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《ユリ: えっと……ユリです.》


どうやらLawかららしいが、まだ頭の整理がついていないユリはなかなか書き込むことが出来ない。どうすればいいのか考えていると、また誰かがチャットに入ってきた。

《シロクマ: キャプテン、今日おれ達カンファレンスがあるから遅くなるかもー((ヽ( ´・∀・`)ノ))イッテキマァース♪》

《キャス: あれユリさんて、嘘!?キャプテン呼んだんすか!?おれたちカンファなのに!?ユリさん、すぐ戻るから!!イテキマ-ス!!Σ≡≡≡((っ`・A・)っ ドピューン》

ものの数分の間に書き込まれたやり取りは、ここ1カ月で知り合った人たちで間違いないようだ。ユリは一先ず悪いサイトに飛ばされたわけじゃないという事で胸を撫で下ろすと、意を決して文字を入力し始める。

《ユリ: えっと……ユリです.》

何を書けばいいか見当もつかなかったため、取り敢えず名前を入力してみる。しかしよくよく考えれば相手はユリと分かっていて呼んでいるのだから寧ろそれは不要なはずだった。ユリがそれに気づき続きを書けずにいると、最後の1人がチャットに入ってきた。

《ピング: ユリさん、こんばんは.こっちでは初めまして.》

《Law: ブログだといろいろ順番でガタガタ抜かす奴が居るからこっちに呼んだが……大丈夫か?》

恐らくキャスさんのことだろうとユリは思い浮かべながら、はい、と短く返事を打つ。するとLawから今度は何やら英数字の羅列が送られてきた。

《Law: それがPassだ.さっきは外したが、ここはプライベートチャットだからここを登録したら、今度からそれを使って入ってくれ.》

渡された英数字の羅列はどうやらこのチャットのパスワードらしい。ユリは忘れないようにと何度もつぶやきながら覚えると、いつの間にか書かれていた文章には名前が書かれていた。

《ピング: ここだとブログの名前以外で呼ぶことの方が多いから一応書くと……
Law → ロー、キャプテン
シロクマ → ベポ
キャス → シャチ
ピング → ペンギン
それからおれはしばらくROMるからその間はキャプテンと話していてくれると嬉しい.》

丁寧に書かれていた文章にユリは画面越しに思わず会釈し、それから文字で書かなければ分からないと気づき、ありがとうございますと入力した。チャットに3人居るものの、実際2人きりとなっている状態で、ユリは何を話しかけようかと、再び考え始める。

《Law: ユリさん》

ユリが話題を探そうと考えて数分もしないうちに、ローの方から話しかけられた。毎回文字を打つのに時間がかかってしまうユリは何だか申し訳なく思いながらも短く、はい、と書き込む。

《Law: コメントを見る限り知識があるように思える.》

医者か、それとも看護師かと問うローに、ユリは首を振りながら文章を綴った。

《ユリ: いえ、その……ちょっと勉強してるだけで.なけなしの知識です.》

《Law: そうか……、研修期間が終わったら一度ユリさんと話してみたいと思ったんだが.医大生でもないのか?》

トクンとユリの胸が高鳴る。自分が憧れている道を進んでいるローたちとこうしてチャットが出来るだけでも嬉しいのに、まさかそんな事を言ってもらえるとは。もちろん、顔も知らない相手なのだから一抹の不安はあるものの、やり取りをしていてなんとなく大丈夫な気がしているのも事実だった。けれど自分はその道を諦めてしまっている以上どうしようもない。

《ユリ: 私、身体があまり強くないので大学も通信で通ってて……その、お医者さんには憧れてるんですが.》

そう書き込むと、ローから間髪入れずに書き込みがきた。

《Law: 研修が終わったら診てやろうか?それで治ればそれから資格取って医療関係に進めばいい》

意外な言葉にユリは驚く。ユリの身体が弱く都会に出れない理由の一つには、ユリの住む田舎には医者が居ないことが挙げられる。軽い風邪を拗らせて病院に行こうと思っても、バスや電車にしばらく乗っていちいち街中まで出なければならず、そうしているうちにユリの体調はどんどん悪くなってしまうのだ。結局病気になると遠方から医者に来てもらうか静かに寝て治すという状態で、ユリの体調が全快することは少ない。そして免疫力や抵抗力が常時落ちているため、すぐに病気に罹ってしまうという悪循環に陥っていた。
ローの言葉に、淡い期待を抱いてしまう。そして何より、自分が諦めていた道が歩けるかもしれないという可能性に、ユリの頭はパンク寸前だった。

《ユリ: 考えても、いいですか?》

時間をかけて書き込んだ言葉は随分と短かった。しかしローの返事は、あぁとこちらも短く、ユリの初めてのチャットはここで終わった。




(あー、キャプテンなにユリさんと勝手に仲良くなってるんすか!?)
(いいなー、キャプテン!!)
(お前らが遅いのが悪ィ)
(今度日曜日休みだろ、話しかけてみたらどうだ?)


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