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 音楽の島、エレジアで世界の歌姫「ウタ」がライブを開催するらしく、麦わらの一味も会場へ向かった。最近、ウソップやブルック達がよく音楽を聴いているなと思っていたけど、ウタの歌声だったんだ。

 まだ誰もいないステージを見つめながら、お酒に手を伸ばすがそのお酒は横から取られてしまった。

「あー! それ私のお酒!」
「誰のもんでもねェんだからいいだろ」
「よくない! 返してお酒泥棒」

 腕を伸ばしてもお酒には届かずゾロの胸筋を叩いたが、何の意味もなく彼はぐびぐびとお酒を飲んでいた。悔しい。

「渚ー! 肉焼けたぞー!」
「あっ、美味しそうな匂い」
「そんなでけェ肉レディに食わせられるか。どうぞ、こちらローストビーフです。おれの愛がこもった……」
「うっめー!」

 腕が伸びてきてお皿の上に乗った肉が消えた。勿論犯人はルフィなわけだが、サンジはプルプルと肩を震わせて怒っていた。

「なぜわしらはこんな格好を?」
「初ライブを盛り上げるためにコスチュームを着てきたらコレもらえるんだ!」

 一番派手な格好をしているウソップが沢山の缶バッチを嬉しそうにジンベエに見せていた。

「U・T・A! ウタちゅわーん!」
「くだらねェ」
「あァ? クソ剣士もう一度言ってみろ。てめェをジューシーに焼き上げてやるぞ」
「やってみろグルグルマーク」
「もう、二人とも。もうすぐ始まる……」

 二人の間に入った瞬間、会場のライトが消えてステージの中心にスポットライトが当たった。

 そして綺麗で力強い歌声が会場内に響き渡った。彼女の歌声は鳥肌が立つほど圧倒された。歌唱力は勿論、彼女の世界に引き込まれるような感覚さえした。

 美味しいご飯を食べながら、素敵な歌声を聞いていたのにルフィからあの歌姫はシャンクスさんの娘だと聞かされるし、歌姫を襲いに海賊が現れるし、驚かされることの連続だった。


「ねえルフィ。海賊やめなよ」

 歌い終わったウタが私達の前にやってきて放った言葉にドキリとする。彼女は本気でルフィにそう言っている。ルフィはそんな彼女の言葉に何を思ったのか、それとも聞き流したのか帰って寝るとあっけらかんと返事して、ウタの表情は段々と曇ってくる。

「帰らせないよ。ルフィとあなた達はここで永遠にずっと私と楽しく暮らすの」
「何言ってんだ? お前」
「ウタ、あなたの歌は好きだけど、流石にずっとは……うわあっ!」

 ウタの能力でナミが上へ飛ばされた。歌姫の態度が豹変したことに背筋が凍る。

「ナミさん! あっ」

 サンジもナミのように上へ飛ばされ、五線譜に貼り付けられてしまった。皆が身構える中、隣にいたゾロは私の肩を抱き自分の方へと引き寄せた。

「渚、おれのそばから離れんなよ」
「う、うん」

 それから歌姫は歌い出し、能力で皆を捕えた……のだと思う。

 近くにいたゾロが捕まり、私も捕まりそうになった時、突然視界が変わり真っ暗になった。
 いつの間にか死んじゃってたなんてことないよね!? 一人焦っていると誰かの手が腰に回り、グイっと引っ張られる。驚いて声を上げたのと同時に知っている匂いがして、目の前には見たことのある大胸筋。

 あァなんだ彼か、と知っている人で胸を撫で下ろした。綺麗に割れた腹筋はいつ見てもうっとりしてしまう。

「ローだよね?」
「ああ」

 腰を抱かれながら明るい場所まで歩き進めると、いつもより派手な服に身を包んだローが隣にいた。彼は私を数秒見つめた後、静かに私の首に顔をうずめて長く息を吸った。なにこれ、猫吸い? ふわふわの帽子と高い鼻が首に当たって擽ったい。

「私ベポじゃないよ!? 間違ってる!」
「いや合ってる」
「呼んだ?」
「ベポ!」
「渚、久しぶり」
「久しぶり……って衣装気合入ってるね」

 おかしなローに困っているとベポがウソップにも負けない派手な衣装で現れた。ウタの熱狂的なファンらしい。この衣装光るんだ、と見せてくれたけど先に船長をどうにかしてほしい。
 するとどこからか、ルフィの声が聞こえた。

「トラ男ー! 渚に何してんだ!」
「あのお方が渚先輩!? お会いできて工栄だべー!」
「チッ」

 どうやらローの能力で私とルフィ、あと何故か私を先輩呼びしている青年の三人をここに移動させたらしい。きっと私たち三人を助けてくれたんだろうな。

「どうしよう、皆捕まっちゃった……」
「参ったなァ。線にくっついてるだけみたいだし、大丈夫だと思うけど……」

 皆は強いから何とかなるはず……。

 ゆっくり話す暇もなくウタに見つかり彼女から逃げていたら、ゴードンという男性に連れられて建物の中に入り彼女の事や島について話を聞いた。
 しかし再び歌姫に見つかってしまい、ベポは小さくされるしルフィの帽子は取られるしで逃げざるを得なかった。


 ローの能力で建物の外に移動し、緑頭君の能力のバリアに入ったルフィを、大玉転がしのように転がしながら港に向かった。
 大切な帽子を取られたルフィは帽子を取り戻すとバリアの中でずっと叫んでいる。一方でローはバリアから手を離し立ち止まるが、緑頭君の足は止まらず真っ直ぐ道のない方へと進んでいく。

「え、ちょっと、ロー……」
「どうした」
「二人が……」
「は? オイ! そっちじゃない!」

 バリアに入ったまま落ちていく二人をローと一緒に追いかける。

「おれに掴まれ」
「え、ちょっ!?」

 足を掬われてお姫様抱っこされ、彼の能力で移動し坂を下った。二人が転がった先は港。サニー号があるはずの場所だった。
 慌てた様子でルフィが「サニー号がねェ!」と走り回る。返事をするように可愛らしい声で海から出てきたのは、ライオンのような太陽のような小さな生き物。どこかで見たことのあるような気が……今、サニーって言った?

「お前サニー号かァ!?」
「ええ!? 可愛い!」
「これもウタ様の能力だべか?」

 小さな身体を抱き上げると笑顔で「サニー!」と返事をされる。さっきベポも小さくなってしまったし、ウタの能力なのだろう。驚いて騒ぐルフィ達とは対照的に静かにジッとローが見つめてくる。

「……」
「ポーラータング号もサニーみたいになってほしかった?」
「馬鹿言え」

 何故か彼は私を再びお姫様抱っこするので能力を使うのかと思ったら、そのままスタスタと歩き出した。

「なんで抱っこ?」
「おれがしたいからだ」
「自分で歩けるから下ろして!?」
「久々に会えたんだ、離すわけねえだろ」

 真剣なのかふざけているのか、ローは私を離そうとしなかった。執着されるようなことした覚えはないけど、嫌われていないならいいか。いや良くない、恥ずかしい。
 何を言っても下ろしてくれそうにないので、覚悟を決めた。大胸筋をツゥーと指で撫で、ローを上目遣いで見つめる。きっとサンジはいい反応をしてくれると思うけど、彼はどうだろうか。

「下ろしてほしいな?」
「……」

 顔を逸らしながらゆっくりと下ろしてくれた。耳が赤いので少し効果があったかもしれない。


「お久しぶりです。ルフィさん!」

 突然、空中にドアらしきものが現れてコビーさんと大柄の男性が出てきた。そしてコビーさんからウタの能力について話を聞く。
 どうやらここは現実世界ではなく、ウタウタの世界らしい。ウタを止めないともう現実世界には戻れない。彼女の能力を破る方法を今、麦わらの一味が探っているようだ。皆が無事で安心した。


「お前ら無事だったか!」
「ルフィ!」
「サニー!」
「「あうっ」」

 暫くすると何もないところに鏡が出てきて、チョッパーが飛び出してきた。出てきた瞬間サニー号とぶつかっていたけど。チョッパーに続いて皆が出てきた。

「良かった! 渚も無事だったのね」
「ローが助けてくれたの」
「おいロー! お前、渚ちゃんから離れろ。近いんだよ!」
「断る」

 サンジがこちらに走ってくるが、グイッとローに腕を引っ張られ抱き締められる。
 ウゥ……頬に胸筋が当たって鼻血が出そう。これはご褒美かもしれない。サンジの蹴りで引き剥がされ、麦わらの一味の集まる方へと移動した。

「ロビンさん、ウタを倒す方法はわかりましたか?」

 コビーさんがロビンに聞くと、彼女は昔の記録について話し出した。
 トットムジカを使い呼び出された魔王を、ウタワールドと現実世界から同時に攻撃すればウタワールドを消すことができ、私達は元の世界に戻れるとのこと。
 ルフィに続いて皆がウタの元へと向かう。戦いに行くんだ、邪魔にならないところにいないと。

「ささ、渚先輩。おれァのバリアん中入ってください」
「ありがと、ロメ男くん」

 見た目が少し怖いので恐る恐るロメ男君にお礼を言うと、彼は相好を崩して返事をした。あ、なんだこの子可愛い。

 バリアに入れてもらい、皆の後を追いかけた。魔王と戦う彼らを遠くから見守り、無事を祈ることしかできなかった。ああ、私も戦うことが出来たら……なんて、彼らとは住む世界が違うことを改めて実感させられる。魔王を倒し現実世界からウタの歌声が聞こえた。温かい気持ちにさせられる歌声だった。そのまま私達は眠りに落ちた。


********************


 目が覚めたら胸の上に誰かの腕が乗っていて、横を見るとサンジがいた。反対側にはゾロ。二人ともまだ寝ているようだ。
 サンジの腕を移動させようとしたら、私の名前を呼びながら口を尖らせたサンジの顔が近づいてくる。起きてないみたいだし一体どんな夢を見てるんだ。背中側にはゾロがいて動けないしこのままじゃ口が触れ合って……。

「ちょっ、サンジ! 起きて」

 唇が触れてしまうかと思った瞬間、どこからか大きな手が私たちの間に入ってきてサンジの顔面を掴んだ。何が起きたのか理解するのに数秒かかったが、目を覚ましたゾロが寝転んだまま、私の後ろからサンジの顔を掴んだらしい。
 後頭部にはゾロの大胸筋があって、後ろから抱きしめられているみたいだ。

「何すんだマリモ!」
「テメェが寝ぼけてるからだろうがアホコック」
「頭の上で喧嘩しないで!」
「ごっ、ごめんよ。渚ちゃん」

 体を起こしながら戻ってこれたね、と言うと二人とも笑っていた。ナミ達も起き上がり、全員無事だったことにホッと息を吐いた。