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 穏やかな雰囲気の小さな島に着いた。平和そうなところでもいつも何かと面倒事に巻き込まれてしまうので、今日はゾロと一緒に回ることになった。ナミに買い物リストを渡され、ゾロを引っ張って街を歩いていく。

「別に引っ張らなくても良いだろ」
「だって絶対迷子になるもん」
「だれが迷子に……「ならないでねって言っても絶対なるから!」」

 服を引っ張りながら強めに言うと、露骨に嫌な顔をされた。嫌がられてもはぐれるのは困るので我慢してもらう。

「じゃあコーヒー豆から買いに行こ」
「うわーーん!」
「なんだァ?」

 後ろから子供の泣き声が聞こえたので振り返ると、ゾロの足元に小さな男の子がいて彼の着物の裾を掴んでいた。ゾロが振り返り男の子と目が合えば男の子は「ヒィッ!」と怯えた声を上げる。

「このお兄ちゃん、顔は怖いけど優しいよー」
「おい」

 男の子の目線に合わせて屈むと、男の子の顔は涙をいっぱい溜めて不安そうだ。

「パパァ、ママァ……」
「パパとママとはぐれちゃったのかな?」
「迷子か」
「おいで、一緒に探してあげる」

 小さな体を抱き上げると、ゾロは隣で面倒だと溜息を吐いていた。
 男の子に名前を聞いても、両親の特徴を聞いても分からなかったので、街の人に聞きまわることにした。歩いているうちに男の子は徐々に落ち着いてきたようで、アイスを買ってあげると笑顔で食べていた。

「アイス美味しい?」
「おいしい! ありがとうパパ、ママ」
「どういたしまして」
「なんでお前はすんなり受け入れてんだよ」
「だって可愛いんだもん。こっちだよ、パパ」
「っ、」
「パパったらすぐ迷子になるからねェ」
「パパ、まいご?」
「そうなの」

 片腕に男の子を抱っこし、もう片方の手でゾロの服を引っ張っていたが、ずっと抱っこしてると腕が疲れてきた。私の腕の限界に気づいたのか、ゾロは私から男の子を取り上げた。

「さっさと親見つけんぞ。まだ買い出し全然終わってねえだろ」
「ありがと、ゾロ」
「パパたかーい」

 子供の面倒なんて、と嫌がっているのかと思いきややっぱり彼は優しい。ゾロの抱っこが安定していたのか、男の子はアイスを食べ終わった後すぐに寝てしまった。やっぱり鍛え上げられたふっくらとした大胸筋が落ち着くんだろうな。私もいつかあの大胸筋を枕にして寝てみたい。

「静かになったな」
「なんか抱っこ慣れてるね」
「そうか?」
「まさか……」

 実はどこかの島に家族がいて子育ての経験があるとか。色んな島を転々としている海賊だしそんなことあってもおかしくはないはず。

「バカなこと考えてんだろ」
「一体どこの島で……」
「二年前に強引な家族の子育てに巻き込まれたことがあんだよ」
「そうなの? 何処かの島で家族を作ったとかでは」
「そんな無責任なことするかよ」
「なんだ」

 強引な家族に振り回されているゾロを想像したら自然と口角が上がる。力では自分の方が強いのに、絶対手をあげないどころか大人しく言うこと聞くんだもんな。それが彼の優しいところであり良いところだ。

「ゾロは良いパパになりそう」
「お前は優しい母親になりそうだな」
「えっ」

 まさかそう返されると思ってなくて、驚いて顔をあげるとゾロは男の子を見ながら優しく微笑んでいた。彼と目が合った瞬間お互いが顔を逸らす。バクバクと高鳴る胸が苦しい。
 ……想像してしまった。年下なのに。

「パパ、ママ? なんであっちむいてるの?」
「「……」」

 いつの間にか起きていた男の子に指摘され、誤魔化すように再びゾロの服を引っ張って歩いた。再び街の人に聞きまわっていると、男の子を見たことがある人がいて、坂の上の家の子かもしれないという情報を得た。

「ゾロ、じゃあ坂の上に……って、え?」

 いつの間にかうっかり手を離してしまっていて、ゾロと男の子はいなくなっていた。


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 小さな男の子を片腕で抱えながらゾロは辺りを見回していた。転びそうになった通りすがりの老人に手を差し伸べ、彼女から数秒目を離した。顔を上げた時には彼女の姿を見失っており、数秒どの方向へ向かうか迷った後、ゾロは自分の直感を信じて彼女とは別方向に進んでしまったのだった。

「一体どこ行きやがったんだ、渚のやつ」
「パパ?」
「お前いい加減おれのことそう呼ぶのやめろ」
「パパじゃないの?」
「お前の親はちゃんといるだろ。今探してんじゃねえか」

 彼女とはぐれたことでゾロは少し苛立っていた。今回、彼女に強く言われてゾロは彼女を見失わないよういつもより注意を払っていた。しかしいつものようにはぐれてしまい、溜息を吐いた。

「ママないちゃう」
「アイツは強ェから泣かねえよ。お前も迷子になってももう泣くんじゃねえぞ」
「でもこわくてさみしいから」
「それでも泣くな。だが渚はいつも面倒事に巻き込まれるからな。早く見つけてやらねェと。ったく、世話の焼ける」
「しんぱい?」
「当たり前だろ。ってこんなガキに何言ってんだ」

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 ゾロのことだからじっとせず歩き回っているんだろうな。ここに戻ってくることを信じて、はぐれた場所から動かない方が良いかもしれない。

「お姉さん一人?」
「?」

 若い男性が私の隣に立ち、私の顔を覗き込みながら話しかけてきた。目が合うとにこりと微笑まれる。何か用だろうか。私が答える前に男は話を続けた。

「ご飯でも一緒にどう? 美味しい飯屋、知ってるんだよね」
「人を待っているので大丈夫です」
「さっきから見てたけどずっとここで立ってるよね。もう来ないんじゃない? 一緒に行こうよ」
「ごめんなさい。ここを動けないの」
「じゃあちょっと話だけでも……」

 不意に眩しかった太陽の光が遮られ、影ができた。隣で話していた男は何も話さなくなり不思議に思って顔を上げると、探していた人物が目の前に立っていた。思わずこちらが声を上げてしまいそうな、とても怖い顔をしている。

「こいつに何か用か」
「ヒィッ! 海賊!? な、なんでこの島に海賊が」
「いちゃワリィか。ついでに良いこと教えてやる。テメェが話しかけたこの女も海賊だ」
「すすす、すみませんでしたー!」

 逃げるように男は叫びながら去っていった。

「良いこと教えてやるって、良いことではないよね。……でも良かったー、会えた」
「何話してたんだよ」
「ご飯行きませんかって誘われただけだよ」
「さっさと追い払えば良いだろ」
「断ってたもん」

 二人とも何事もなかったようで良かった。相変わらずゾロからは反省の色が見られないけど。でも手を離してしまった私も悪いし何も言わないでおこう。

「その子、この先の坂の上の家の子供かもしれないんだって」
「じゃあ行くか」
「うん、じゃあ手」
「なんでだよ」
「最初からこうしておけば良かった。これからは手繋いで行動しようね。服掴むだけじゃ駄目だったし」
「……アイツらに見られたら揶揄われるだろ」
「迷子にならないためにって言ったら、皆そうした方が良いって言うと思うよ」

 渋るゾロの手を無理矢理掴んだ。腕を掴むのも良いけど、私が手を離したらきっとはぐれちゃうし、手を繋ぐ方がきっと良いだろう。
 彼の手はあたたかくて血管の浮き出た逞しい手だ。私の手を振り払わずにされるがままの彼に可愛さを感じて、繋いだ手を自分の口元に寄せて笑った。

「ゾロの手、おっきいね」
「お前もう何も喋るな」
「ひどっ!?」

 坂の上の家を尋ねると、男の子の両親に出会うことができた。二人は私たちと背丈が似ていて、男の子が私たちをパパとママと呼んだことに納得した。

「ようやく子守から解放か」
「ありがと。ずっと抱っこしてくれてて。腕疲れたでしょ」
「あんな軽いので疲れるわけねえだろ」

 いつも重いダンベルで筋トレしてる彼にとってはそりゃそうか。腕揉もうか? と聞いてみたら断られた。

 買い物リストに目を通し、お店へと向かう。先程街を歩き回ったから店の場所は大体覚えていたのであとは買い物を済ませるだけだ。
 ゾロの手を引っ張り、必要な物を買いまわって早一時間。ゾロは隣で眠そうにあくびをしていて、そういえばいつもなら寝ている時間帯だなとふと思う。会話したら眠気が覚めるかと思い、何度か話しかけたけど空返事されるのでちょっと揶揄ってみることにした。

「ねえ、聞いてる?」
「おう」
「次はゾロのリード買いに行くね」
「おう」
「……。私って可愛い?」
「おう」
「ふふっ、私のこと好き?」
「お……っておまえッ!」
「やーい! 引っかかったー」

 思った通りに引っかかってくれたのが嬉しくて上がってしまう口角が抑えられない。背伸びしてマリモのような頭をわしゃわしゃと撫でまわした。焦ったような表情と動作に思わず可愛いと呟くと手を払われた。

「やめろ!」
「だって全然話聞いてくれなかったんだもん」
「あー、なんか言ってたか?」
「もー!」

 買うものも全部買い終わったよと言うと、買い物していたことに全然気づいていなかったらしく、私が持っていた買い物袋を持ってくれた。

「色々あったけど楽しかったね」
「まあ悪かねェな」
「迷子になってもあの子みたいに泣いちゃだめだよ」
「お前はおれのこといくつだと思ってんだ」

 怒ったゾロはサニー号の方とは別方向に向かったので、再び手をとってサニー号へと向かう。戻ったら少しお昼寝するのもいいかもしれない。


********************


 サニー号に戻ってきた。ちょうどお昼時だから島で食べてきた方がよかったかも。サンジいるかな。
 温もりのあった手を離し、芝生の上に荷物を置いた。するとひょっこり顔を出したのはナミ。彼女は買ってきたものを整理しているようだった。今回も沢山買い物をしたっぽい。

「ただいまー」
「おかえり。遅かったわね。またゾロが迷子になったの?」
「またって何だ」
「うん、また迷子になっちゃった」
「おかえりプリンセス! 君の帰りを待ってたよ。マリモの子守は疲れただろう。さ、こちらへ」

 サンジが船の中からくるくると回って出てきた。昼食を作って私たちの帰りを待っていてくれたらしい。

「子守と言えば、迷子になった男の子の親探しをしてたんだよね。その子が私達のことをパパとママって呼んできて可愛かったなー。ね、ゾロ」
「あー、そうだな」
「適当な返事だなァ」
「ぬあーにィーー!? なんて羨ましいことになってたんだ!」
「ガキが勝手にそう呼んできただけだ」

 二人の言い合いが始まってしまって、提供する話題を間違えたと後悔した。しかしうるさかった二人はナミの拳骨で静かになった。

「人助けしたんだから勿論お礼は貰ってきたのよね?」

 ゾロが呆れる横でお礼として貰ったものを思い出した。確か買い物袋に一緒に入れておいたはず。

「じゃじゃーん! お酒! この島で一番美味しいものらしいよ」
「なんだお金じゃないのね。じゃあ興味ないわ」
「えー、一緒に飲もうよ」
「私はいいわ。あんた達だけで飲んでなさい」
「じゃあまた今度飲もう」
「今飲まねえのか」
「すぐ飲むの勿体ないじゃん」
「そういうもんか?」

 もらったお酒を大切にしまって、昼食をいただきにダイニングに向かった。