階段の踊り場で 2


 男同士で、幼なじみで。オレ達今まで親友としてうまくやってきただろ?
「なんでいきなり、そんなこと、言うんだよ……?」
 この先もずっと、この関係は続いていくんだと、漠然と思っていた。
 十年経っても、二十年経っても、きっと、ずっと、一番の親友でいられると思っていたのに。
 これからもずっと、隣で笑ってられると思っていたのに。
「なんで……?」
 わからない。
 一貴がどうしたいのか。
 この関係を壊したいのか。壊して終わりにしたいのか。それとももっと別の――。
「わっかんねぇよ……!」
 握り締めた両の拳。
 やり場のない怒りのような、憤りのような感情が胸に渦巻いて気持ちが悪い。
 でも、一番わからないのは、一貴の気持ちに対する、自分自身の心、だった。





 真向かいに立って、初めて気づく。
 一貴、また、背が伸びた。
「那由多」
 どうして学校の、しかも階段っていうのは、無駄に声が反響するんだろう。
 普段とは違う色を纏い、左右の耳に流れ込んでくる一貴の声。
 明かり取りの窓から差し込む日差しは既に、やわらかなオレンジ色だ。
 放課後の、こんな中途半端な時間に、こんな中途半端な場所に来る物好きなんていないと思いながらも、声を出すことに、誰かに聞かれる可能性に怯えて、オレは、上手く返事ができずにいた。
 この時間が、この場所が、どっちつかずで中途半端な今のオレと一貴の関係を表しているようで、いたたまれない。
 それでも――。
「那由多、約束だろ?」
「――わかってる、よ……」
 厳しい口調の一貴に気圧される形で、オレは足を進めて一貴との距離を詰めた。





 あれから、一貴のオレに対する態度は一変した。
 以前と変わらず登下校は一緒にしてくれるものの、必要以上にオレに近づかない。話しかければ返事はするけど、一貴から何かを話すことはない。
 はっきり言って気まずい。
 一番の親友で、一番の理解者だったオレの大切な幼なじみはどこかへ消えて、まるで、同じ名前の別人と一緒にいるようだった。
 そんな状況に耐えられなくなって、ある朝会うなり、オレは一貴に食ってかかった。
「オレにあんなこと言って、それでお前は一体どうしたいんだよ!?」
 そう叫んだオレの唇を、一貴の指先がすっと撫でた。
「そうだな。――キス、したい」
「キス………」
 心臓がドクン、と大きく跳ねる。
 キス――。
 まだ誰とも、したこと、ない。
「キス、させてくれたら、那由多のこと諦めてもいい」
 なんだよ、それ。
 諦めるって、なんだよ。
 オレはお前のこと、好きとも嫌いとも言ってないのに。
 お前こそ、「好き」って言っただけで、オレと付き合いたいとか、恋人になりたいとか、女とするみたいなこと、したい……とか、そういう、普通なら「好き」のあとに続くこと、一切言わなかったくせに。
 言いたいことが心の中でたくさん渦巻いて、胸がじりじりして、すごくすごく、不愉快だった。
 でもオレはそれを胸の奥底にぎゅっとしまいこんで、挑むようにまっすぐに一貴を見据えた。
「わかった。――しよう」
 そうして放課後、部活のない生徒があらかた帰った頃になってようやく連れてこられたのが、生徒は立ち入り禁止の屋上へと続く階段の踊り場。
 下からは死角。上に人はいない。


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