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「渚、最近顔丸くなった?」
「えっ」

 朝、女子部屋で身支度を整えている途中、ふとナミに言われてドキリとする。ペタペタと自分の顔を触りながら急いで鏡で確認すると、確かに以前より丸くなった気がする。

「どうしようナミ。絶対太ってる!」
「頑張んなさいよ、ダイエット」

 先にダイニングに行ってるわね、とナミは手を振りながら女子部屋を後にした。今日は体型カバーできる服にしよう。私は履こうと思っていたショートパンツをそっとクローゼットにしまった。


 ダイニングに行くと美味しそうな朝食がずらりと並んでいた。シロップがかかったフレンチトーストにホイップクリーム、そして沢山のフルーツ。きっと甘くて美味しいのだろう。でも今は全部高カロリーに見えて涙が出てくる。

「うまっ!! 渚、食べないのか?」
「た、食べる……!」

 チョッパーが美味しそうに食べるものだから、欲望に負け隣に腰掛けてフレンチトーストを口にした。美味しすぎる。


 朝食を終え、皆がダイニングから出て行く。船の上じゃそんなに動く事もないし、サンジの作るものは何でも美味しくてついデザートも食べ過ぎてしまう。どうしよう、このままじゃ……。

「まずい……」
「えっ?」

 考え込んでいたら頭の上から声が聞こえたので顔を上げると、何故か目を見開いているサンジと目が合った。何かあったのか、彼はひどく驚いている。

「サンジ、今日の昼ご飯から私のご飯の量減らしてほしい」
「量を減らす……?」
「あとデザートも今日から暫くいらない」
「毎日のティータイムが……?」
「ごめん、そういうことだから! お願い!」

 美味しいご飯の量が減るのは悲しいけど体型維持は大切。ダイニングから出て考える。食べる量は減らしてもらうとして、身体をもっと動かさなければならない。

 こういう時は筋トレに限る。するなら一人じゃなく、ゾロが筋トレしてるのを鑑賞しながら筋トレしたい。しかしゾロを探してもいなかったので、きっとどこかで昼寝しているんだろうなと思いながら、筋トレは後でしようと決めた。

 誰かダイエットのアドバイスしてくれる人いないかな。皆どうやって体型をキープしているんだろう。キョロキョロしながら船内を歩いていると突然視界に現れたのはブルック。

「何かお探しですか? それともお悩みですか?」
「うん。実は体型に悩んで…………ううん、やっぱり何でもない」
「何故かとても悲しい気持ちになりました。ヨホ、ヨホホホホ……」

 体型云々の前に、ブルックは骨だけだった。床に手をついて涙を流すブルックをスルーして、再び歩き進める。ナミには頑張れと応援されたから多分協力してくれないとして、ロビンは今どこにいるんだろう。
 すると大きなイビキが聞こえてきたのでそちらへ向かうとゾロが寝ていた。今日は暑いからか、彼は上半身裸で、素晴らしい筋肉が鑑賞できる。すぐに寝ている彼の隣に腰を下ろした。

 ずっと見ていても飽きない筋肉。段々息遣いが荒くなってきた。触りたい……けどこの間ゾロに注意を受けてしまったし、許可がないとさわれない。

「触ってもいい?」
「……」
「ちょっとだけ……」

 ふに。人差し指でゾロの上腕二頭筋を触った。ああ、この感触最高。少し触るともっとふれたいという欲が出てくる。そういえばさっきまでイビキをしていたのに、今は静かだ。恐る恐る彼の顔を確認すると目が合って思わず声が出た。

「寝込みを襲う気か?」
「やっ、やっぱり起きてた?」
「今起きたんだ」
「ゾロって近付いたらすぐ気付くもんね。たくさん人がいても私って気付くし」

 以前沢山の女の人達がゾロを囲む中、私の手を掴んだことがあったし、きっと誰の気配か分かるのだろう。

「渚は匂うんだよ」
「におっ……私くさいの!?」
「いや、甘ェ匂いだ」

 ゾロは上半身を起こし私に顔を近づけ、私の耳の後ろに鼻を当てた。上半身を起こしたことによって動く腹筋にうっとりするが、思ったより距離が近かったことに気付き体が硬直する。それから体感で何十秒も経ったように思える。彼の鼻息が擽ったくて身を捩らせた。

「顔、真っ赤だぞ」
「……ッ!」

 にやりと意地悪な顔が見え、恥ずかしい気持ちを誤魔化すように両手でゾロの両頬を外側へ引っ張った。ゾロのせいだ。急に顔を近づけてくるから。

 ……最近ゾロが近くて緊張する。
 彼から手を離して熱くなった頬を冷ますように手をパタパタさせた。それよりここに来たのはゾロに用があったからだ。

「今から筋トレしよ。私のダイエットのために!」
「ダイエットだァ? くだらねえ」
「くだらなくない! 一大事なの」
「別にお前太ってねえだろ」
「ナミに顔丸くなったって言われたのー!」
「ハァ……」

 溜息を吐きながらゾロは立ち上がり、ジムに向かうのではなく甲板に向かったのでついて行きながら後ろから声を掛ける。

「お願い! 今度美味しいお酒買うから」
「仕方ねえな。少し付き合うだけだぞ」
「ありがと!」

 隣で一緒に筋トレできたらいいなと思っていたけど、一緒に何かをしてくれるらしい。ここに拳を打ってこい、とゾロが手のひらを広げた。ボクシングか、たくさん動いたら痩せそうだ。一発入れるとゾロは眉を顰めた。

「どうしたの?」
「……いや、次は本気でこい」
「う、うん」

 それから何度かゾロの手に向かってパンチするが、彼の顔は険しくなっていく一方。思い切り力を入れてもビクともしないので、やっぱり力の差がありすぎるんだなと改めて感じた。

「おれはお前の拳如き、何ともねえぞ」
「喧嘩売られてるの!? 知ってるよ、ゾロが強いのは」
「だから、本気でこい」
「ずっと本気なんだけど!?」

 そう言うとゾロは目を見開いて、マジかと呟いた。

「馬鹿にしてる!?」
「お前、ナミより力ないんじゃねェか?」
「そりゃナミの拳骨、痛いもん……」
「……」

 ゾロが黙った。ナミの拳骨が痛いのは同感らしい。彼は少し考える仕草をした後、足元の芝生を指さした。

「筋肉にうるせェから出来るとは思うが、腹筋出来るか?」
「できるよ!」

 その場で膝を曲げて座り、上半身を床につけて上げての繰り返しをした。十回程した時、ゾロは足を支えてやるからちゃんとやれと言う。さっきからずっとちゃんと腹筋してるんだけど。

「もっと上げろ。……そうだ、ここまで上げろ」
「ウッ……!?」

 スパルタなジムトレーナーみたいだ。腹筋が痛くてつらいけど、上体を上げた時ゾロの胸鎖乳突筋がこんなに近くに!? それに視線を少し下に落とせば大胸筋がある。ということはつまり、腹筋を頑張れば嫌がられずに近くで筋肉鑑賞が出来るということ!

「よーし!」
「なんだァ? 急にやる気出しやがって」

 やる気マックスになった私は腹筋の限界を超え、全力で筋肉鑑賞を楽しんだ。


********************


「し、しぬ……」
「一旦休憩で良いんじゃねえか? 次は腕立てだ」
「うん。飲み物、取りに行ってくる……」

 痛む腹筋をおさえながら飲み物を貰いにキッチンに向かった。
 サンジの名前を呼びながらダイニングのドアを開けると、床が水浸しになっていた。奥には床に倒れているサンジの姿があって急いで駆け寄る。

「サンジ!? 何かあったの? 大丈夫!?」
「すまねェ渚ちゃん……。おれがクソまずい料理を作ったせいで……」
「えぇ!? サンジの料理はいつも美味しいよ!」

 え? とサンジが顔を上げる。涙で顔がびしょ濡れだったので、持っていたハンカチで拭く。目をうるうるさせてまるでチワワみたいで可愛い。

「さっき不味いって」
「そんな事言ったっけ?」
「飯の量を減らしてほしいって」
「あっ!」

 コックの彼にとっていきなりご飯の量を減らしてくれだなんて、不快にさせてしまったのかもしれない。事情を説明すると、サンジは私の体を上から下までじっくり見た。恥ずかしいのであまり見ないでほしい。

「太ったようには見えねェけど……」
「サンジは女の子に太ったなんて言わないの分かってる。でも本当に太ってて」
「じゃあ渚ちゃんは今日から別メニューにしようか」
「いいの!?」
「君だけ特別」

 語尾にハートでもつくんじゃないかってくらい、彼は目を細めながら甘い声で言った。誤解が解けたからか、サンジはスキップしながらモップを取り出して濡れた床の拭き掃除を始めた。もしかして私に不味いって言われたからこんなに泣いてたのかな。発言には気をつけなくちゃ。

「それとティータイムの事なんだが、ダイエットに良いお茶にするしケーキも低カロリーのものにするから、なしをなしにしてもいいかい?」
「えっ! うん、もちろん!」
「渚ちゃんとの毎日のティータイムはおれにとって幸せな時間なんだ」
「私もいつも楽しい時間だよ」

 そこまでしてもらっていいのかな、なんて考えながらも水をコップに入れて喉を潤した。

「じゃあ体動かしてくる!」
「今も汗をかいてたみたいだけど何かしてたのか?」
「うん、ゾロと筋トレ。あとボクシング? すぐにやめたけど。力が弱すぎるって言われて」
「あんの筋肉野郎。筋肉バカと比べられてもなァ。渚ちゃんはそのままで可愛いからね」
「そうだ。今度時間あったら一緒にキックボクシングしよ」
「おれと? もっちろんさ!」
「ありがと。じゃあまたあとで」

 昼食の時間まで筋トレ頑張るぞ。再び甲板に戻るとゾロが逆立ちしながら腕立て伏せを指一本でしていた。それも重そうなダンベルを足に乗せて。筋肉のふくらみがすごくて、ずっと見ていられる。

 可愛い足音が近づいてきたなと思って振り向くと、チョッパーが私の元へと走ってきた。

「どうしたの? チョッパー」
「渚、筋肉量を増やす薬だ! これを飲んだ後にトレーニングすると筋肉量の増加がいつもの二倍になるぞ」
「筋肉量の薬? どうして突然」
「さっきゾロが、渚は飛んで来た石ころに当たっただけで死にそうだから良い薬ねェかって」
「失礼な! 」

 私の怒りを気にせずに筋トレを続けるゾロにタオルを投げつけた。