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03


 東か西か分からないけど適当に歩いてたら、岸にめちゃくちゃ大きな船を見つけた。この船なら船酔いの心配もなさそう。他に船はないしピノキオが言ってたのはきっとこの船だろう。

 出航するまでちょっと中で休ませてもらおう。船の中にはいくつかドアがあって、中に入るとベッドがあったので借りたらいつの間にか眠っていた。


 眠りについてどれだけ時間が経ったのか、外が騒がしくて身体を起こすと船が揺れている感覚がある。寝ている間に出港したのだろう。お金を払うために部屋から出て歩くと話し声が聞こえてきた。

「……」

 なんか、違うな。この船、普通の船じゃない。姿が見えたのは二人の男で、私の存在に気づき誰だと声を上げた。構えた銃を発砲される前に男達に接近し、銃を蹴飛ばした。そして首の後ろに手刀を入れて気を失わせる。

 やばい、この船……海賊船だ。

「お前、誰だ」
「!!」

 背後をとられた。全然気づかなかった。この男……強い。両手を上げて戦う意思がないことを伝える。

「どこの海賊だ」
「海賊じゃないです。乗る船間違えたんです嘘じゃないですごめんなさい何でもするんで許して下さい。いや何でもはやっぱなしで」
「そんな嘘信じるかよい」

 やばいどうしよう殺される。

「仲間は何人いる」
「一人旅してたんですって。ほんと間違えただけで。勘弁してください」
「……」

 男は黙ったまま私の手足を縄で縛った。やばいよ、ボスの元に連れてかれるよ。ていうかこの変わった頭の手配書見たことあるな。確か……不死鳥マルコだ。この人どこの海賊団だっけ。

「マルコ隊長! 何かありましたか!?」
「侵入者だよい。オヤジのところに連れていってくれ」
「了解です!」

 部下らしき男が駆けつけ、縛られた私を脇に抱える。この人は手配書出てるっけ。知らないな。話しかけると返事をしてくれた。

「ここってどこの海賊団ですか」
「ハァ? お前ここがどこか知らないで侵入したのか? ここは白ひげ海賊団の船だ」
「白ひげ? 白ひげってあの!?」
「ああ、あのよん……」
「エースのところの!」
「そうそうエースのところのって違うわ! いやエース隊長は二番隊隊長だから合ってんだが。白ひげって言ったらまずは四皇って驚くだろ」
「ああ……」

 別の四皇には最近会ってるからさ。それにしてもまじかー。エースのところの船に乗っちゃったよ。

 甲板に出ると海賊がいっぱいいて、真ん中に白ひげがドシリと座っていた。大きすぎて迫力やべえ。エースの姿は見当たらないし私死ぬかも。

「オヤジ、侵入者だよい」
「何人だ」
「一人」
「グラララララ! 一人でこの船に侵入してきたのか」

 手足を縛られているせいで白ひげの前で跳ねることしか出来ないが、気持ちは全力で土下座している。

「ごめんなさいってば。乗る船間違えたって何度も言ってんですけど。女ヶ島に行きたかったんだって」
「こいつの言ってることは本当か?」
「確証がねえよい」

 白ひげ怖いィィィ! デカすぎだって。縛られてるから逃げることも出来ないし、もう助けを呼ぶしか。


「エースゥゥゥ!! エース助けてェェェ!」

 大声で彼の名前を叫ぶと、周りにいた海賊達はざわついた。

「呼ばれてるぞエース」
「あ? 何してんだ、イリス」

 男達の中からひょっこり顔を出したのは幼馴染のエース。良かった、いたのか。安心感が半端ない。

「エース、知り合いか?」
「ああ、小せえ頃からのな。弟みてえなもんだ」
「弟……?」

 エースに聞いた人が私を見て首を傾げている。そうだよな、どう見ても私は女だよな。あいつの目がおかしいんだ。それに同い年なのに誰が弟だ。

「オヤジ、こいつアホだから本気で船間違えたんだよ。縄解いてやって良いか?」
「好きにしろ」
「エースゥゥゥ」

 縄を解いてもらい、体が自由になったのでエースの背中にしがみついた。離れろと怒られるけど絶対離れない。エースがいなかったら多分死んでた。

「疑って悪かったよい」
「いいよい」
「何マルコの真似してんだよ。つーか早く離れろ」
「離れん。絶対にな」
「イリスって言ったな。海賊か?」
「……違うよい」
「ああ、コイツはかいぐ……」

 周りにバレないようにエースの背中を抓った。海軍って言ったら私確実に死ぬじゃん。敵だぞ、バカなのかコイツ。私の言いたい事が伝わったのか、エースは考える仕草をした。

「かいぐって何だよい」
「買い食いするのが癖のただの一般人だ」
「一般人におれの部下が二人もやられるかよい」

「やったのか?」「うん、やっちゃった」と目で会話したらエースに溜息を吐かれた。

「小せえ頃おれと一緒に修行してたから、ある程度戦えんだわ」
「成程な」
「驚いて殴っちゃったんです。ゴメンナサイ」

 エースの背中から顔を出して話すとマルコは呆れたと言わんばかりに笑っていた。

「お前、女ヶ島に行きたいんだって?」
「うん。今休暇中でさ」
「あの島男子禁制だぜ。知らねえのか? それと今向かってんのは女ヶ島とは別の方角だな」
「エースお前、イリスはどう見ても……」

 彼の言葉に私はフルフルと首を横に振った。

「良いんです、マルコさん。コイツ昔からアホなんで。仕方ない、女ヶ島は諦めるか」
「アホはイリスだろ。間違えて四皇の船に乗る奴がどこにいんだよ」
「ハッハッ、何とも言えない」

 エースがいるから殺される心配はないにしても、海賊にお世話になるわけにはいかないしどうしたものか。

「おい、エースの弟」
「はい! 白ひげさん!」
「次の島まで乗ってけ」
「良いんですか!?」
「グラララララ! 息子の兄弟もおれの息子同然だ」

「オヤジィィィ!!」

 自分より遥かに大きい白ひげに抱きついた。




 白ひげ海賊団に少しの間お世話になることになった。海軍の誰かにこの事がバレたら怒られるどころの問題じゃないな。逆にここで私が海軍ってバレたら命はないだろうな。誰にもバレませんように!

 この船に乗ってる間は白ひげには媚び売っとかないと。白ひげの大きな身体に抱きつきながらお礼を言った。

「オヤジ、お礼に今度美味しくて上等なお酒を贈るね」
「グラララララ! 期待せずに待ってやるよ」

 白ひげ良いやつ。エースが惚れたのも分かる。白ひげは点滴を変える時間になったようなので、離れてエースの背中に向かって走った。

「エースー!」
「うおっ、急に飛びつくな」
「エースがいて良かった。少しの間よろしくね」
「この間は寝てる間におれを追い出したくせによ」
「だって上に見つかったらどうすんのさ。誰にもバレなかったんだからありがたく思ってよ」
「へーへー。てか暑いから離れろ」

 くっついてたら大将達は喜んでくれるのに。あと白ひげも。おかしいな。エースは思春期なのかもしれない。
 エースの背中にしがみつきながら考える。残り四日の有給中に海軍本部に帰れるかが問題。まあ死ぬよかマシだし、のんびりして良いか。クザンさんかスモーカーさんにお願いしたらきっと迎えにきてくれるだろうし。

「はぁ……」
「人の背中で溜息吐くな」
「不安で死にそうだ」
「お前、情緒不安定かよ」

 お前ら仲良いな、と周りの人達が温かい目で見てくる。年上が多いせいか、親戚のおじさんのような目だ。

「イリスって言ったか? 菓子食うか?」
「お菓子!? 食う!」
「おじさん達にはこれはあんまりだったみたいでな」
「こっ、これはマシュマロ!?」

 リーゼントのような髪型をした男が袋いっぱいのマシュマロをくれた。早速食べてみると美味しすぎる。……あ、そうだ。

「エース、ちょっとだけ燃やして」

 マシュマロを差し出すとエースは小さな火をつけてマシュマロの表面を焼いてくれた。

「ん、ほら」
「出来たー、焼きマシュマロ!」

 便利な能力だ。島を出てからエースはいつの間にか能力者になっていて、悪魔の実を食べたって聞いた時は驚いた。

「ブッ、エースお前、随分と雑な扱い受けてんだな」
「ああ、昔からコイツはこうなんだ。世話が焼ける」
「面倒見てるのはこっちだけどね」
「いつおれが世話してもらったんだよ」
「ほら、エースって子供っぽいから」
「どこが、ムグッ!?」

 マシュマロを口に放り込むと煩かった口が静かになって、彼の目が輝いた。

「美味いなこれ。もっとくれ」
「仕方ないな」

 エースもマシュマロにハマったようでパクパクと口に入れていた。あっという間に沢山あったマシュマロは無くなり、マシュマロをくれた男は「よく食うなお前ら」と笑っていた。

「そうだ、エース。この前壊したドアの修理まだじゃねえのか?」
「やべー、そうだった! 行ってくる!」
「おう」

 エースは船内を走るので振り落とされないようにしがみつくけど、ドアの修理か……。面倒そうだな。命を狙われることは多分もうないし、船内を探検でもしようかな。

「じゃ、修理頑張ってねエース」
「おう。……一応言っておくけどよ、油断し過ぎんなよ」

 うちの仲間に手を出すな、とかじゃなくて私の心配か。敵の立場なんだけどな。

 エースとわかれ、船内を歩いていると波が激しいのか船が揺れる。
 ヤバい、ちょっと気分悪くなってきたかも。船酔いだろうな。やっぱり海が荒れてると大型船でも揺れる。トイレはどこか分からないから、海に吐くか。

 ふらふらと船の端へ歩いていれば、後ろから声を掛けられる。しかし振り向く余裕もなくその場で膝をついた。

「おい、大丈夫か!?」
「……っ、も、だめ」

 心配して駆けつけてくれた人の足元で吐いた。誰か分からないけどごめんーーーー

ーーーー
ーー

 目が覚めるとベッドの上だった。上体を起こして周りを確認するが誰もいない。そこへガチャリとドアが開いて男が入ってきた。

「マルコ隊長、頼まれてたもの持ってきましたよー……って何で海軍がここに!?」

 やばっ! 誰だか分からないけど、私の事を知っているみたいだ。

「やだなァ、私はただの一般人ですよ」
「誤魔化したって無駄だ。お前、海軍中佐だろ。昔おれの仲間を倒しやがった」

 騒がれる前に男の頭を殴って気絶させて、私が寝ていたベッドに寝かせた。これでよし。
 数分後、開いたドアから入ってきたのは不死鳥マルコ。

「目が覚めたか」
「うん。誰かに吐いちゃったような気がするんだけど、誰か分かります?」
「ああ、イゾウだな。今風呂に入ってる」
「あー、申し訳ない」

 イゾウ……聞いた事ある名前だな。多分、その人も隊長だ。マルコはベッドで寝ている男に気付き指をさした。

「……この頭のたんこぶは何だよい」
「眠いっていうからベッドに寝かせてあげたら、寝返りの時に思いっきり壁に頭ぶつけてた」
「どんくせェ奴だな」

 よし、なんとか誤魔化せたみたいだ。彼は箱から小さな袋を取り出して私に渡した。

「酔い止めの薬だ」
「申し訳ない」
「船酔いするんだったら最初から言えよい」
「こんなに揺れるとは思わなかったんです。あ、今後のためにちょっと多めに下さい」
「普通遠慮するだろい」

 そう言いながらもマルコは薬を数日分くれた。ありがたい。

「ありがとう。マルコさんってお医者さん?」
「ここの船医だよい」
「マジかよい」

 強い上に医者なのか。すごいなこの人。 海軍ってバレなければこの人に薬を貰いにくるのも良いかもしれない。


「気が付いたのか?」

 そう言って部屋に入ってきたのは着物を着た女の人?……いや、男の人だ。この人がイゾウか。

「先程はすみませんでしたでござる」
「いや、大丈夫だ。船酔いか?」
「はい。お薬も頂きましてすっかり回復しましたで候」
「随分変な話し方だな。さっきエースと話してた時もこんな感じだったか?」
「間違ってるでござったですか」
「間違ってると言うか、変だな」

 着物着てるしこんな感じの方言かと思って話してみたけど違ったみたいだ。難しい。

「イリスって言ったよな。前にどこかで見たことある気がするんだが……」
「きっ、気のせいでは?」
「この間黄猿と歩いてなかったか?」
「あっ、あー! そういえば街でぶつかっちゃって、お詫びにってアイス買ってもらったんですよ」
「なんだそうだったのか」

 ハーーッ! あっぶねーー! 冷や汗が止まらないよ。あの時は美味しいアイス屋が出来たから食べに連れて行ってあげる、ってピカピカ大将に言われて一緒に食べに行ったんだよな。

「じゃあ私、エースのところに戻るで候」

「……変な奴だな」
「変わってるよい」


 さっきエースと分かれた所に着いてエースを大声で呼ぶと、気付いた船員達が彼の元に案内してくれた。親切な人達だ。

「エースくーん、修理終わったー?」
「終わった終わった」
「次の島着くまで何かしようよ」
「そうだなー。おっ、そうだ。部屋に良い酒があんだよ」
「酒よりお菓子が良い。あ、あと眠いからベッド貸して」
「自由な奴だな」
「アンタもね」
「気にいるのがあるか分かんねえけど、菓子もあるぜ」
「やりィ!」

 彼に着いて行き、部屋に入りベッドにダイブする。あー、エースの匂いだ。昔は同じ部屋で布団並べて寝てたっけ、なんて昔の事を思い出した。

 お菓子とお酒をテーブルに置く音がしたので、テーブルの前まで行って腰を下ろした。

「そういや、小せえ頃に言ってた憧れの奴には会えたのか?」
「ううん、やっぱり海軍にはいないみたいでさ。手掛かりもなし」
「へー。そいつに会ったらイリスは海軍辞めんのか?」
「……どうだろう。その人がどうしてるのかにもよるし、海軍の掲げてる正義が嫌になったら出ていくだろうし」
「お前の考えてることは分かんねえけどよ、困ったら言えよ」
「エース……。男前だね」
「男に褒められても嬉しくねえって」
「……」

 それからエースが出航してからの事、私が海軍に入ってからの事を沢山話し合った。こんなにゆっくり会話したのはフーシャ村を出てから初めてだ。やっぱり海賊って色んな旅をしていて自由で楽しそうだ。私もいつかは彼のようになりたい。


********************


 それから数日後、白ひげ海賊団の船は近くの島に着き、下ろしてもらった。

「エース。今回は世話になった。今回は」
「いつも世話してやってるだろ。まあ元気でな。つってもまた会うだろうけどよ」
「もう潜入するなよ。少しの間だったけど、エースと旅が出来て楽しかった」
「おう、おれもだ。やっぱイリスと一緒にいるのは楽しいな」
「そうだ、ルフィがこの間出航したって聞いたよ。またアイツにも会いたいな」
「ヘェ。そりゃ楽しみだ」

 エースと別れてオヤジにも頭を下げる。手を振って出航を見送ると、大きな鳥が此方に向かって飛んできて私の前に下り立つ。

「言い忘れてたよい」

 その鳥は人間の姿にーーマルコになった。

「貸し、一つな」
「まさか……」

 口角を上げながら言う彼に顔が引き攣った。いやいやそんなまさかね。

「知らないわけねえだろい。お前、海軍大将のお気に入りって結構有名なんだよ」
「このご恩は決して忘れません!!」
「ふっ、じゃあな」

 また会ったら挨拶しに乗り込もうなんて考えてたけど、出来そうにない。マルコはまた不死鳥に姿を変えて船の方へ飛んで行った。


 白ひげ海賊団、恐るべし……。