青い鳥 3


 兄貴は悪びれる様子もなく、さらに言い放つ。
「仕方ないだろう。何が好物か聞かれたから鯖の味噌煮が食べたいといったら、和食は作れないなんて言われたんだ。……まったく、望の足元にも及ばないよ」
 だから、そこで比較対照に俺を持ってくるからダメなんだって。誰にだって得手不得手がある。彼女にだってきっと彼女なりの良さがあったはずなのに。
 そう言ってやりたかったけど、言ったら言ったでややこしいことになるのはわかっていたから心の中で溜め息つきつつ黙っていたら、兄貴がいつも最終的にたどり着く結論に、どうやら今朝も至ったらしい。
「やっぱり望が一番だな。望が女の子なら、今すぐ嫁にもらうのに」
 しみじみ言ったそれに素早く反応したのは、いつものことながら颯だった。
「あっそれわかるー! 僕ものん兄が女の子だったら、絶対お嫁さんにしたいもん!」
「颯には十年早いだろ」
「そんなことないっ! 今は年下の旦那様がブームなんだから!」
 どういうわけか颯は、何かにつけて、兄貴と張り合う傾向にある。
「どこの情報だ。とにかく、望は俺が嫁にもらうから」
「僕がもらう!」
「俺が!」
「僕がっ!」
「二人とも、いい加減にしろよ。そもそも俺は男だっつーの……」
 男の俺相手に、どっちが嫁にもらうかというくだらない言い争い。もう慣れてしまったやり取りに、いつも通りの言葉を返す。
 だけど、今朝の兄貴は今までと少し違っていた。
 きれいになった皿と茶碗を重ね箸を置くと、そこで少し、考え込むそぶりをする。
「いや、何も性別にこだわる必要はないな……」
「――は?」
 思わず、ご飯を口に運ぶ手が止まる。俺の隣で、翼の肩がぴくり、と動いた。
「確かに男だけど、こんなに可愛くて、家事も完璧で……」
 おいおいおい。
 なに考えてんだよ兄貴。
 流れる不穏な空気に、ぞくりと背筋を震わす。兄貴が真剣な目をして、俺を見た。そこへ――。
「……ヒカ兄、今朝早く出なきゃいけないって、言ってなかったっけ?」
「そうだった! 忘れてた!」
 むっくりと起き上がった翼の指摘に、兄貴は言いかけの台詞を最後まで繋ぐことなく、ガタガタと椅子を鳴らして立ち上がり、慌てて洗面所へと向かった。
 ……助かった――……!
 ほっと胸を撫で下ろす。隣を見れば、翼は何事もなかったかのように味噌汁を啜っていた。そして、その抑揚のない声が、今度は颯に向けられる。
「颯もそろそろ出ないと、朝練遅刻するぞ」
「あ〜も〜、わかってるよっ!」
 颯は「身長を伸ばすため」という理由で、バスケ部に所属している。
 兄貴も翼も、中学の部活でバスケットを始めてから急激に身長が伸びた。もちろん、成長期と重なったっていうこともあるんだろうけど、百八十はあるだろう兄貴と、数センチ差で兄貴に迫る翼を見ている颯が、「バスケットをすれば身長が伸びる」と思い込んだのも無理のない話。


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