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▼ ビビリと強面

新人トレーナーとしての第一歩。それは博士からポケモンをもらうことから始まると言える。
俺も街のみんなと同じように博士の家に向かった。まあ、ひとつ言うと、寝坊をして予定時間よりも大分遅れての到着だったわけだ。
そのせいで残って居たポケモンは一択。勿論寝坊した俺が悪いので文句はない。これも運命ということで受け入れている。

「《キモリ。沈着、冷静、何事にも動じない。体の大きなポケモンに睨まれても、一歩も引かずに睨み返すぞ》」

ポケモンと一緒にもらった図鑑が、パートナーとなったこいつの説明を読み上げる。

‥‥はて。

「‥‥キャ、キャモ‥‥ッ」

目があった途端近くの草むらに飛び込んで、そこから飛び出してきた野生ポケモンにビビり俺の足にしがみつく。しかし再び目が合えば、自分の目を抑えて蹲ってしまった。この間10秒もない。素晴らしい素早さだ、とでも言えばいいのか。

俺がパートナーとしてもらったキモリは、どう見ても図鑑の説明とはかけ離れたものだ。睨み返すどころか涙目だし。
これはトレーナーの俺がなんとかしなければ。

ゆっくりと腰を落として、小さな頭を撫でる。恐る恐ると言った風に顔を上げたキモリに、子供に話しかけるようにして声を出した。

「キモリ、俺はご主人。今日から俺たちは一緒に旅に出る」
「‥‥‥キャモ」
「俺は自分の顔が他者を威圧する分類のものだと自覚はしている。現に今も怒っているわけではない。すまないがこれは理解してほしい」
「キャ」
「‥‥まあ、なんだ、仲良くしてくれるととても嬉しい」
「‥‥‥ッ!キャモ、キャ!」

差し出した手が、控え目に握られた。
先程よりも心なしか物理的な距離も縮まったような。

ああ、よかった。打ち解けることができたか。そう安心して表情筋を緩めた時、キモリが目を回して倒れた。

「‥‥‥え」

俺、笑っただけなんですけど。

隣の家の赤ん坊をあやそうとして、逆にギャン泣きされた過去が蘇って切なくなった。



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