブンブンと頭を横に振りながら不意に思い出してしまったものを消す。私は素直というかストレートな口説き文句に弱い。何故ならそういった言葉に免疫がないからだ。夜風に当たり熱くなった顔を冷ました。


********************

次の日、ポアロにいるコナン君を見つけて店に入る。蘭ちゃんもいないし何してるんだろう。

「こんにちはコナン君」
「あ、永愛姉ちゃん」

コナン君の隣に腰掛け、梓さんに紅茶を注文する。何故一人なのか尋ねると、学校帰りにポアロの前で梓さんに声をかけられ、探偵事務所には誰もいなかったので入ったらしい。

「そういえば昨日キッドを初めて生で見てね」
「え!? 昨日あの美術館にいたの!?」
「いや、家に来たの」
「はぁ!?」

コナン君は信じられないといった様子で目をパチクリさせていた。

「それで!? それでキッドに何かされたのか!?」
「特に何も。でも昨日キッドが盗んだ宝石渡されちゃった」

キッドは何を考えているんだ。何のために。とボソボソ言っているけど、口調戻ってるよ新一君。一人で考え込んでしまった彼の眼鏡を横からスッと盗む。

「!?」
「コナン君って伊達眼鏡なんだね」

返してと慌てる彼に背を向けて、眼鏡を色々と触ってみる。ボタンを押せばアンテナが出てきた。色々と機能がありそうだ。博士の発明品かな。

「ごめんね。眼鏡外したコナン君の顔を見てみたくってさ」
「ふーん」

彼は返された眼鏡を付けてジト目で見てくる。

「君は将来イケメンになるよ!」

笑いながらそう言えば、まだ怒っているのか眉を寄せて溜息を吐かれた。

「ねぇ。さっきの話なんだけど、キッド最後に何か言ってた?」
「えっと、またお会いしましょうって」
「そっか。奴には気をつけてね」

真剣な眼差しを向けられ、縦に首を振るとコナン君は「僕もう戻るね」と言ってポアロを出て行った。頬杖をつきドアを見つめる。

「子供に嫌われやすいのかなぁ、私」
「ふふっ、そんな事ないと思うわよ。コナン君、永愛ちゃんと話してる時表情豊かだもの」

梓さんはコナン君のコップを下げ、私に笑いかけた。

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