▼ オレたちのかたい友情
「母ちゃんのばかぁあああああ!!!!」
起こしてって言ったのにィ!と叫ぶオレは、おったまげるくらいに顔から出るもの全部出しています。
いつもいつもそうなんだ。大事な時に限って寝坊、忘れ物、または病気する。
そんでもって今日は寝坊です。
意気揚々と、マサラタウンとさよならバイバイする筈だったオレの予定は狂いに狂っていた。現在自転車で坂を爆走中。
はぁんオーキド博士の研究所が見えてきたぁ‥‥!なんて気を抜いたその瞬間の事でした。
ぱっこーん。
「ひょわぁああああ何事ぉおおおおお!?」
目的地だった研究所が一気に視界から消えて、一面青い空。それもどんどん近づいてきているような、いやいやいや、オレが近づいてるんですねオーケー。
イッシーー!とかいう何かが聞こえた気がしたけれど、それを認識したとたん。
おれの めのまえが まっくらになった▼
×××
目を覚ましたオレの世界は茶色いゴツゴツしたものでいっぱいだった。
「イシィ‥‥」
「んんん?なんぞこれは、固いなり」
「固くて当たり前でしょう。イシツブテなんだから」
「母ちゃん‥‥何故イシツブテがここに?」
「周り見てないあんたがこの子にぶつかって、自転車と一緒に空を飛んだのよ」
「ははーんなるほど理解。母ちゃんの態度が冷たすぎる事も理解。オレは悲しい」
「あんたを家まで運んでくれたこの子に感謝しなさい」
「まじか有難うイシツブテ。‥‥ねぇなんでそんなに冷たいの、母ちゃん。まさかばかって言ったのきこえてた?」
「マサラタウン中に響いてたわよ」
「うそん」
「イシ‥‥?」
ゴツゴツした手がオレの頭を撫でた。
何故だろう、優しさが無性に身に染みる。
「きみ、いい奴だなぁ。オレを心配してくれるか。それはそうときみは怪我をしてないかい?思い切りぶつかってしまったようだから」
「イッシー!」
「おおう元気そうで何より」
よっこらせ。身体を起こせば、恐らく数分前、慌てて飛び出して言ったままの状態の部屋だった。起きた際に体のバランスを崩したイシツブテがころりとベッドから転がり落ちて、ドゴンとヤバめの音がたつ。床抜けてない?下は親父の部屋だから全然構わんけど、えへへ。
「そうそう。博士がね、渡せるポケモンはもう残っていないから頑張りなさいって」
「ふぁー?」
「モンスターボールをくれたのよ」
「ふぁい?」
「手始めに、この子をゲットしてみたら?」
「えぇー?‥‥っていう事なんだけど、きみ、オレと一緒に来る気はないかね」
「イッシ!イシイシ!」
モンスターボールをかざしてみれば、ハイタッチをするように開閉ボタンに触れたイシツブテ。手の平でころころ揺れたそれはポーンと軽い音を立てて静かになった。
「ほら、荷物詰めておいてあげたから。さっさと行きなさい」
「エッ」
「さっさと行く!」
「ふぁぃいいいい!」
「‥‥あれから早ウン十年‥‥オレもおじさんになるわけだよなぁ」
「ゴニャ?」
「ううん、何でもない。行こうか我が友ゴローニャよ」
「ゴロ!」
友が歩く度に地面が揺れる。踏ん張りの効かなくなってきた身体に老いを感じ始めてきて、そろそろ鉱物研究者としてのフィールドワークも無理かなぁなんて思っている今日この頃。
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