放課後の教室で 2


「カズ……!」
 グイ、と引き寄せられて反射的に一貴の顔を見上げれば、すぐに重なってくる唇。
 ほとんど無抵抗だったオレの唇を簡単に割って入ってきた舌先が、口腔内で蠢き始める。
「ンう、んっ、ンふ……、ふ……ぁ……」
 粘膜を丹念に舐め上げ、舌と舌とを擦りつけ、ねっとりと絡めあう。
 経験値が乏しいオレの体は、深いキスだけで、あっという間に昂ぶっていった。
 ゾクゾクと背筋が痺れ、下腹部に熱が集まるのがわかる。
「んっ、ふ……、ンぁ……、あっ……」
 開きっぱなしの口から漏れるのは、自分のものとは信じられないほどに、甘い、喘ぎ声。
 いつだってそうだ。こんなのオレじゃない。思っていても、心とはウラハラに、体は正直に反応してしまう。
 次第に全身から力が抜けてきて、持っていたカバンがドサリ、と重い音を立てて床に落ちた。
 膝が落ちる寸前で、一貴に抱きとめられる。
 オレは、気力を振り絞って下肢に力を入れ、自分の足で何とか立つと、一貴の体を突っぱねた。
「……学校でこういうことするの、やめろよ……!」
「………」
 了承などないまま、斜に下げた視界の隅で、一貴の足が動く。
「――なら、帰るよ」
 無機質な声音でたった一言。それだけ告げると一貴は、カバンを拾い上げ、再びオレの手を取った。





『那由、帰るよ』
 防災無線が夕暮れを知らせると、そう言い出すのはいつも一貴だった。
 まだ帰りたくないよ。もっと遊んでいたいよ。
 ごねるオレをなだめることはせず、いつも、一貴は、ただそう言うだけ。
『那由、帰るよ』
 そうしてオレが観念してその手を取るまで、ずっと右手は差し出されたまま。
『那由』
『……………うん』
 長く伸びた二つの影。
 天辺から地平へと、綺麗な濃淡を描く空。
 オレンジ色に染まる街並み。
『明日まであれ、残ってるかな』
『どうかな』
『だれかに、壊されちゃったりしない?』
『そしたらまた、作ればいいよ』
 明日の約束なんて、したこともなかった。
 だって、それが当たり前だったから。
 隣にいることが、当たり前だったから。





「ア、アァ……、そこダメ……!」
 溢れ出た体液を塗りつけるように鈴口を親指の腹で擦られ、チリチリと、痛みにも似た快感が走った。
「でも、こんなに濡れてる」
「アッ、ッ……アァ……!」
 事実だけを淡々と告げられる。ただそれだけで、尚更に溢れ出てくる透明な滴り。
 一貴は、いつだって簡単に、オレの体を奥の奥まで暴いてしまう。
「アッ、カズ……、アッ」
「こっちも、もう三本も飲み込んでるし」
「アッ、イヤ、いや……」
「『イイ』、だろ?」
「………」
「ほら、言って」
「……――イ、イ……、気持ち、い……」


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