青い鳥 2


 外見的にも、四人の中で俺一人だけが母親似。兄貴と翼は完全に父親似だし、颯はさすが末っ子(?)だけあって、二人のいいとこ取りだけれど、それでもどちらかといえば父親に似ている。
 俺はとにかく母にそっくりで、自分でも嫌になるほどの女顔。
 兄貴はほめ言葉のつもりで言ったのかもしれないけど、俺にとってそれは、微妙にコンプレックスが刺激される、嫌な言葉だった。
 だけど兄貴は、俺の気持ちには欠片も気づいていない。
 翼は未だテーブルに突っ伏しているので後回しにして、出かける時間の早い兄貴と颯に、先にご飯と味噌汁をよそって手渡す。
 なめらかな箸使いで白飯とハムエッグとを交互に口に運びながらも、兄貴の喋りが止むことはない。
「ご飯の炊き具合といい、黄身の半熟具合といい……やっぱり嫁にもらうなら、望以上じゃないとな」
 兄貴がこういう話をするときは決まってる。女に振られたときだ。
 颯は我関せずで、黙々とご飯を食べている。
 翼の分と自分の分を用意して席に着き、味噌汁を一口啜ってから、一応聞いてみた。
「なに兄貴、また彼女に振られたの?」
「振られたんじゃない、俺には合わなかったということさ」
 汁椀を持ちながらさばさばとした調子で喋る兄貴の顔には、未練の「み」の字も浮かんでいない。
 それもそうだろう。いつだって兄貴は「本気」じゃないんだから。
 兄貴は、とにかくモテる。兄弟という贔屓目を抜きにしても格好いいと思える、整った顔立ち。それに加えて高身長。亡くなった母さんの教育の賜物で、女の子にはとことん優しい性格。
 それなりの大学を出て、地元ではそこそこ名の知れた企業で働いていて、事務系の職種なので残業がほとんどないから時間はあるし、実家暮らしで金に余裕はあるし――で、おそらく格好の標的になっているのだろう。
 とにかく女が途切れない。そしてすべてが相手からのアプローチであるにもかかわらず、すぐに振られる。
 理由はただひとつ。
「とか何とか言って、また俺と比べたんじゃねぇの?」
 俺は以前、偶然居合わせたときに兄貴の当時の彼女だった女に責められたことがある。
 何かあると、二言目には「弟」が出てくる、って。
『弟の方が可愛い』
『弟の作るご飯の方がおいしい』
『弟とシャツの畳み方が違う』
 兄貴自身が社会人として働いているからか、相手もそういう人が多い。綺麗にメイクをして、おしゃれな服を着て、時には手料理を振る舞ってくれる。
 そうやって彼女が一生懸命世話を焼いてくれているというのに、ことごとくダメ出しして、しかもその比較対照が「弟」。
 大人同士のお付き合いなのだから、もしかしたら彼女は結婚を意識しているかもしれない。それに気づいているのかいないのか、兄貴はいつだって弟(特に俺)優先で、彼女はいつも後回し。
 正直、俺が彼女なら、そんな男は願い下げだ。振られても自業自得。


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