PUZZLE 11


 ヒステリックに叫ぶ彼女の声を背に、道弘は走り出していた。
 無我夢中で走って、気づけばそこは、カズヤの家の前。震える指でインターホンを押す。応対したのは、今まさに道弘の心を占めていたカズヤだった。
「どうしたの? みっちゃん」
「カズヤ、俺、俺……!」
 切羽詰った道弘の様子にただならぬものを感じたのか、カズヤは道弘を、家の中へと招き入れる。
「とりあえず上がってよ」
 促されて靴を脱ぎ、カズヤについて板張りの廊下を一歩、また一歩と進むたびに、道弘の心拍数は上昇していった。
 何度も訪れたことのある家。そしてこれから通されるのは、おそらく何度も入ったことのあるカズヤの部屋。
 にもかかわらず、道弘は緊張のあまり、ここがまるで切り取られた異空間にある見知らぬ建物のようにさえ感じていた。
 不意に、前を歩くカズヤが道弘を振り返る。道弘の心臓がドキン、とひとつ跳ねた。
「みっちゃん、何か飲む?」
 自室の扉を開ける前にカズヤが道弘に尋ねたのだが、道弘は首を横に振ってそれを断った。
 本当は、走ったことでのどは渇いていた。けれども、飲み物を飲んで落ち着いてしまったら、きっとまた、言えなくなる。
 扉を開けて部屋の中へと入ったカズヤに続いて、道弘もそこへ足を踏み入れる。後ろ手に扉を閉めれば、狭い空間に二人きりとなった。それを意識した途端、道弘の緊張はよりいっそう高まった。
 思わずごくり、と唾を飲む。
 これを言ったら、もう後戻りはできないのだ。
 それでも、今のこの関係を壊してしまうことになるとわかっていても、道弘は、覚悟を決めた。
「カズヤ……」
 そうして、後ろからそっと包み込むように、カズヤの体を抱きしめる。
 突然の出来事に驚いたのか、カズヤの肩がびくっと揺れる。けれどもカズヤは何も言わず、また、道弘の腕の中から逃げ出そうともしなかった。
 身動ぎひとつしないその耳元に、そっと息を吹き込むようにして、道弘は思いを告げる。
「カズヤ、俺、お前が好きだ」
 言葉を選ぶ余裕などない。飾ることなくストレートに伝えはしたが、それでも道弘にとっては、一世一代の大告白のつもりだった。
 しかし、カズヤからは何の反応もない。
 これまでの経緯から、てっきり両想いだと思っていたのだが、もしかしたらそれは勘違いで、自分は思い込みだけで突っ走ってしまったんだろうか。
「……えっと、その……できれば返事、ほしいんだけど」
 不安になった道弘がおそるおそる尋ねると、カズヤから返ってきたのは溜め息だった。
「……みっちゃんてさ、本当、サイテー」


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