PUZZLE 9


 そしてカズヤにも何か思うところがあったのか、旅行以来、道弘の家に来ることがなくなった。
 道弘がカズヤを避けているのと同じように、カズヤからも避けられている――。道弘がそのことに気づくのに、そう時間はかからなかった。
 なぜなら、カズヤの両親である叔父や叔母は、それまでと変わりない頻度で、自宅である天王寺家を訪れていたのだから。
『最近カズヤくん、来ないわね』
 トイレで用を足そうと階下に降りると、まるでタイミングを計ったかのように、叔母に尋ねる母親の声がリビングから漏れ聞こえてきた。
 思わずその場で立ち止まり、悪いと思いつつ、聞き耳を立てる。
 答える叔母の声は母親よりも幾分柔らかく、そして、そこにはほんの少しだけ、心配の色が含まれていた。
『そうなのよね〜。今日も誘ったんだけど行かないって言うし……。もしかして、みっちゃんとケンカでもしたのかしら』
『ケンカ!?』
『だって今まで、何かにつけてみっちゃんの家に行こうって言ってた子が、急に行かないって言い出したのよ?』
『そうねぇ〜、カズヤくん、道弘にべったりだったものね〜。だとしたら、きっと道弘がカズヤくんを怒らせたのよ。ホラ、覚えてる? 道弘がまだ小学校に上がったばかりの頃カズヤくんと……』
 親たちは、次に道弘がまだ幼い頃の苦い思い出を掘り起こすように、昔話に花を咲かせ始める。
 会話の流れが変わったことで、道弘は足音を立てないように気をつけながら、その場をそーっと離れた。
 自室に戻り、やはり音に気をつけながら扉を閉めて、その場にずるずるとしゃがみ込む。
「はぁ〜……」
 何に対してかわからない、深い深い溜め息が、道弘の口から零れた。
 カズヤにはずっと、自分のそばにいてほしいと思っていた。
 いつでも手が届く距離にいてほしいと。
 そう思いながらも、道弘が自分から動くことはなかった。結果、カズヤは簡単に離れていった。
「いんだよ……これで……」
 自分に言い聞かせるように声に出してみても、虚しさばかりが胸に広がる。
 そばにいるのが、あたりまえだと思っていた。
 従兄弟なのだから、繋がりは消えないと思っていた。
 だがそれは、完全に道弘の思い込みでしかなかったのだ。
 これまでカズヤがあんなにも道弘のそばにいたのは、従兄弟という繋がりが保たれていたのは――いつでもカズヤが行動を起こし、道弘へと近づいてきていたからに他ならなかった。
 あのときも、あのときも、あのときも――。
 改めて過去の記憶を辿れば、そこかしこにカズヤの気持ちが垣間見える。おそらくカズヤはずっと、自分だけを一心に思い続けてくれていたのだ。


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