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 ワンピースの世界にトリップした私は、麦わらの一味に拾ってもらい一緒に旅をしている。非力な私だけど、彼らが強いお陰で何とかこの世界で生きている。



 前回島に着いたのは何日前だったか。ここ暫くずっと海の上だった。今日は眠れなくて甲板で波の音を聞いて数時間が経った。日付も変わり月のあかりがサニー号を照らしていた。

「寝れねえのか?」
「ルフィ」

 後ろから声がして振り向くとルフィがこちらに歩いてきた。気分屋の彼だがいつもは寝ていることが多い時間帯だ。それなのに起きているなんて驚いた。

「うん、ちょっと起きていたいなって」
「そっかー。おれもなんか眠くねえな」

 手摺りに肘をついて再び波の音に耳を傾ける。彼は私の隣に並び、遠くの方を見つめていた。

「次の島にうめェ肉あるかなー」
「あると良いよね」

 シンと静まって、それが何だかこそばゆい感じがして話題を探した。そしてふと思いついたのが自分の話だった。

「実は昨日、誕生日だったの」
「たんじょうびィ? だれのだ?」

 私、と自分を指差しながら言うと、ルフィは丸くて大きな目を更に大きくして私の肩をガシリと掴んだ。

「なんでもっと早く言わねえんだ!!」
「ええ!? ご、ごめん」
「待ってろ!」

 ……びっくりした。いきなり大声出すんだもん。ボーとしていた頭もすっかり覚めてしまった。

 ルフィは男子部屋に勢いよく入り、大声で叫んだ。それはもう大きな声で。寝ていた皆は目を擦りながらなんだなんだと部屋から出てくる。女子部屋で寝ていたナミとロビンも出てきた。

「何だよ、ルフィ。敵襲か?」
「ウソップ! 宴の準備だ! 早くしろ」
「ハァ!? 宴!?」
「サンジ! なんか祝う食べもん作ってくれ!」
「どうしたんだよ、突然」

 慌てて話すルフィに皆が混乱する。ああ、ごめんみんな。

「ルフィ、私を祝ってくれようとしてて……」
「コイツ、昨日誕生日だったんだ!!」
「「「ええーーーー!?」」」

 ナミ、サンジ、ウソップが声を揃えて叫んだ。眠そうだった顔から一変して目を見開いて私に近づいてくる。

「どうして言わなかったの!?」
「昨日ってことは三時間前じゃねェか!」
「急いでケーキ焼かねえと!」
「ごめんこんな夜中に。祝ってほしかったとかそんなのじゃなくて。ただちょっと言ってみただけ、というか……」
「誕生日は皆で祝うもんだろ!」

 大きな声で言うルフィに周りがそうだそうだと首を縦に振った。皆の反応が優しくて涙が出そうになる。
 騒がしい甲板からキッチンへ向かうサンジをロビンが止めた。

「今は乾杯だけするのはどうかしら。ケーキもすぐ焼けないし、日が昇ってから皆でお祝いしましょう」
「スーパーに盛り上げようぜェ」
「渚ちゃん、それでも構わないかい?」
「うん!」

 皆祝ってくれる気満々だから素直に好意を受け取ろう。飲み物を持ってくると言ってサンジやウソップ達はキッチンへ向かった。

「アンタって変なところ遠慮するわよね」
「そうかな」
「プレゼントは何が欲しいの?」
「プレゼント? えっと……ムキムキの筋肉!」
「そう言うと思ったわ。ゾロ、ちょっとこっち来て」

 何でだよと嫌がるゾロに、ナミはもう一度来るように伝えた。渋々こちらに来たゾロはナミの言う事には逆らえないらしい。そして彼女は笑顔でゾロの腕を私の前に差し出した。

「好きなだけ触りなさい」
「わー! 嬉しいなァ」
「オイ! おかしいだろうが!」

 ゾロの上腕筋に手を伸ばしたら避けられ、逃げられた。追いかけようとしたら、足元が暗くて躓いて転びそうになる。
 私に背中を向けていたものの、流石の反射神経のようでゾロは私の前に手を出してくれた。私はゾロの胸に飛び込む形となり、柔らかい大胸筋に受け止められた。

「ったく、相変わらず鈍臭ェな」
「上腕筋じゃなくて胸筋を触らせてくれるなんて……しあわせ……」

 筋肉の感触に興奮して鼻血が吹き出た。

「お前……」
「何してんだ渚! 止血止血! ゾロもこれで拭け」
「おう」
「ありがと、チョッパー」
「用意出来たぞー!」

 チョッパーに渡されたタオルで鼻を拭っていたら、ウソップが皆に声を掛けた。テーブルの上にあるグラスを一人一つ取って、上に掲げて乾杯をする。

「それでは一曲、バースデーソングを」

 ブルックの奏でる音に皆が歌をのせてくれた。それが嬉しくて心地良くて、段々と瞼が重くなってきた。


********************


 食欲をそそる匂いで目が覚めた。体を起こすとお腹がグゥと鳴る。二階のベンチで眠っていたらしく、私の横に座っていた人物が動いた。
 
「目が覚めたか?」
「ジンベエ」
「皆、お前さんのために張り切って準備しておったぞ」
「そっか」

 皆、ちゃんと寝たのかな。もしかしてずっと準備してくれてたのかな。そうだとしたら申し訳ないな。やっぱり誕生日だったなんて言わない方が良かったんじゃ……。

「愛されてるわりに自信がなさそうじゃな」
「やっぱりちょっとどこかで遠慮しちゃうんだよね。私……何も出来ないし」
「ワハハ! そんなに自信がないなら、思う存分愛されてこんか!」

 背中を押されて前へ飛び出し、階段を下りる。甲板の芝生にはテーブルの上に置かれた沢山の料理と、大きなケーキがあった。

「目が覚めたのね、おはよう。皆、渚が起きたわ」
「おはようロビン、みんなも」

 皆から挨拶が返ってくる。それから一斉に話すから何て言ったのか聞き取れなかったけど。

「もう一回乾杯だー!」
「渚、早くこっち来いよ。お前が主役なんだからよ」

 ウソップに手招きされ彼らの中心へと走る。サンジからグラスを受け取ると、皆もテーブルの周りに集まった。

「それじゃあ改めて……渚」
「「「誕生日おめでとう!」」」

 二回目の乾杯をした。胸が熱くなって声を詰まらせながらも、皆にお礼を言う。

「次はちゃんとその日に言えよ!」
「うん!」

 来年もあるんだ、言っていいんだ。当たり前のように言ってくれるルフィに胸がいっぱいになる。

「来年はおれ達が覚えてるけどな!」

 小さな手を挙げながらチョッパーは自信満々の顔で言った。それが可愛くて笑っていると、サンジに手を取られて手の甲にキスを落とされた。

「ケーキも当日に用意するからね、渚ちゃん」
「おいコック、酒」

 空になったコップをサンジの目の前に差し出すゾロ。サンジは文句を言いながらもお酒のおかわりを取りに行った。

「もう、自分で行かないと。人遣い荒いんだから」
「いーだろ別に。ほら」

 渡されたのはコップいっぱいに入ったお酒。

「お酒だ……ってあるじゃんお酒!」
「ないとは言ってねェ」
「サンジに怒られるよ」
「すぐ無くなるんだ。いつ取りに行っても同じだろ」

 何言っても屁理屈を返されそうなので、無視して受け取ったお酒を飲んで喉を潤した。さっき乾杯したお酒とは違い、苦くて軽く咳き込む。

「このお酒、苦いし度数高くない!?」
「そうか? 美味ェだろ。じゃあこっちの酒にするか?」

 他のお酒を取ってくれようと、ゾロは私に背を向ける。大きな僧帽筋と広背筋。胸囲はどれくらいあるのだろうか。ああ、触れてみたい。腕を回してみたい。

 欲望のままゾロの背中に頭からもたれ、後ろから脇の下に手を入れて大胸筋へ回す。ゾロは驚いて声を上げていた。

「アァ!? いきなり何なんだ。酒が溢れるだろうが」
「しあわせェ。ずっとこうしてたーい」
「お前な……」

 いつもなら触る前に避けられるか、引き剥がされるのに今日はどちらとも違う。不思議に思って顔を覗き込む。

「怒らないの?」
「もう怒ってんだろ」
「腕退けないの?」
「……まー、誕生日だからな」
「えへへ、嬉しい」
「……ただ」
「ん、なに?」

 此方へ体を向けたゾロは、私の両手首を片手で掴み私の頭上へあげた。そしてもう一方の指先で私の脇腹を撫でた。

「野郎の身体を触るってことは、テメェも覚悟出来てんだろうな?」
「ヒェッ……ゾロ!?」

 くっついた時に照れるゾロが可愛いのに今日は違う……。まるで獲物を捉えるような目に身体がこわばった。
 筋肉に触りすぎて怒らせてしまったか。ギュッと目を閉じると、大きな音が鳴り響いた。

「邪魔したか?」
「テメッ……!」

 ニヤリと笑うサンジにゾロは額に青筋を立てた。どうやらゾロの頭にサンジの蹴りが入ったらしい。ゾロは可哀想だけど、サンジのおかげで両手が解放されて助かった。

「危ないところだったね、プリンセス。怪我はありませんか?」
「うん、大丈夫」
「そこのクソ剣士は野獣だ。危ねェから離れておこうな。こちら、君だけのために作ったスペシャルケーキです」
「誰が野獣だ!」
「ありがと、可愛い!」

 まるで芸術作品のようなケーキ。フルーツがたくさん乗っていて美味しそう。
 パクリと口に運ぶと、一口食べただけでも悶えるほどの美味しさだった。

「んー! なにこれ!? めちゃくちゃ美味しい!」
「そんなにうめェのか!?」
「うん! 食べてみて」

 美味しいと言うワードを聞きつけルフィがやって来た。大きく開ける彼の口にケーキを入れてあげると、目を輝かせていた。可愛い。

「うっめー!」
「なっ!? ルフィ!」
「だよねだよね!」

 サンジが泣きながらルフィの胸ぐらを掴んで振り回していた。
 隣にいるゾロがケーキをじっと見ていたので、彼も味が気になっているのかもしれない。

「ゾロも? はいどうぞ」
「あ」

 開けた口にケーキを運ぶとゾロは美味ェと一言。そして満足げな様子で口の端についたクリームをペロリと舐めた。

「ダァーー! お前らのは別であるからレディのケーキを食うな!」

 ルフィとゾロのケーキを取りに、サンジはまたキッチンへ戻った。ケーキを食べながら隣にいるゾロの顔を覗き込む。

「さっきはごめんね?」
「反省したか?」
「今度からはちゃんと触って良いか許可取るから」
「そう言う問題じゃねえ」

 違うの? と聞こうとしたら、どこからか腕が伸びてきて私のお腹に巻きついた。

「渚! あっちでフランキーが新しいビーム撃つんだってよ! 行こうぜ」

 私が答える間もなく、ルフィは私を抱えて船の上を移動した。……ゾロにはまた今度聞いたらいいか。