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《Law: 今度は2人で話したい……》

秋の空は高く、うっすらと空を覆う雲が柔らかな日差しを届けてくれる。ユリからチャットに話しかけた日からしばらく経ち、ようやくユリもネットでの会話ややり取りに慣れてきていた。ローたちの研修医生活のブログも毎回しっかり読んで治療の感想や患者との対話など、教科書や参考書の知識からは知り得ない情報を教えてもらっている。チャットで話すようになっても、やはりブログの感想はコメントとしてちゃんと伝えたいと考えるユリは、内容を何度も読み返し、自分なりに思った事をコメント欄に綴った。



ユリから初めて話しかけてきた日曜日。予てよりユリと話したがっていたシャチは念願かなってようやくユリとの会話を楽しんだ。あまりの喜びようにペンギンが惚れたのかと問えば、どちらかといえば妹が出来た気分で構いたいということらしい。仕事始めの月曜日から一人テンションの高いシャチに、ペンギンは苦笑しながら溜息をつく。シャチとは対照的に、自分と同じく外科の研修を受けるローの機嫌は悪かったからだ。

「キャプテン」

「……後にしろ」

カルテの記載をしていたローは、いつもとは違い眼鏡をかけて検査オーダーを眺める。それから今度は分厚い専門書を開いて症例を読み漁り、またカルテに何かを書き込んだ。

「……どこに居るんだろうな」

ふいにローが呟いた。主語のないその言葉の意味をペンギンが理解できると分かっているからだ。ペンギンはただ静かにローを視線の先を見る。確かに画面に向かっているものの、その目はなにか別の物を映しているようだ。

「シャチとベポなら……喜んでついてくと思いますよ」

彼女の元になら、貴方が行きたいというのなら。言わなくても分かっているだろう。ローはちらりとペンギンを見るとフッ笑みを浮かべる。

「お前もか?」

「勿論」

シャチもベポも、そして自分も、ローに自分たちの夢を一緒に託しているのだ。自分が叶えられないからではなく、ローと一緒にその夢を見て、ローにその夢を叶えて欲しいと思っているから。ローが専門書を閉じたところで、ペンギンはローの横に座った。そして時計を見てから頷く。

「30分で仕上げれますよね」

「15分で十分だ」

自信満々に言い切ったローは不敵に口の端を吊り上げるとゆっくりと目を閉じた。そしてスッと目を開き、そこからは物凄い集中力で仕事を片付けていった。




夕暮れに染まる空は、ネオンの明かりに侵されていた。温かみのある色が、冷たい氷に浸食されているように見えて、ローはユリを思い出した。田舎に住んでいると言ったユリだ。きっと彼女の知る夕暮れはもっと綺麗で美しいのだろう。多くの車に囲まれて帰宅する事もなければ、息の詰まるような人の多さもきっとない。ユリがいる場所はきっと、ここよりも自由な気がしていた。
帰宅するとベポお気に入りの肉球のイラストが描かれたメモ帳が机に置いてあった。どうやら夕飯の買い出しに行っているらしい。ローはそれを一瞥し、それから思い立ったようにスマホを取り出す。チャットに入ってみれば、既にユリが居た。何故かその事がとても嬉しく感じられて、ローは早速書き込みをする。

《Law: ユリさん》

《ユリ: はい》

《Law: ×××-××××-××××》

数字の羅列のみを書き込む。でもきっとそれだけじゃユリは混乱してどうすればいいのか分からなくなるだろう。ローは更に文字を連ねた。

《Law: 今度は2人で話したい……》



(ROM専て意外と緊張するんだね)
(ユリさんどうするんだろうな)
(いいから早く夕飯作るぞ)
_6/15
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