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 暖かい日差しの下、サニー号でゾロと渚はお酒を飲もうと乾杯をした。

「ずっと楽しみにしてたもんね。わあ、いい匂い。美味しそう」
「味も悪くねえな」
「もう飲んだの!?」

 私も、と彼女が酒を口にした瞬間、彼女の身体に異変が起きた。ゾロの隣に座っていた女は服だけが残り、いなくなった。一瞬の出来事にゾロは目を見張り、敵襲かと疑うが周りに人の気配はなかった。

「渚!? 消えた……!?」
「な、何が起きたの!? 真っ暗で何も見えない」
「は……? なんで小さくなってんだ?」
「え?」

 否、酒を飲んだ女の身体はこびとの様に小さくなっていた。


********************


 スカーフを身体に巻いて服代わりにした彼女の周りには、麦わらの一味が集まっていた。どうしてこうなったのか、原因は酒以外に考えられなかった。

「それで、酒を飲んだら小さくなったんだな? ゾロは何ともねえのか?」
「まったく変わりねェな」

 なぜ彼女だけ、と皆が疑問に思う中、チョッパーが彼女の身体検査をしていた。

「痛みとか身体に異変はないか?」
「うん、大丈夫」
「じゃあおれは元の身体に戻る薬を作れないか調べてみるから、飲んだ酒を見せてくれ」

 チョッパーはゾロから酒を受け取り、医務室に入っていった。残された一味はうちの船医が何とかしてくれると信じてその場に腰を下ろす。ナミは彼女を持ち上げ、じっくりと小さな身体を見た。

「まるでトンタッタ族ね」

 そう言われて渚は以前本で読んだトンタッタ族について思い出した。確か彼らは俊敏な動きと強い力が特徴的だったはず。しかし自分はただ小さくなっただけ。どうせなら妖精のように空でも飛べたら良かったのにと肩を落とした。

「何だお前、空飛びてェのか?」
「うん。飛んでみたかったなって」
「じゃあ飛ばせてやる。いくぞー!」
「えっ? イヤァァァァァ!?」
「ちょっとルフィ!!」

 ルフィは小さな身体を掴んで真上へ高く飛ばした。願望を叶えてやったと満足して笑うルフィとは逆に、飛ばされた身体は恐怖に怯えて涙を流しながら上に飛んで行った。サニー号に乗る彼らが目視できないところまで上に飛んで行った彼女は恐る恐る目を開けると雲の上を飛んでいた。

 そして偶然空を飛んでいた口の大きな鳥にパクリと一口で飲み込まれた。


「渚帰ってこねェぞ?」
「アレェ?」

 上を見ながら首を傾げるウソップとルフィにナミは拳骨を落とした。

「一体どこまで飛ばしたのよ!」
「ナミさん、おれ見てくるよ」
「お願いサンジくん」
「ハァイ! ナミさん!」

 サンジは空を蹴って上へ向かうが彼女の姿は見当たらない。代わりに一羽の鳥が空を飛んでおり、嫌な考えが彼の頭の中をよぎった。

「いや、まさかな……」

 しかし今のところそれ以外考えられない。そう思ったサンジは鳥の首を掴んでサニー号に戻った。
 そして鳥の腹を押して出てきたのは、先程ルフィが上へ飛ばした彼女だった。サンジはぐったりとした彼女を手の上に乗せ、息はあるか確認しながら船医を呼んだ。

「アーーー! なんでこんなことになってるんだ!?」
「「こいつのせいです」」
「スビバセン」

 医務室から出てきたチョッパーが彼女の様子を見て叫べば、ナミとサンジがボコボコになった船長を指差す。気を失った彼女をチョッパーはサンジに任せた。彼は折り畳んだハンカチの上に彼女を寝かせて、昼食を作りにキッチンに向かい、アイツらに任せたら命がいくつあっても足りやしねえ、とドアを閉めた。

「さて、小さなレディのために体のサイズに合わせた飯を作るか」

 煙草をふかしながらサンジは大人数の料理をいつも通り作り、彼女のサイズに合わせた料理も作っていく。食欲をそそる匂いでルフィ達がキッチンに駆け込んでくるまであと少し。それより先に入ってきたのはジンベエだった。

「おお、いい匂いじゃ。サンジ、ナミが呼んでおったぞ」
「ナミさんが!? ジンベエ、カウンターに渚ちゃんが寝てるから気をつけろ」
「!? 気づかんかった。うっかり潰してしまいそうじゃ」
「絶対潰すなよ! おれはナミさんの所に行ってくるから渚ちゃんのことは任せる。何かあったら許さねえからな」
「わ、分かった」

 サンジに圧倒されジンベエは静かに彼女を見守った。いつも賑やかな彼女が静かに眠る姿をジンベエが目にするのは今回で二度目だ。ジッと見つめていると彼女の眉間にしわが寄り、小さなうめき声を上げる。

「うっ、鳥に……たべられた。これが胃の、中……? もう、だめ。しぬ」
「……かわいそうに」

 先程鳥に食べられた出来事が夢になっているのだろう、とジンベエは彼女に同情した。自身の大きな指で頭を優しく撫でると彼女の眉間のしわはなくなっていき、うっすらと目を開けた。

「んん……?」
「起きたか?」
「ジンベエがいつもより大きく見える」
「それはお前さんが小さくなっているからじゃな」
「そうだった。それで確か、鳥に食べられた気がするんだけど」

 記憶を思い出し青ざめていく彼女にジンベエが先程の出来事を伝えると、ほっと胸を撫で下ろしていた。ざわざわと外が騒がしくなり、昼食を食べに皆がダイニングに入ってくる。

「渚、身体は大丈夫か? お前の身体を元に戻す薬をちゃんと作ってやるからな」
「ありがと、チョッパー。身体は何ともない。元気」

 ボコボコになった船長から謝罪され、大丈夫だと伝えると、ナミとロビンが渚のいるカウンターの席に座った。

「こんなサイズになるなんて可愛いー」
「ウフフ、ご飯食べさせてあげましょうか?」
「お腹減ったけど、ご飯大きすぎる……」
「可愛くて小さな妖精の様だ。ああ、君はどんな姿になっても可愛い。どうぞ、君のために作った特製ランチです」

 彼女の前に置かれたのは今の体のサイズに合ったご飯だった。小さなオムライスの上に小さな旗が立っている。お子様ランチみたいで可愛い、と彼女は喜んだ。
 渚の食べる様子を見て周りは可愛いと言って癒されていた。

「渚ちゃん、デザートに苺をどうぞ」
「苺大きくて美味しい!」
「ンー! かわいいー!」
「みかんも食べていいわよ」
「ありがと、ナミ」
「うっ、」

 大きな果物を一生懸命食べる渚を見て胸を押さえながら悶えるサンジとナミに、ロビンは小さく笑った。

「渚、体洗いたいんじゃない?」
「うん。ベタベタするから、お風呂入りたい」
「その体じゃシャワーも出せないでしょうから手伝うわよ」
「ありがと、ロビン」

 二人の会話を聞いてサンジとブルックが興奮気味に勢いよく手を上げる。

「ハイハイハーイ! おれも手伝いまーす!」
「私もお背中お流しします!」
「結構よ」

 彼女の一言で撃沈した二人をスルーして、ロビンは渚を手に乗せて風呂場に向かった。


********************


 数十分後、戻ってきた二人を見てウソップは不思議に思った。タオルに包まれた渚はガクガクと震えており、ロビンは楽しそうに微笑んでいる。

「渚がすげェ怯えた顔してロビンを見てるぞ」
「ロビン……こわい……」
「ウフフフ、かわいい」

 ウソップが風呂場で何があったのか話を聞くと、「ロビンが私の方へ石鹸を飛ばしてきて……。石鹸の方が大きかったから石鹸ごと身体が向こうの壁まで飛んで行ったの」と怯えた様子の彼女から返ってきた。かわいそうに、と同情の目を向けるウソップにロビンが口を開く。

「手が滑っただけよ」
「じゃあその後石鹸を蹴ったのは!? あれはギリギリだったよ」
「足元にあった石鹸に気づかず足に当たっただけよ」
「うそだ!」
「まあまあその辺にしとけって」
「だってロビン笑ってたもん!」
「そんなことないわ」

 興奮する渚を抑えたウソップはロビンの楽しそうな表情を見て、やれやれと溜息を吐いた。「元に戻るまでここにいる」と自分の鼻の上に巻き付いた彼女をウソップは鼻息で飛ばした。

「ウソップのケチ」
「いや人の鼻にぶら下がる方がおかしいだろ。あ、いい事思いついたぞ」
「なになに!?」
「昼寝してるゾロの上で寝たらどうだ? 小さいしゾロも気づかないんじゃねェか?」
「ウソップ天才!」
「だろー」

 ウソップとハイタッチした彼女は開いていたドアの隙間から甲板に出た。

 昼寝しているゾロを発見し、動く大胸筋に彼女は目を輝かせた。今の小さな身体ならあの大胸筋に飛び込んでも問題ないだろうか。ふかふかのベッドにダイブするかのように彼女は眠る男の上に飛ぼうとした、その時だった。ゾロの目はカッと開き、刀に手を掛ける。彼女が驚く間もなく、身体は後ろからの爆風に飛ばされた。

 ゾロは小さな身体を手で受け止め、「敵襲だ」とサニー号の前に現れた海賊船を睨んだ。

「あぶねえな。ここで大人しくしてろ」

 彼女が乱暴に入れられたのはゾロの腹巻の中。彼の腹筋の谷間に顔が埋められる。戦闘による激しい動きに目が回り、腹筋の感触に興奮し彼女は気を失った。


 数十分後、敵襲を返り討ちにした麦わらの一味はサニー号の修復と軽い怪我の手当てをしていた。ゾロが怪我していないか様子を見に来たチョッパーは彼の腹を見て目を丸くした。

「ゾロ、腹から血出てるぞ! 診せてみろ」
「腹を切られた覚えはねえが……、返り血か?」

 ゾロの腹部の怪我を確認しようとチョッパーがゾロの腹巻に手をかけた瞬間、ゾロは腹巻の中にいる彼女の存在を思い出した。

「傷はないな。でもなんで血が……って渚ー!?」
「わりィ、忘れてた。死んだか?」
「物騒なこと言うなゾロ! ずっとこの状態で戦ってたのか!? もしかして圧迫されて……」
「それ、鼻血じゃねえか?」

 慌てるチョッパーにウソップが声を掛ける。チョッパーが彼女の顔を確認すると確かに鼻から血が出ており、顔を真っ赤にしていた。

「大丈夫そうだ」
「そういやチョッパー。コイツを元に戻す薬は出来たのか?」
「おう! さっき完成したところだ」


 完成した薬を起きた渚に飲ませると彼女の身体は元に戻った。身体が小さいと心なしか皆からの扱いが雑な気がするから、もう小さくはなりませんように。と密かに願う彼女であった。