授業中に屋上で 4


 結局、一貴の口から明確なことはなにひとつ聞けなかった。けれども、それはそれで、オレを落ち込ますのには充分だった。
 はぐらかすような台詞の後で、一貴がオレの顎をすくい上げる。
「那由」
 明らかに、キスの体勢。
 さっき、別の女の子とキスしたこの口で、オレともキスするの?
「ヤッ……!」
 反射的にオレは、一貴を突き飛ばしていた。
「あ……、ごめ……」
 無表情だった一貴の顔に、僅かに笑みが浮かぶ。
 意味がわからなくて後ずさると、腕を掴まれて、胸に抱きこまれた。
 そのまま再び顔が近づいてきたと思ったら、あっと思う間もなく、唇が重なった。
「ヤ……ダ……」
 すぐに振り切ってやっとの思いでそれだけ言うと、一貴は、やっぱりさっきと同じ笑みを浮かべていた。
 そしてその口から出てきたのは、予想外の言葉。
「妬いた?」
「な、に……?」
「だから、妬いた?」
「………」
 答えられない。
 その答えは、自分の中にはない。
「別に、誰だっていいんだけどね」
「……………え?」
 誰だって、いい――?
 それは、胸をえぐるような、重い衝撃。
 そっか。
 今わかった。
 一貴がオレに、好きだと言わないわけ。
 オレだから、じゃない。
 オレじゃなくても、誰でもいいんだ。
 「好き」なんて、ただの口実。セックスするための、口実。
 だったらオレは、どうしたらいい?
 一貴を好きだと気づかされて、キスして、セックスして。
 こんなにも一貴が好きで、一貴を求めているオレは、どうしたらいい――?
 一貴が再び距離を詰めてくる。
 逃げるように一歩後ろに下がる。一貴が向きを変えて更に詰め寄ってくる。
 ジリジリと後退すれば、すぐに背中がフェンスにぶつかった。
 カシャン、と音を立てて、一貴がオレの両脇のフェンスを掴む。
 逃げ場が、ない。
 唇が合わさったと思ったら、いきなりの、激しいキス。
 未だ拭えない嫌悪感。それでも、快感を覚えこまされた体は、必死でそれに応えていた。
「んはっ、はぁっ、……あっ、ふ、ぅ……」
 卑猥な水音を響かせながら、自らも舌を差し出し、深く濃く、絡め合う。
 唇以外に、触れている場所のない体。
 その腕で抱きしめて欲しい。その口で、好きだと言って欲しい。
 オレのことが好きなんだと、好きだからこういうことをするんだと。
 さっきはあんなに嫌だと思ったのに、今のオレはもう、自分からキスを求めている。
 こんなに苦しいのに、どうして――。

授業中に屋上で・END


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