授業中に屋上で 3


 そうして、一貴が自分のズボンの前を寛げた時にはもう、それが欲しくてたまらなくなっていた。
 惜しげもなく雫を垂らし、白濁を吹き上げ、一貴の手で何度何度も絶頂に達した。
「那由……」
 硬度を失ったものをオレの中に埋め込んだまま、一貴がオレの体を抱きしめる。
 高ぶっていた体が落ち着きを取り戻すまで、一貴はそのまま、動かずにいてくれた。
 優しい手に、昔と同じようにオレを呼ぶ甘い声に、涙が出そうになる。
 幼なじみが、名前を変えて、もっと近しい関係になったのだと思った。
 あれから、何度抱かれただろう。
 今のオレには、オレと一貴の関係を形容する名前が、わからない。





「―――!」
 その瞬間、あまりの驚きにオレは、声すら出せなかった。
 ただ呆然と、二つの影が重なるさまを、遠くから見ているだけ。
 女の子が、一貴の首に手を掛け、そのまま爪先立ちをしてゆっくりと顔を近づけて――。
 ほんの数秒ののちに、満足そうに微笑んで体を離す女の子と、何の反応も示さない一貴。
 向きを変えた女の子がオレに気づく。僅かに赤く染まった頬は、女の子らしく、愛らしい。出口に向かって足早にオレの脇を通り過ぎていくのを、つい、目で追ってしまっていた。
 だからオレは知らない。
 その時の一貴が、どんな表情をしていたのか。
 気づけば、すぐそばに一貴が立っていた。
「那由」
「あ……、えっと……、その……」
 あんな場面を見せられて、気にならないわけがない。
 聞きたい。知りたい。あの子は一体誰なのか。どんな関係なのか。
 でも、聞くのが怖い。
 しばらくの葛藤の末、結局聞きたい気持ちが勝って、オレは、一貴と目線を合わせないまま、一貴に問いかけていた。
「……あのさ、今の……誰?」
「………」
 だけど一貴は無反応で、そっと仰ぎ見れば、そこにあったのはいつもと変わらない無表情で。
 嫌な沈黙が続いた後で、一貴から、逆に質問を返された。
「知りたい?」
 知りたい。でも、もしも、一貴との関係を肯定するような言葉が返ってきたら、オレは一体、どうしたらいいんだろう。
 一貴との関係に自信がなくなっている今のオレは、きっと、その事実に耐えられない。
 やっぱり、聞くのが怖い。
「……………ううん。やっぱり……、いい……」
 静かに否定すると一貴は、遠くを見ながら呟いた。
「誰だろうな」
「………」
 それは、果たしてオレの質問に対する答えだったのか。


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