PUZZLE 3 くだらないことで、軽口を叩き合う。飾らないこの空気が、心地いい。 変わらないでいてほしい。カズヤは。カズヤだけは。 今まで付き合ってきた彼女たちのように、簡単に、離れていかないでほしい。ずっと、自分のそばに、いつでも手が届く距離にいてほしい。 どうしてそんな風に願うのか。今の道弘に答えは出せない。 そして結局、カズヤの手を繋いだまま、揃って雪の地面に足を下ろす。 「みっちゃん、久しぶりに競争、する?」 「いいね〜、負けたほうが昼飯おごり、な?」 「え〜、そこは年上なんだから、みっちゃんおごってよ」 「ふざけんな!」 道弘は、まだ知らない。 だが数時間後には、嫌というほど自覚することになる。 自分の中に芽生えた、その感情の名前、を―――。 道弘が負ければ大人気なくもう一度と食ってかかり、反対にカズヤが負ければ、かわいらしくもう一度と再戦をねだる。 年の近い二人は体格も似ていて、その上技術にもたいした差はなかったので、何度か繰り返された「競争」に二人の間で最終的な勝敗がつくことはなかった。 「みっちゃ〜ん、お願い、お昼おごってよ、ね?」 「ワリカンでいいだろ、ワリカンで」 「え〜、みっちゃんバイトしてるじゃん。俺はホラ、僅かなお小遣いで生活してる高校生だから」 「〜〜〜っ!」 バイトのことを持ち出された上、たった一つの年の差なれど、高校生と大学生という大きな違いを強調されては道弘もそれ以上抗いきれず、仕方なくカズヤに昼食をおごってやることにした。 彼女相手なら多少なりとも格好つくのでそれでもいいが、従兄弟が相手となると、どうにも損した気分にしかならない。 それでも二人で仲良く同じものを食べ、合間にお互いの近況について語り合い、少しの休憩を挟んで、再びゲレンデへと出た。 午後からは、初級から上級向けまでいくつかあるコースを順に巡り、速さを競うことなく、時には雪山の美しい景色を眺めながら、楽しんで滑った。 冬晴れの良い天気に恵まれたこともあり、ゲレンデは、たくさんの家族連れやカップルなどで賑わっている。そんな中でも、道弘の目は確実に、先を行くカズヤの姿を捉えていた。 ――本人に、その自覚はまったくないのだが。 幼い子供でもなければ、ボードが初体験というわけでもない。ずっとカズヤだけを見ている必要などどこにもない。現に、昨シーズンも家族と一緒にスキー場を訪れたのだが、そのときの道弘は、カズヤのことなど気にも留めず、自分の思うがままに滑っていた。 それなのに今、道弘は無意識にカズヤだけを見つめている。 視線の先で、カズヤがザッと音を立てて止まり、こちらを振り返った。 [戻る] |