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<ユリさん初めまして!おれキャスです.>

初めてのコメントの貰ってから、もう1カ月が過ぎていた。あれからぽつりぽつりといろんな人からコメントをもらうが、やはり最初のユリからのコメントだけは何だか特別な気がしていつも返信はみんなで順番にすることにしている。最初はローが、次にペンギン、ベポ、そして今日、ようやくシャチの順番がやってきた。1番返信したかったのに最後になってしまったのは少々腑に落ちないが、こうして返信が出来るなら文句はない。

「何書くかなぁ……」

「シャチ、代わってやろうか?」

ソファに座り考えていたシャチにコーヒー片手にローがニヤリと笑いながらやってきた。もちろん全力で拒否しながらシャチは早速キーボードを叩く。

<ユリさん初めまして!おれキャスです.4人でグダグダやってるブログを読んでくれてありがとう.これからも宜しくd(ゝ∀・*)ネッ!!>




「ユリちゃん、差し入れに来たわよ」

リビングに隣接するウッドデッキから窓をノックしにっこりと笑った相手に、PCで通信授業を聞いていたユリは一時停止を押し講義を中断すると窓の鍵を開けた。

「シャッキーさん、わざわざありがとうございます」

隣の家に住むシャッキーことシャクヤクは、ユリが幼い頃からお世話になっている人物の1人だ。シャッキーの夫であるレイリーとともに、両親の居ないユリの親代わりをしており、時折こうして食事などを持って来てくれている。

「いいのよ、今日はレイさんの好物作り過ぎちゃって……もう歳なのに良く食べるから困るわ」

「貰っちゃっていいんですか?」

「えぇ、今日は遅く帰るらしいから」

一緒に食べましょう、とシャッキーはリビングからキッチンに迷わず行くと、そのまま調理器具を準備し始める。もう10年以上何度もこの家で料理を始め家事をしていたシャッキーにとっては自宅も同然だった。ユリも嬉しそうにシャッキーの後を追いキッチンに向かう。どうやら差し入れは1品だけで他はこちらで作るつもりだったらしく、持参した袋の中から出てくる野菜を手際よく切るシャッキーに、ユリもいそいそとエプロンを纏って手伝う。

「ふふ、最近楽しそうね?彼氏でも出来た?」

「っそんな……、彼氏なんて、居ないです」

「大丈夫よ、もう今年で21歳でしょ?結婚しても大丈夫だし……まぁお嫁さんに行くにしても身体のことがあるからこっちに住むことになるんじゃない?」

ユリの家は分限者であり、代々この地域を治めていた名主で医者の家系だった。両親も医者であったが早くに他界し、この大きな家はユリ1人の物になっている。分家の親戚たちはこの片田舎から出て都会で暮らしており、顔を合わせるのも年に一度あるかどうか程度だ。ユリ自身も医者を希望していたが、病弱で都会の空気が身体に合わないユリは親戚の家に遊びに行って以来一度もこの自然豊かな田舎から出たことはなかった。

「……結婚」

「ユリちゃん可愛いからすぐ見つかるわよ、ねーリカ」

シャッキーの言葉の後、ユリの脚をするりと愛猫が通り抜ける。にゃーと鳴きながらそのままユリの近くに寝そべったリカはのんびりと2人を見上げる。

「リカが気に入る相手じゃないとね」

楽しそうに笑ったシャッキーと欠伸をして寝てしまった愛猫にユリも笑顔が零れた。




夕食後、シャッキーをウッドデッキから見送ったユリは講義を再開しようとPCを開いた。そしてブログからの通知が来ていることに気づくと、そのままそちらを開く。どうやら今日は4人の最後の1人、キャスの番らしく可愛い顔文字つきの返事が綴られている。この1カ月でブログの4人全員とやり取りをしたユリ。

「Lawさんは簡潔だけどどこか優しげな、シロクマさんはどこか子供っぽくて可愛くて、ピングさんはとっても丁寧で、キャスさんは楽しそうな人」

4人を自分なりにこんな人だろうかと考えてみると、自然と笑みが浮かんだ。ブログの紹介には4人は同じ病院で研修医をしており、シェアハウスに一緒に住んでいるという。仲のいい友人というものの居ないユリにとって4人とのやりとりは、ほんの少しだけその友人との会話を楽しむような感覚をくれる。

「あれ……?また通知が……」

ふともう一通返信が来ていることに気づく。もうキャスからの返事は来ており、今日はこれで終わりと思っていただけにユリは驚く。トクントクンと高鳴る胸にそっと手を添え恐る恐るマウスのアイコンを合わせて開いてみる。

「Lawさんから……?」

そこにはURLとLawの文字だけ。不思議に思いつつも開いてみると、見知らぬチャットに繋がった。もしかして何か悪い悪いサイトに繋がってしまったのだろうかとユリが慌てていると、チャットに誰かが入ってきた。。

《Law: ユリさん?居るか?》




(Lawさんなのかな……?)

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