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04


 白ひげ海賊団に適当な島で下ろしてもらったけど、有給今日までじゃん。明日から仕事じゃん!! ……ってことで、困った時はお友達に相談だ。
 電伝虫を取り出し、スモーカーさんに連絡する。

「もしもしマイフレンド?」
「ああ? 何の用だ」
「ちょっと帰れなくて、迎えに来てほしいんですけど」
「おれはお前の保護者じゃねェぞ。そもそも今どこにいるんだ」
「やだなァ、保護者じゃなくてマイフレンドだって言ってるじゃないですか。ここ何処なんだろう。分かんないです」

 ガチャ、と切られた。冷たすぎるマイフレンド。もう一回掛けてみよっと。プライドなんて捨てて泣きつくしかない。

「スモーカーさーん! 私帰れないんですってー!」
「自分で行ったんだろ。責任もって帰って来い」
「多分ウォーターセブンの近くの島です。高い灯台がある小さな島です」
「あー……」
「その反応はどの島か分かったんですね!? じゃあ待ってるので来て下さい!」
「悪ィが今から仕事だ」
「仕事と私どっちが大切なんですか!?」
「仕事」
「そんな!!」

 何の話してんの? とスモーカーさんではない別の誰かの声が聞こえた。この怠そうな声は恐らくクザンさんだ。

「クザンさん! この際貴方で我慢します! 迎えに来て下さい。私明日にはそっちに戻ってなきゃいけないんです」
「あー、何かすごい言われようだなァ」
「この間の事は水に……いや海に流してあげるので」
「ハァ、仕方ない。これ以上避けられるの傷付くしなァ」
「やった! 流石クザンさん! 大好き!」

 良かったー! これで安心。彼の自転車なら船酔いの心配もないし。
 一人喜んでいると向こうから「但し一つ条件がある」と聞こえた。

「おれと一日デートすること」
「「ハァ!?」」

 スモーカーさんと声が重なった。そうだよね、何言ってんだこの人って思ったよね。流石マイフレンド。思うことは同じ。

「嫌なら迎えはなしね」
「わーい! クザンさんとデート嬉しいなー! むしろご褒美じゃなーい?」

 何故デートを所望しているのかは分からないけど、頼みの綱は一つだけ。待ってるしかない。そういえば事あるごとに彼にはお世話になってる気がするな。


 あれは私が海軍に入ってから間もない頃。

ーーーー
ーー


 ヒリヒリした頭を押さえて海軍本部の廊下を歩く。海軍から抜け出そうとしたらまたじぃちゃんに捕まって殴られた。早くエースと合流して私も海に出たいってのに。海に出て旅をした方がロシーを見つけれるかもしれないし。

「おい、あれ。何で一般海兵がこんな所彷徨いてんだよ。今、鍛錬の時間じゃねェのか?」
「ああ、あいつな。ガープ中将の孫で特待生らしいぞ」
「良いご身分だな」
「鍛錬も掃除もサボってるって聞いた」
「チッ、新入りが。調子づいてんじゃねェ」

 あー、何だか私の悪口言ってる気がする。面倒だ。鍛錬も面倒だしサボっていたら友達なんて出来やしなかった。皆決められた制服を着て規則を守って。ここにもっと自由な人はいないのか。

 悪口を言う二人とは別に、前からコートを着た男達が歩いてきた。そのうちの一人は私の二倍近くの身長だ。

「おい、お前」
「……何でしょう」
「何サボってるんだ。さっさと鍛錬に戻れ」
「竹刀を素振りするのに何の意味があるんだよ。私は剣は使わない」
「お前の戦闘スタイルなんてどうでもいい。上官の命令に背けば厳しい罰が与えられる。たとえそれが特待生でもだ」

 面倒だ。じぃちゃんは好きな様にしたら良いって言ってたのに全然自由じゃないじゃないか。……そうだ、上に逆らって海軍を追い出してもらう手があるじゃないか。

「じゃあ君、おれが相手してあげようか」
「クザン大将……」
「大将?」
「君がガープさんの孫でしょ。どんなもんなのかお手並み拝見だ」

 鍛錬に戻れと言う男を押し退けて私の前に立ったのはクザン大将だった。初めて会ったけどこの人には勝てないとすぐに分かった。でも一度戦ってみたくて飛びかかるが、攻撃が当たらず自分の拳が奴の体をすり抜ける。ロギア系の能力者か。
 何をしても攻撃を避けられて、一瞬で両足を凍らされた。

「じゃあ君はおれに勝てるまで鍛錬する事」
「……」

 動けない私の額に指を当てて彼はそう言った。下から睨むと彼は一瞬目を細め、口を尖らせた。

「なに。おれに勝てると思ったの。ガープさんの孫っていうからもっと強いかと思っちゃったなァ」
「ぜーーったい! アンタに勝つからな」

 一つ、目標が出来た。それから私は彼を見掛ける度に攻撃を仕掛けては返り討ちにされた。いつも怠そうにしててアイマスクをして寝ている時だってあるのに、彼に触れることすら出来ない。
 私は彼に勝ちたいことに必死で、海軍を抜け出すことなんてすっかり忘れていた。


 ある任務の時だった。クザン大将が指揮をとる任務で、海賊に襲われている島での出来事だった。島にある一番大きな建物が海賊によって燃やされ、中には一般市民が大勢残っており海軍は避難誘導をしていた。

 一般市民の避難を終えたから一度船に戻ると、海軍大佐の男が言った。しかし建物の中でまだ声がする。誰も聞こえていないのか。

「まだあの中に人がいます」
「確認したがもういない。さっさと持ち場へ戻れ」
「いるって言ってんだろ!」

 燃える建物に向かおうとすると腕を引っ張られて戻れと言われる。

「いいか、おれは大佐だぞ。一般海兵が口を慎め」
「上がそんなに偉いのか!?」
「ここでは階級が高い方が偉いんだ。上に認められている」

 私より弱いくせに。階級がそんなに偉いのか。それならこんなところ……。

「じゃあおれがこの子の発言を認める」
「く、クザン大将……」
「それで、何だって?」
「まだあそこに人が残ってるんです。行かせてください」
「ありゃ危険だ。おれが行ってくるから、他のとこ行っといで」

 クザンさんはそう言って炎の中に入って行き、数分後に泣き喚く子供と一緒に出てきた。

「まだ中に人がいるってよく分かったな」
「声が聞こえたので。……クザン大将、ありがとうございました」
「良いの良いの。こういう時は頼りなさいよ」

 大きな手が私の頭の上に乗った。じんわりと胸が熱くなる。
 この一件で私はクザンさんの事が大好きになって、彼を見掛ける度にしていた攻撃は挨拶に変わった。

「クザン大将ー! こんにちは!」
「あらら。イリスちゃん、最近は可愛く挨拶してくれるようになっちゃって」
「はい、私クザンさんの事大好きなので!」
「若い子にそんなこと言われておじさん嬉しいよ。……猫のようなだった君が犬みたいになっちまったなァ」


********************


「懐かしいな」
「イリスちゃん?」

 迎えに来てくれたクザンさんの自転車の後ろに乗って小さく笑う。

「昔はクザンさんの事大好きだったなーって話です」
「歯向かってくるかと思ったら懐いてくれて、まァ今ではおれをパシリにつかうようになっちゃって」
「海軍入って最初の友達はクザンさんですよ」
「こんなおじさんを友達だって言うのは君くらいだよ」
「昔っからクザンさんは優しいですよね」
「どうだろうね」

 ひんやりした海を自転車で走る。有給中どこで何してたのか聞かれたけど、聞こえないふりをして買っていたお土産を渡した。


 後日、ちゃんとクザンさんとデートした。



 お土産は後輩くん達にも買ってきている。派手な髪色をした見回り中の二人に声を掛けた。

「コビー! お土産持ってきたよー!」
「イリス中佐、何処か行かれてたんですか?」
「うん、有給一週間もらっててさー」
「通りで最近見なかったわけだ」
「あ、ヘル……何だっけ」
「ヘルメッポだ! いつになったら名前覚えるんだ」
「ヘルヘルの分もあるよ。どうぞ」
「覚える気ねェな?」

 お土産を渡すと二人は嬉しそうに声を上げてお礼を言った。

 あと白ひげに高い酒を匿名で送らないと。あの大きな身体だ。とてつもない量の酒じゃないと満足しないだろうな。お金がぶっ飛んでいくけど助けてもらったんだ。仕方ない。暫くは大将達に媚び売って節約しよーっと。


********************


 最近噂のルーキーがこの島にいると耳にし、急いで向かった。運良く会うことができて行く道を塞ぐ。

「トラファルガー・ロー」
「チッ。お前は海軍の、イリス……だったか」

 私を見て彼は舌打ちをし、能力を使おうとするが私は両手を上げた。

「アンタとは戦う気はない。聞きたいことがある」
「は?」
「ロシーと知り合いなの?」

 初めて彼の手配書を目にした時、この人がロシーの言ってた"ロー"だと分かった。彼なら今のロシーのことを何か知ってるかもしれない。

「やはりお前がコラさんが言ってた"イリス"か。コラさんはおれの恩人だ」
「えっ!? そうなの!?」
「……急に態度を変えるやつだな。調子が狂う」
「ロシーは今どこで何しているか知ってる!? 海軍を辞めたって聞いて連絡すら取ってないんだ。会いたく、て……」

 彼はスッと目を逸らしたので嫌な予感がした。閉じていた口を開こうとして、待って言わないでと心の中で叫んだが声が出なかった。

「海兵なのに知らねェのか? コラさんは十一年前に死んだ」
「死んだ……?」


 そこからどうやって海軍本部に戻ったのか覚えていない。いつの間にかセンゴク元帥の所に来ていて、彼の机に両手をついた。

「センゴク元帥、本当の事を教えてください。ロシナンテ中佐について」
「……急だな」
「彼は、海軍を辞めたのではなかったのですか。……死んだのですか」
「!! 誰から聞いたんだ」
「とある、海賊から」
「……そうか。隠すつもりはなかったんだが。あの時お前は幼かっただろう、ショックが大きいと思って本当の事を言えなかったんだ」
「やっぱり、死んだ……んですね」

 ああ、と頷いたセンゴクさんを見て目尻が熱くなった。


 ずっと憧れていた人。
 ずっと探していた人。
 ずっとーー会いたかった人。



 気付いたら部屋を飛び出していて、下を向いて走っていた。ドン、と誰かにぶつかる。ボロボロになった顔を上げると、スモーカーさんがいた。

「前見て走れ……って、お前なんつー顔してんだ」
「すもーかーさァァん……」

 彼の大きな体に飛び乗り、首に足をかけて彼の頭を覆うように抱えた。「おい」とか「何すんだ」とか文句は聞こえるが、引っ剥がされることはなかった。

「何があった。……言いたくなきゃ言わなくてもいいが」
「ずっと憧れていた人がいて。その人が何年も前に死んでいたって知って」
「……そうか」

 つらい、悲しい、寂しい、色んな感情が入り混じって呼吸が浅くなる。
 辛かったな、と大きな手が私の背中を叩いた。

「私、スーツとかネクタイとかキッチリしたの好きじゃないんです」
「そういや私服は緩いの着てるな」
「憧れてた人と同じ格好して、同じ階級になったら、もしかしたら会えるんじゃないか、見つけてもらえるんじゃないかって思ってて」
「ああ、それで昇進を蹴ってたわけか」

 ポタリ、ポタリ。

 目から溢れ出る涙が彼の顔に落ちる。彼女の涙が落ち着いた後も、二人の体制は暫くこのままだった。視界のほとんどがイリスの体に遮られているスモーカーは静かに歩き出す。すれ違う部下は彼の姿を見てぎょっとし、言いかけた挨拶は途中で止まる。

 そんな部下の様子を気にもせず、彼は自分の顔に巻きつく彼女をどうしたものかと考えていた。どう慰めの言葉をかけて良いのか分からなかった。こうでもないああでもない、と自分だけのやり取りを何度も脳内で繰り返す。

「イリス」
「……」
「飯でも食いに行くか」
「たくさん、食べたいです」
「おう」

 スモーカーはこんなに泣いている彼女を見たことがなかった。いつも見ているのはお調子者の彼女。いつもとは異なる姿に柄にもなく動揺していた。

 この辺りでは有名で以前彼女が行ってみたいと言っていた個室の飲食店に連れていく。彼女は出てきた料理を無言で頬張り、お世辞でも綺麗とは言えない食べ方で次から次へと料理を口の中に入れていった。
 スモーカーはそんな彼女を横目に酒に手を伸ばした時だった。彼女の手が止まり変に思ったスモーカーは彼女を見てぎょっとした。

 ご飯を詰め込んだ両頬はこれ以上ないくらいに膨らんでおり、その頬に大粒の涙が伝っていた。空の皿の上に涙が音を立てて落ちていく。

「うっ……ひっく……」

 料理の味なんて分からないほど彼女は泣いていて、スモーカーはただ彼女を見つめることしか出来なかった。


********************


翌日。

「いやー、昨日はみっともないところを見せてしまってすみません」
「もう落ち着いたのか?」
「えっ、もしかして心配してくれてたり? いつも怒ってばかりのスモーカーさんがァ?」
「人が心配してやってんのにお前は……」
「ギャー! モクモクしないでー!」
「待て!!」

 たくさん泣いた。今こうしていられるのはスモーカーさんのお陰だ。

 怒る彼から逃げていると、胸ポケットから子電伝虫が鳴った。ここに入れた覚えはないけど、いつの間に入ってたんだろう。とりあえず鳴っているし出てみるか。

「はいはーい誰ですか」
「おれだ」
「オレオレ詐欺はもう流行ってませんよー」
「今一人か?」

 物陰に隠れ、スモーカーさんが見えなくなったのを確認する。

「うん。あ、この子電伝虫入れたの君だったんだね……トラファルガー」
「ああ」

 ロシーの情報を教えてくれた海賊。ロシーが助けようとした人。多分、彼は良い人なんだ。

「昨日はごめんね、話の途中でどっか行っちゃって」
「気にしてねェ」
「ちょうど良かった。聞きたいことがあってさ。ロシーの事詳しく聞きたくて。何で死んだの? 病気……とか?」

 私が彼に会っている時はいつもドジしてボロボロだったけど、健康状態だったはずだ。病気では多分ない。だけどそれを口にするのが怖かった。

「いや……、殺されたんだ」
「……だれに? 海賊?」
「殺したのはあの人の兄、ドンキホーテ・ドフラミンゴ」
「ドフラミンゴ……?」
「知ってるだろ。王下七武海の」

 知ってるも何も話したことだってある。ロシーの兄がドフラミンゴ? そしてドフラミンゴに殺された? やっぱりドフラミンゴは……"悪い"海賊だ。

「殺す……」
「待て。ドフラミンゴをやるのはおれだ」
「アンタより私の方が強い」
「冷静になれ。アイツの強さは知ってるだろ。お前一人で敵う相手じゃねェ。それにアイツ一人じゃねェんだ」

 息を吐いた。彼の言う通り冷静に判断しなくては。

「おれに奴を討つ策がある。その為にお前に連絡を入れた」


 ーー私は彼とある約束をした。二年後にトラファルガーと一緒にドフラミンゴを討つ。


 彼の考える策を全て聞き終わり、彼が電伝虫を切ろうとしたが、もう少し話をしたくて引き止めた。

「トラファルガー、私が知らないロシーの話を聞きたい。アンタとどんな日々を過ごしたのかを」
「……ああ」

 目を閉じてロシーの顔を思い浮かべながら過去の話を聞いた。ああ、やっぱりロシーは人一倍優しくて。


 また会いたい、と叶わぬ願いを口にした。