青い鳥 7


 「寂しい」とは違う。
 「悲しい」とも違う。
 胸がぎゅっと締め付けられるような、この気持ちは、どこから、どうして、やってくるんだろう。
 その答えを、俺は、まだ知らなかった。





 放課後、生徒玄関では、いつものように翼が下駄箱に背を預け、俺を待っていた。
 翼は、俺と授業の時限数が同じときはこうして、俺と一緒に帰るために俺を待っている。
 もうすっかり慣れた光景。最初の頃は、高校生にもなって兄弟で一緒に登下校するなんて恥ずかしいと思ったり、それを友達にからかわれたりもしたけれど、それが当たり前となった今ではもう、誰も、何も言わなくなった。
 靴を履き替え、教室からここまで一緒に来た友人と別れて、翼の元へと向かう。
「ごめん、待った」
「全然」
 答える口調は素っ気ないけれど、必ず、俺が横に並ぶのを待ってから歩き出す翼。
 相手が女の子だったら、会話といい、行動といい、すごく、恋人同士っぽいな。
 そんなことを思いながら、隣を歩く翼をちら、と見上げる。
 兄弟という贔屓目を抜きにしても、整った顔立ち。背も高いし、外見だけなら、あの女にモテまくりな兄貴とそう変わらないレベルに見える。
「翼はさ、彼女とかいないの」
「いないよ」
 不意に浮かんだ素朴な疑問に答える声も、やはり素っ気ない。
 無駄口を叩かない。必要なことを、必要最低限の言葉で伝える――もしかしたら、そんなところが、近寄りがたい雰囲気を生み出しているんだろうか。
 でも、確かに多少無愛想ではあるけれど、不言実行タイプで、心根が優しいのは、少し付き合ってみればわかると思う。
 彼女は、いない。でも――。
「告白、とかは? されない?」
「されたこともあるけど、俺は本当に好きな人としか、付き合いたくないから」
「そっか……」
 軽く相槌を打ちながらも、俺は心の中でガッツポーズを決めていた。
 これだよこれ!
 兄貴と翼の決定的な違いを見つけて、なぜだか俺は嬉しくなる。
 そんな風にどこか浮かれた気持ちのまま、勢いのまま、俺は翼に聞いていた。
「なあ翼は? 今晩何食べたい?」
 兄貴と颯からは(一方的に)夕飯の希望を聞いたけど、翼からは聞いていない。
 思えば翼は、出来上がった料理に対する批評はよくするけれど、「食べたいもの」を聞いても、その口から出てくる答えは大抵「カレー」か「焼きそば」で、兄貴や颯のように、あれが食べたい、これが食べたい、などの要望を言うことはほとんどなかった。
 まあ、その分批評は辛口で、本当においしいものにはちゃんと「おいしい」と言ってくれるけれど、チャレンジしてみて、それが明らかに失敗だったりすると、はっきりと「これはもう二度と作らなくていい」って言われたりもするし。
 前方に見えるT字路。左に折れて線路沿いをまっすぐ進めば、その先は駅前商店街。買い物をして帰るつもりでそちらに足を向けた俺を、肘を掴んで翼が止めた。


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