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▼ 時をかけるディアルガ

ヒトだって、ポケモンだって、私からしてみればその命の炎は一瞬だ。
儚いが、それ故にとても美しい。

私の立場として、ひとつの個に固執するという行為はあまり褒められたものではないだろう。しかし、私は出会ってしまったのだ。固執、執着、なんとでもいえばいい。
私にとっての“個”は、ご主人という存在だ。

私がなんなのかも知らない小さな頃に出会ったご主人。気紛れに姿を現した湖のほとり、それがはじまり。
危なっかしい足取りで近づいてきたご主人が、不思議そうな顔で私の足に触れた。ぺちりと小気味良い音がして、そこから体温が伝わる。
その時何故だか無性に泣きたくなった。
時の狭間で気が遠くなるほど過ごしていたせいで、他者の温かみに飢えていたのは認めよう。だから、もしかしたらご主人でなくとも良かったのかもしれない。
しかしあの時、あの場所で、私に触れたのはご主人だった。ご主人だったのだ。
それからご主人はトクベツになった。

ご主人は会う度に成長していき‥‥ああ、ポケモンスクールとやらに通い始めて漸く私の名前を知ったご主人の顔はとても面白かったなぁ。
ご主人がはじめてポケモンを貰って旅に出て。自分の手ではじめて野生のポケモンを捕まえて。あっという間にご主人の腰には6つのボールが引っ付いた。
私もそこに並びたいと言ったのに、ご主人は頑なに拒否していたな。あなたは個人のモノになってはいけない、と真っ当なことを言われてしまって諦めたが、私はそれなりにショックを受けていたんだ。今だから言えることだが。
ご主人が旅の中で夢を見つけて、有名なブリーダーになったのは驚いた。努力が実って私も嬉しかった。よくは分からないが、もしかしたら父親のような心だったのかもしれない。

‥‥‥ご主人。
どうした、眠るのか?‥‥そうか。
ああ、私が傍にいる。気にせず眠れ。
寄りかかるならそこよりも‥‥そうだ、その体勢の方が良い。世話焼きなどと言うな、ご主人にだけだ。‥‥‥そうか、父のようか。では先程の言葉も間違いではなさそうだな。
‥‥‥おやすみ、ご主人。


穏やかな顔で、私の体に寄りかかったご主人が瞳を閉じる。そうして間も無く、ご主人の全てが停止した。

ご主人の身体が段々と冷たくなり、やがてそれは無に還って。
それから漸く、私は立ち上がった。

ぶぉんという音を立てて、何もなかった空間に渦を巻いたような歪みを作り出す。大丈夫、何もさみしくない。

渦の中に飛び込んで、
ぐるぐる、ぐるぐる、
翔ける、駆ける、
はじまりの元へ。

次に時の狭間から出た時には、湖のほとりでぽかんと私を見る小さなご主人の姿が。

大丈夫、何もさみしくなどない。
ご主人が還るのならば、私もご主人の元へ還るだけのこと。

ただ、それだけのこと。



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