青い鳥 5


 兄貴と颯、なにかと騒々しい二人が出て行くと、家の中は急に静かになった。
 翼は俺の横で、マイペースに白飯を口に運んでいる。
 俺と翼は、一年と三年だけど同じ高校ということもあり、時間割が若干違うだけで生活時間帯はほぼ同じだから、こうして二人きりになることはよくある。だけど、二人でいても、あまり会話らしい会話はない。
 だからといって、殊更仲が悪いとか、沈黙が気まずいとか、そういうことでもないんだけど。
 面倒見がいいといえば聞こえはいいけど、いろいろと口うるさくて、細かいところに変にこだわる兄貴のように、気を遣って合わせなくてもいい。
 ムダに元気いっぱいで、ここぞというときに末っ子特有のわがままを発揮する颯を相手するときのように、高いテンションで頑張らなくてもいい。
 翼の隣は、独りでいるときと同じくらい、俺が素のままの俺でいられる場所だった。
「おかわりいる?」
「うん、半分」
 翼の茶碗が空になったのを確認して、いつものように声をかけ、立ち上がる。
 答えの通り半分だけご飯をよそった茶碗を手渡すと、翼はそれを受け取ったものの、視線をご飯へ落としたまま、箸をつけようとしない。
 そして、ぽつり、と小さく呟いた。
「いいんじゃない、唐揚げで」
 出てきた言葉に、俺は純粋に驚いた。
「……なんで知ってんの?」
 俺が今晩のメニューに、唐揚げを考えていたことを。
 そんな俺の疑問に対する翼の答えは、至極単純で、それでいてちょっと離れたところにあった。
「昨日の夜、牛乳飲んだときに冷蔵庫開けたから」
 そのときに鶏肉のパックを見たってことか?
 でも冷蔵庫なら、兄貴も颯も開けていた。特に颯は、何かめぼしいものが入っていないかと、一日に何回もムダに開けたり閉めたりしている。
 それに、鶏肉を使った料理は、唐揚げだけじゃないのに。
「なんで、唐揚げってわかった?」
 素朴な疑問を浮かんだまま口にすれば、翼はなんでもないことのように淡々と返してきた。
「のん兄、週末になると揚げ物多いから」
「え? そう?」
「うん。週の初めは煮物とか、手の込んだ料理をよく作るけど、週末は、唐揚げとかトンカツみたいな、ボリュームのある揚げ物か、丼物が多い」
「本当に?」
「うん」
 自分では全然、意識していなかった。
 けどもし、翼の言うことが事実だとしたら、おそらく疲れてくる週末には、品数を減らすことで、無意識に料理の手を抜いているのかもしれない。
 やむをえない事情で家事をするようになったとはいえ、やるからにはしっかりやりたいと常々思っているのに……。
 なんとなく、反省の意味も込めてちょっとした自己嫌悪に陥っていると、俺の横で、翼の優しい声が響いた。
「のん兄さ、ヒカ兄のわがままも、颯のわがままも、全部聞いてたらキリがないよ」
「………うん、そうだな」
 翼は優しい子だな。なんて、なんだか親の気分で思ってしまう。


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