青い鳥 4


 颯は元々運動神経もいいし、結構実力もあるみたいで、どちらかといえば年功序列重視な中学の部活動の中で、まだ二年だけどちょくちょく試合で使ってもらっているらしい。
 それってすごいことだと思うんだけど、颯にとっては、そんなことよりも自分が思っていたほど身長が伸びず、まだ百六十の半ばしかないということに不満タラタラだ。
 それでも、日々真面目に朝練に行くのは、なんだかんだ言って、やっぱりバスケットが好きなんだと思う。もちろん、身長を伸ばしたい、っていうのもあるとは思うけど。
 颯は時計を睨みながら、残りのご飯を急いで掻っ込むと、それでも忘れずに「ごちそうさま」を言ってから、身支度を整えるために洗面所へと向かった。
 入れ替わりで戻ってきた兄貴が、出かける前に一度、ダイニングに顔を出す。
「望、今日の晩メシは、魚の煮つけがいいな。キンキかカレイで頼むよ」
「んー、考えとく」
 参ったな。冷蔵庫にはどちらもない。兄貴の要望を叶えるには、放課後買出しに行かないと。
 面倒だな、なんて考えていると、兄貴が少し悲しげに眉を寄せ、縋るような眼差しを向けてきた。
「じゃあ行ってくるからな。お兄ちゃん、頑張って仕事に行ってくるからな。望も気をつけて学校へ行くんだぞ」
 毎朝のことながら、この名残惜しげな出かけるときの挨拶にはうんざりする。
 兄貴の中で、俺は一体何歳という設定なのだろう。
 兄貴ももう、いい大人なんだし、こっちは弟とはいえもう高校生なんだ。シンプルに「行ってきます」の一言でいいじゃないか。
 だけどこれを無視したり流したりすると、返事をするまでしつこく繰り返されるので、俺は兄貴に向けて、おざなりに手を振った。
「あー、ハイハイ。行ってらっしゃい」
「……望、その言い方は愛がないよ」
 いよいよ涙声になる兄貴。そうこうしている間にも、刻一刻と時間は過ぎていくわけで。
 兄貴の求めるような「愛」なんてあってたまるか、と心の中で毒づきながらも、俺は殊更優しい声を作った。
「……行ってらっしゃい。兄貴も気をつけて」
「うん、じゃあ行ってくるよ」
 そこでやっと満足したのか、女の子が見たら一発で恋に落ちそうなほど甘い微笑みを最後に、兄貴の足がようやく玄関へと向かう。
 すると今度は、支度の出来たらしい颯がダイニングに顔を出した。どうやらさっきの、俺と兄貴の会話が聞こえていたらしい。
「のん兄、僕、魚じゃなくて肉がいいよ! ポークソテー希望!」
「あー、考えとく」
 肉、ねぇ……。
 参ったな。冷蔵庫には鶏肉しか入っていないのに。
 今日は買出し決定か……と、心の中でこっそり溜め息をつく。颯は無邪気な笑顔で、兄貴とは対照的に元気な挨拶をしてきた。
「じゃあねーのん兄、行ってきまーす!」
「おー、行ってらっしゃい」


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