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 ダイエットを始めてから一週間、元の体型に戻ってきたし筋肉もついてきたように思える。
 今日はサンジにキックボクシングを教えてもらうことになっていた。最初はメロリンしていた彼も今は落ち着いている。

「サンジはどこまで足上がるの?」
「この辺りかな」

 すらりとした長い脚のつま先が私の頭より上に上がっていて驚いた。足を武器にしているんだし足全体の筋肉が鍛えられているんだろうな。

「すごい。片足立ちでも体の軸がぶれないし中殿筋がしっかり鍛えられてるんだね。私も中殿筋と大臀筋鍛えなきゃ。目指せ美尻!」
「更に渚ちゃんが綺麗になっちまうな」
「サンジって褒めてくれるからやる気が出る」
「それだけ君が魅力的ってことさ」

 甘いなァ。褒めてくれるのは好きだけど、褒められすぎると照れる。
 サンジに足の上げ方や蹴り方を教えてもらい、彼と同じように足を上げる。指導と言って太腿やお尻を触ってきたので見上げながら名前を呼ぶ。

「サンジ」
「ん?」
「この手は指導に必要?」
「君の滑らかな肌に手が引き寄せられてしまったんだ」
「じゃあ私もサンジの胸鎖乳突筋触ってもいいよね? だってとっても魅力的なんだもん」
「えっ」
「だめなの?」
「い、いや……だめじゃねえけど……」

 頬を赤らめてたじろぐサンジに笑いがこぼれる。私に触れていた手も引っ込めていた。かわいいなあ。

「アンタたち見てると胸やけしそう」

 いつからか二階から私たちを見ていたナミの声が降ってきた。げっそりした顔をしてる。

「ンナミすわァん! もしかして嫉妬!? ああ、おれはなんて罪深い男……! 二人とも喧嘩しないでくれー!」
「「してないしてない」」

 二人でツッコむとサンジは落ち込みながら物置に行ってくると言ってトボトボ歩いて行った。

「修行でもつけてもらってるの?」
「ううん、ダイエットに付き合ってもらってるの。ナミも一緒にする? 楽しいよ」
「遠慮しておくわ」
「そっか」

 ナミは手を振りながら船の中に入っていった。少ししてサンジがクッションを手に戻ってきた。そのクッションを手に持ち、そこに蹴りを入れるよう指示される。彼の横腹辺りにあるクッション目掛けて蹴りを入れる。しかし足が当たったのはクッションではなく彼の横腹で、サンジの体は横に飛んで行った。

「えええええ!? なんで体で受けたの!?」
「君の愛のキックを受けてみたくて」
「怪我してない!? 私結構強く蹴っちゃったよ?」
「全然平気さ」
「もう、バカ!」
「ウッ! 胸にきた」
「何が!?」

 何故か喜びながら倒れるサンジを起こそうと手を貸す。乗せられた手を引っ張るが彼の体は全く動かず、綱引きをするかのように足に力を入れて引っ張っても動かなくて、サンジを見ると肩を震わせて笑いをこらえていた。

「サンジ!」
「っ、ごめん。必死に起こしてくれようとしている姿があまりにも可愛くて」
「意地悪」
「ウォォォォ!」

 彼は叫びながら芝生の上を転がった。罵られるのが好きなのかもしれない。どうしよう、変な扉を開いてしまったのかも。
 それからしばらく、サンジにアドバイスをもらいながらキックボクシングをした。


「じゃあストレッチしてクールダウンしようか」
「うん。明日は筋肉痛かも」

 両足を左右に開いて上体を前に倒す。サンジが後ろから背中を押してくれたけど、シャツが汗で背中にくっつき自分が思ったより汗をかいていることに気づいた。

「サンジ、汗ついちゃうから押さなくて大丈夫」
「おれのことは気にしないで。しっかりストレッチしておかないと、あとで足が攣ったら大変だからね」
「そう? ありがと」

 そうは言ってくれたけどやっぱり気になるし、シャツ越しに汗がついてしまうと思うと申し訳なくなる。開脚しながら体を横に倒したときにもう一度サンジに断ろうとしたら、突然耳に息を吹きかけられ肩が跳ねる。

「サン、」
「体の力抜いて?」
「っ!!」
「……耳、弱いんだね」

 いつもより低い声で囁かれる。驚いて彼の顔を見れば、いつもの優しい笑顔ではなく目を細めて妖艶に笑った顔があった。耳から顔へ、そして身体全体へ熱い血液が流れていく。色っぽい口元が動くのがやけにスローモーションに見えた。

「可愛い」

 こんなサンジ、知らない。


「……トレーニング、付き合ってくれてありがと。疲れたから、部屋で休むね」
「ドリンク持っていこうか?」
「大丈夫」

 彼の顔が見れなくて逃げるように女子部屋に向かった。
 パタリと女子部屋のドアを閉めてその場に座り込む。顔赤かったのバレてなかったかな。さっきのサンジの顔、初めて見た。私の弱点を知って嬉しそうな顔。思い出したらまた顔に熱が集まってきた。
 気持ちを落ち着かせるためにとりあえず叫ばせてほしい。

「サンジのバカー!」

 ガチャリ。私が叫んだ直後に女子部屋のドアが開いた。やばい、誰かに……本人に聞かれたら。
 しかしドアの向こう側にはナミとロビンがきょとんとした顔で立っていて、本人じゃないことに胸を撫で下ろした。

「何かあったの?」
「ウフフフ。顔真っ赤ね」
「な、何でもない……」
「なんでもないことないでしょう? ほら、お姉さん達に教えなさーい?」
「私、ナミより年上……」

 何とか誤魔化そうとしたけど二人には敵わず、椅子に座らされて事情聴取を受けた。正直に話すまでロビンから擽りの刑を受けたし大変だった。

「要するにゾロとサンジくんが最近渚に対して距離が近いってことね」
「うん。前より気を許してくれてくれたのかなって思ってたけど、甘えるを通り越して揶揄われてる気がする」
「甘えるって……子供じゃないんだから」
「渚は二人のことを年下としか見ていないからでしょうね」

 何故か呆れた目を二人から向けられ、溜息を吐いた。年下なんだから年下として見るのは普通だと思うんだけど。

「もっと可愛くいてくれなきゃ困る」
「どうして困るのよ」
「どっ……ドキドキする」

 恥ずかしくて下を向くと二人の楽しそうな笑い声が聞こえる。最近皆から揶揄われてばっかりだ。拗ねてないでこれでも食べて、と目の前に置かれたのはクッキーだった。明らかに子ども扱いされてる。やけくそになりながらクッキーを頬張るとまた二人に笑われた。

「癒されに行ってくる!」
「へえ。誰に?」
「チョッパー!」
「それは良いわね」

 やっぱり最年少であるチョッパーに癒されよう。癒しを求めて医務室に行くと、チョッパーは薬の調合をしていた。

「チョッパー!」
「何だ?」
「抱きしめさせて」
「今ちょっと手が離せねェんだ」
「そ、そっか。お邪魔しました」

 心に大きなダメージを受けた。じゃあやっぱりルフィだよね。彼は弟キャラだし可愛いし。
 手摺に腰かけて釣りをするルフィに後ろから声を掛け、麦わら帽子の上から頭を撫でるとぐるりと頭がこちらに向く。

「なんだァ?」
「今こうしていたい気分なの」
「変な奴だなー。帽子かぶりてェのか?」

 麦わら帽子を私の頭に乗せて満足気に笑うルフィに心臓がきゅんと鳴った。これだ、やっぱり年下の子にはこの可愛さがないと。

「ありがとルフィ。でも大事なものだし返すよ」
「おう」

 ルフィの頭に帽子を返そうとしたら突然風が吹いて麦わら帽子が空へ飛ばされる。ルフィは腕を伸ばして帽子を掴むが、バランスを崩し手摺から外側へ体が滑り落ちた。

「ルフィ!!」

 落ちる先は海。ルフィに手を伸ばしても届かず、どうしようと焦りと不安が一気に押し寄せた。
 しかし彼は再び腕を伸ばして手摺に掴まり、船に戻ってくる。勢いがよかったため一緒に芝生の上に倒れこむ形になった。下は芝生、私の顔の両側にはルフィの腕があって、気づけば押し倒されているような状態になっていた。

「ニシシ。びっくりしたな」
「う、うん……」
「何だ? これ」
「え?」

 ルフィは私の口の端に触れ、何かを取りそれを不思議そうに見つめた。あれはさっき食べたクッキーの欠片だ。口の端についていたなんて恥ずかしい。

「それ、さっき食べたクッキーの」

 私が言い終わる前に彼はそれをパクリと自分の口に入れ、そして「うめえ」とペロリと自分の口のまわりを舐めた。その動作がやけに大人びていて目が離せなかった。

 私から離れ、クッキーを食べにキッチンに向かったルフィ。私は起き上がることもできず芝生の上に寝転がって空を見つめていた。


 どうして意識すると、ドキドキすることばかり起きるの。彼らの行動は無自覚なのか、私を揶揄うためにしているのか、それとも……。考えても答えにはたどり着けなかった。