PUZZLE 6


 自分をじっと見つめてくる、水気を湛えた漆黒の瞳。どういうわけか、そこから目を離せない。
 内心うろたえながらも、横になって向き合ったまま、カズヤと見つめあうこと数秒。
 カズヤの赤い唇が、再び道弘の呼び名を刻んだ。
「みっちゃん……」
 道弘の目に、それはまるでスローモーションのように映った。ゆっくりと動く唇。次いで、同じようにゆっくりと閉じられる瞼。
 それに誘われるように顔を近づける。気付けば道弘は、カズヤに唇を寄せていた。
 触れてから、自分がしてしまったことの特異さに気づいて、道弘は大慌てでカズヤから離れた。
 その場に起き上がり、視線を彷徨わせながら、言葉を探す。しかし道弘の口をついて出てきたのは、あまりにも情けない言い訳だった。
「悪い、つい……」
 言ってしまってから、心の中でツッコミを入れる。
 なにが「つい」だ。
 キスだけとはいえ、これではまるで、カズヤの言うとおり、彼女の代わりにカズヤを襲ったようなものだ。
 しかし、先ほどまさにそのことで道弘をからかった当の本人は、特に気にした様子もなく、閉じていた目を開けると、道弘と同じように起き上がって向かい合う位置に座り、普段となんら変わりない表情を向けてきた。
「気にしなくていいよ、みっちゃん。俺も全然、気にしてないし」
「でも……!」
「それに、さっきはああ言ったけど、彼女の代わりでも、俺は全然、平気だから」
 何かを堪えるように、努めて明るく言われた言葉。それが道弘の心に、あるひとつの可能性を浮かび上がらせる。
「カズヤ、お前……」
 男であるカズヤが「彼女の代わりでも平気」などと、簡単に言えるはずがない。
 そこにあるのはもしかしたら、カズヤの本音ではないだろうか。
 けれども道弘は、今までそれをカズヤの口から聞いたことはなかった。ましてや、そんなそぶりさえなかったように思う。
 真意を確かめようと、探るようにカズヤを見つめながら、道弘は考えた。だが、何度考えても、そんなはずはないと何度打ち消し否定しても、導き出されるのはひとつの結論だけ。
 カズヤは自分のことが好きなのではないだろうか。そう思うことは自惚れだろうか。
「お前、俺のこと――」
 思い切って聞こうとするけれど、肝心の部分が声にならない。

 ――好きなのか?
 ――それを聞いてどうする?
 ――聞いたところで、果たしてカズヤの気持ちに答えられるのか?

 道弘も本当は、薄々気づいていた。
 はっきり恋愛感情とは言えないまでも、自分にとってカズヤが、他の誰よりも特別であるということに。
 だが、それを認めることには、やはりためらいがあった。男同士の恋愛に偏見を持たないつもりでいても、それが自分の身に降りかかるとなれば、当然話は違ってくる。


- 6 -

[*前] | [次#]
[戻る]

Copyright(C) 2012- 融愛理論。All Rights Reserved.

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -