愛なんて、ない、なんて 4


 いつだって、自分勝手に俺を呼ぶくせに。
 俺の都合なんてお構いなしに、性欲処理のためだけに俺を呼びつけるくせに……!
 喉まででかかった反論は、唇を噛みしめ、喉奥へと飲み込む。
 もういい。もうやめよう。虚しいだけだ。
 のろのろと震える足を動かす。玄関で靴を履いて外へ出る。その間俺の耳に届いたのは、テレビから流れる雑多な音と笑い声だけだった。





 芳男の言う「当分」は、僅か一週間で終わりを告げた。
 呼ばれた理由なんてわかりきっているのに、それでも俺は芳男の部屋へ来て、服を脱ぎ、足を開く。
「あ、ああぁ……っっ!」
 まるで動物の交尾のような体勢で後ろから貫かれて、悲鳴に近い声が漏れる。
 ツライ、と感じたのは最初だけ。体はすぐに芳男の形に馴染んで、脳はすぐに知っている快楽を手繰り寄せることに成功した。
 そうなればもう、俺の口から出てくるのは、甘ったるい喘ぎ声だけ。
「あぁんっ、んっ、ぁはっ、はぁっ」
「あー、久しぶりだと超気持ちいー……」
 自分の意思とは裏腹に、懸命に腰を振っては銜えこんだそこで男を感じ、体は勝手に頂点を目指す。
「やぁっ、あぁっ、あぁんんっ、んっ、はぁっ」
「なんだよ圭太、今日感じまくりじゃん。一人でしてなかったのか?」
 やめよう。こんな関係、もうやめよう。
 切り出すきっかけを、言葉を、頭の中で何度もシュミレーションした。
 それなのに、未だ言い出せずに、そんなこととはまるで逆の行為を、自ら求めている。
「やぁっ、あぁっ、あっ、ダメ……!」
 俺の背中にぴたりと張りついた芳男が、耳元で囁く。
 ねっとりと耳朶を舐められ、体はひくひくと小さく震えた。
「なー、圭太、どうなんだよ?」
「んっ、知らな……!」
 浅い場所でゆるゆると出入りしていたものが、奥を目指して速いスピードで押し入ってくる。
 深い突き上げに、たまらなくなる。目の前がチカチカする。
「あー、もうイきそうなんだろ? メチャクチャ締まってきた」
「あっ、言う……なっ……、ぁ、はっ、はぁっ」
 同時に前に回した手で胸の飾りを弄られる。
「やぁっ、あぁっ、あ―――……!」
 追加された刺激が引き金となって、俺はあっけなく達してしまった。
 勢いよく飛び散る精液。絶頂の余韻に浸る間もなく、いったん動きを止めていた中の芳男が再び動き出す。
「あー、圭太の体って、マジ、気持ちイイ」
「か……、はっ、あっ、あぁあっ」
 体?
 体だけ?
 わかっていたことなのに、言葉の裏を勝手に読み取った心が、悲鳴を上げる。
 もうやめたい、こんな関係。
 苦しくて、悲しくて、寂しくて、虚しくて。自然と涙がこみ上げてくる。ぐっと唇を噛んでどうにか零れ落ちるのを防いだそのとき、激しい律動を繰り返していた芳男が、信じられない言葉を口にした。
「あー、俺も抜いてなかったからなー。結構ヤバイ」
「な……! ハ、アアァァッッ!!」
 なんで、という疑問は、言葉に出来なかった。
 俺の片足を持ち上げると芳男は、体を反転させて俺に覆いかぶさり、戸惑う俺の唇を唇で塞いできたのだ。
 感じたのは、驚きだった。
 散々セックスはしたけれど、思えば、キスをしたことはなかった。
「んんっ、んっ、ふぅんんっ、んっ」
 俺の口はあっさりと舌の侵入を許し、芳男の舌によって、口腔内を隅々まで蹂躙されている。
 半開きの唇から飲み込めない唾液が零れ落ちる。いったん唇を離した芳男がそれを舐めとって、再び唇を合わせてくる。
 気持ち、いい。
 背後が冷たい床でも、たとえ、相手の男が俺の体だけしか求めていないとしても。
 今はこの気持ちよさに浸っていたい。
 俺は無意識に腕を持ち上げ、芳男の首に回していた。
 さっきこらえたはずの涙が流れ落ちる。


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