PUZZLE 7


 カズヤは静かに、道弘の言葉を待っていた。けれども道弘は、何かを言いかけては、それを飲み込むように口を噤んでしまう。
 散々迷っていた道弘だったが、ついにそれを音にすることはなかった。
 黙ったままの二人。気まずい沈黙が部屋を支配する。
 やがてカズヤが、自嘲にも似た溜め息を漏らした。
「みっちゃんてさ、本当、ヘタレだよね。おまけに鈍感」
「カズヤ……!」
「俺、今日は疲れちゃったから、先に寝るよ。――おやすみ」
 図星を指されたからなのか、非難するように名を呼ぶ道弘。それに答えることなく一方的な言葉を叩きつけると、カズヤは上掛けをめくり、その中へともぐりこんだ。
 向けられた背中に拒絶の二文字が見えた気がして、道弘はそれ以上、カズヤに掛ける言葉を見つけられなかった。
 仕方なしに部屋の明かりを落とし、少し隙間を開けてカズヤの隣に体を入れる。
 暗闇に慣れた目に映るのは、見慣れないホテルの天井。それが道弘を妙に感傷的にさせた。
 物悲しい思いを振り切るように、道弘はそっと瞼を閉じた。だがそうすることで今度は、幼い頃からずっと見てきたカズヤの姿が、走馬灯のように次々と脳裏に浮かんでは消えていく。

 ――俺は、カズヤが好きなんだろうか……。

 違うとはっきり否定するのは、難しい気がした。肯定するほうが、たぶんずっと簡単で、でも、それを認めるためには、理性だとか常識だとか、いくつもの壁をぶち破らないといけない気がする。
 今の道弘に、そこまでの勇気はない。
 やがて、カズヤから規則正しい寝息が聞こえてきても、道弘はなかなか眠れなかった。カズヤのことばかり考え、そのたびに胸がきゅうっと締めつけられるのを気のせいだと自分に言い聞かせてやり過ごし、カズヤが寝返りを打てば、カズヤのいる左側を必要以上に意識してカチコチに固まってしまう。
 その日道弘は、カズヤの隣で眠れない一夜を過ごすはめになった。





 結局一睡もできなかった道弘とは対照的に、充分な睡眠を取って目覚めたカズヤの顔はすっきりとしていて、その言動はすっかり普段通りだった。
「ちょっとみっちゃん、大丈夫?」
「………うっせ」
 帰り道、寝不足のあまりふらつく道弘を見かねて、カズヤが声を掛ける。

 ――ったく、誰のせいだと思ってるんだ。

 元凶であるカズヤにしれっとそんなことを言われて道弘は、苦々しい思いでカズヤを睨み見た。
 だがカズヤは道弘の視線に動じることなく、いつもの調子で道弘をからかい始める。
「もしかしてみっちゃん、枕が変わると眠れないタイプ?」
「………ほっとけよ」


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