PUZZLE 10


 だからといって、一度タイミングを逃してしまった道弘には、今さら何もできなかった。
『みっちゃん』
 はにかみながら自分を呼ぶカズヤの姿が、今ならとてもいとおしく感じられる。
 失恋にも似た感情を抱えながら、道弘はそっと目を閉じた。





 やがて春になり、道弘はコンパで知り合ったひとつ年上の女子大生と付き合うことになった。
 彼女の方から告白され、好きな人がいないのなら付き合ってほしいと押し切られ、断りきれずにOKしてしまった。
 カズヤのことを考えなかったかといえば、嘘になる。けれども、良識に照らし合わせてみると、カズヤと付き合うよりも、彼女と付き合うほうが、よほど建設的だと思えた。
 これで、いいんだ――。道弘はそう、自分に言い聞かせる。
 心のどこかにもやもやしたものが残ったが、きっと時間が解決してくれる。そのうち、以前と同じただの従兄弟同士に戻れるだろう。そしていつか大人になったときに、酒を酌み交わしながら「あんなこともあった」と思い出話にできればいい。
 彼女とは、付き合い始めてから何度か電話とメールのやりとりをして、初めてのデートでは無難に映画を選んだ。その後遅めの昼食をファミレスで済ませ、コーヒーを飲みながら映画の感想やお互いの大学生活について話をした。
 明るく気さくで、冗談もわかる彼女とは会話も弾み、それはそれで、とても楽しい時間だった。
 ただ、恋愛的な意味で好きかと聞かれれば、どうしても疑問が残る。だから道弘は、一人暮らしだという彼女を、まだ明るいうちにアパートの前まで送り届けることにした。
 彼女はしきりに「お茶でも」と言っていたが、一人暮らしの、しかも付き合っている女の部屋に上がって、まさか本当にお茶だけ飲んで終わるとは思えない。
 とてもそんな気にはなれなくて、道弘が頑なに断ると、彼女は道弘の首に手をかけ、キスをせがんできた。
「せめてこれくらいは、……いいでしょ?」
 悪戯っぽく細められた目で見上げながら、道弘を誘う。男慣れしたその態度に、心がすーっと冷めていく。
 それでも道弘は、彼女の要求にこたえるべく、少し顔を傾けて、彼女に唇を寄せた。
 だがしかし、触れた瞬間、反射的に「違う」と思った。
 何が違う、とか、どこが違う、とか、そんなことを考えるよりも、とにかく違うと感じていた。

 ――カズヤとは、なにもかもが、違う――と。

 道弘は彼女の肩を掴むと、そこを押してその体を自分から遠ざけた。
 そうして頭を下げて、謝罪の言葉を口にする。
「ごめん」
「……え?」
「とにかく、ごめん」
「ちょっとそれ、どういう意味よ!?」


- 10 -

[*前] | [次#]
[戻る]

Copyright(C) 2012- 融愛理論。All Rights Reserved.

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -