PUZZLE 5


 彼女との思い出を吹っ切るように、道弘は心持ち大きな声を出す。
 それに一瞬驚いた表情を見せたカズヤだったが、すぐに笑顔を作って道弘に頷き返した。
 カズヤの嬉しそうな表情を目にすると、道弘は、失恋で傷ついた心が暖かく癒されていくのを感じる。
 恋人として過ごしたのは、二ヶ月にも満たない、ほんの短い期間だった。彼女にとっては、遊びだったのかもしれない。でも、少なくとも道弘は、可愛くて明るくて社交的な彼女がとても好きだった。
 ダメ元で告白したから、まさか付き合えるとは思わなかった。何か、彼女なりの思惑があったのかもしれないが、道弘はもう、そんなことはどうでもいいと思っていた。
 道弘の中にはすでに、彼女を恨む気持ちも、憎む気持ちも存在しない。
 ――もう、終わったこと。
 そんな風に自分の中で区切りをつけられたのは、強引にではあるが、こうして自分に付き合ってくれたカズヤのおかげなのだろう。
「みっちゃん?」
 行くと言っておきながら動かない道弘を訝しんで、カズヤが確かめるように道弘を呼ぶ。
「よし、行こう!」
 もう一度宣言して、道弘は晴れ晴れとした笑顔をカズヤに向けた。





 いくつもの施設の中から結局無難な大浴場を選び、道弘とカズヤは並んで湯に浸かっていた。
 少し熱めのお湯が、普段使わない筋肉を動かしたことで疲れていた体をゆっくりとほぐしてくれる。
 身も心もリフレッシュしたところで部屋へ戻ると、道弘は、ダブルベッドの中央に背中から倒れこんだ。
「ちょっとみっちゃん、真ん中で寝ないでよ」
 手も足も投げ出し、大の字で寝転ぶ道弘を、怒ったような呆れたような口調でカズヤが責める。
 それから、道弘の体をぐいぐい押してスペースを空けると、そこに自分も倒れこんだ。
 顔だけを横に向けて、いたずらっぽく道弘を見る。
「みっちゃん、今日は俺と一緒に寝るんだから、夜中に彼女と間違えて襲わないでね」
「間違えるかよ!」
「あ、襲うってところは否定しないんだ」
「襲わねぇよ!」
 けらけらと笑うカズヤに、苦虫を噛み潰したような顔を向けながらも、道弘は内心、どぎまぎしていた。
 まだきちんと乾いていないしっとりと濡れた髪が、風呂上がりで上気した顔が、昔から知っているはずのカズヤを、まるで違う人間に見せる。
 ――なんか、調子狂うんだよな……。
 そう思い道弘はカズヤに背を向ける。それは道弘自身の気持ちが変化しているからなのだが、道弘はまだ、それには気づいていなかった。
「みっちゃん?」
 自分に背を向けたまま黙りこんでしまった道弘をどう思ったのか、伺うように、カズヤがそっと声を掛ける。
 それに振り向いてしまった道弘は、すぐさまそのことを後悔した。


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