校庭の真ん中で 1


「――アッ……!」
 後ろから貫かれて、思わず声が出た。
 たくさんの人でにぎわう学校の中で、まるで、ここだけ切り取られた別空間であるかのように、静か――だった。
 そう、一貴に連れられて、この教室に入ったときまでは。
 音を反響させないカーペット敷きの床。光を通さない黒くて分厚いカーテン。そして、きっちりと閉められた分厚い扉。
 その性質上、防音の効いた室内には、今はオレの喘ぎといやらしい水音だけが響いていた。





 春に花を咲かせていた桜並木が僅かに赤を見せて葉を落とし、冷たい空気が近づく冬を思わせる気候の中、本来なら休日であるはずの土日を使って行われる、高校生活最初の文化祭。
 中学の時と比べて規模の大きなそれに、どんなことをするんだろうと期待に胸を膨らませたけれど、クラス代表がくじ引きして決まったオレたちのクラスの割り当ては「展示」だった。
 内容は、男女からそれぞれ二名ずつ選出された文化祭実行委員の間で既に決まっていたらしい。大河ドラマを意識したのかはたまた委員の中に歴史好きでもいたのか……戦国時代に焦点を当てた歴史年表と勢力図の作成という、無難で、誰でもそれなりに楽しめる分、面白みに欠けるものだった。
 大きな模造紙数枚に分けて年表を書き、紙粘土を使って立体的な日本地図を作り、勢力ごとに色分けして、いかにも「らしく」見えるよう、小さな旗印を立てた。
 前日までの準備段階が終われば、展示というのは当日特にすることがない。
 朝、一緒に登校してきて、机と椅子が取っ払われた教室で出欠を取ったときまでは確かにいたのに、いつの間にか姿を消していた一貴。
 小さな頃から一緒にいるのがあたりまえで、特に約束なんかしていなくても、一貴は、いつも、いつでも、オレのそばにいた。
 だから、一緒に回ろうと約束していたわけじゃないけど、オレはすっかりそのつもりだった。
 ひとり佇むオレに声を掛けてくれた友達を断り、少し考え、オレは当てもないのに廊下を歩き出した。
 そして、見つけてしまった。
 ――ひとりじゃない、一貴を。





 がちゃん、と重い音がして、鍵を掛けられたのだと脳が理解した時にはもう、オレの体は壁に押さえつけられていた。
 両腕をまとめて頭上で握られたまま、荒々しく重なってくる唇。
「ン、ンンッ……、っ、ふ……ぅン……」
 キスはすぐに深いものへと変わり、オレの口腔を乱暴に犯す。
 舌先でオレの口の中を隅々まで探りながら、もう片方の手が下へ向かうのが視界の端に映った。
 慣れた手つきでベルトとボタンを外され、ジッパーも下げられ、バサッと音を立てて布が床に落とされる。
 直接触れてきた冷たい手に、嫌な予感。
 まさか、ここで?


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