ニコチアナ | ナノ
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  能面男と凶器的眼力子供


両手いっぱいの子供服を車の荷台に詰め込んで、リヴァイの待つ自動販売機近くの椅子へ向かう。相変わらず子供には似合わない眼力を持って彼は大人しくそこに座っていた。

「お待たせ」
「おそい」
「‥‥‥行こうか」

もう何も言うまい。
出会ってからまだ約一日というのに何と無くこのちびっ子の扱い方が分かってきた。

「雑貨、生活用品から行こう。最後に食料品な」
「りょうかいした」

まあ、百円ショップなのだが。
歯ブラシやら食器やら色々なものを一度に揃えることが出来るので重宝している。最近は商品の質も上がってきている為、物が長持ちすることもあり、百円ショップ、中々侮れん。
閑話休題。
百円ショップに着き、商品を前にしたリヴァイは、自分で使う物だというのにまたしても「なんでもいい」「使えればいい」「お前が選べ」と他力本願だった。
このやろう、考えるなんてことを俺にさせようとするな。
無言の睨み合いの数分の後、かなり苛々しながら商品を選び始めたリヴァイに、勝った、とくだらないことを思った。

「歯ブラシ‥‥スプーン、フォークに箸‥‥マグカップ‥‥‥で、練習帳。‥‥‥こんなもんか」

そう。練習帳。
つい先程、言葉は分かるが文字は読めないということが発覚したリヴァイに、文字を教えろと言われたからだった。
しかし、リヴァイが文字を読めるようになったなら、“よいこのれんしゅうちょう”というこのノートにどんな仕打ちが来るのかは考えたくなかった。



×××



カチャカチャと音を立てる食器類にうんざりしながら食品コーナーへ。リヴァイはなんの変哲もないこの食品コーナーに驚いていた。
なんでも「こんなに品数がある市場は見たことがない。ウォール・シーナ内でもここまで実りのいい野菜や果物も、新鮮な魚類もない」だそうだ。
この規模で感動するならば食品メインの大型スーパーでは言葉もでないんだろう。
そして科学技術も食糧事情もこの世界の遥か下を行くリヴァイの世界で俺は生きていけないんだろうと思った。
豚肉が超高級品ってどんだけだ。

今までの無関心振りが嘘のように意気揚々と(実際はほぼ変化はわからないが)食材の物色をし始めたリヴァイの気になった食べ物や食べたい物をカゴに入れていく。
食品コーナーを一周したところで、山盛りのカゴ二つを見て、ちろりとこちらの顔を窺うように見上げてきたリヴァイに首を傾げる。

「何?どうかした?」
「いや、その‥‥いろいろとかってるだろ。さすがにかねとか‥‥‥」
「気にしなくていいよ。お金は有り余ってるんだ。‥‥‥ほら、俺ってこんなんだから滅多に買い物なんてしないし、欲しい物も特にできないし」

なるほどな、と納得された。
リヴァイも約一日の間に折原弥刀という人間の表面を何と無く掴んで来ているようだ。一人、天井を見ながら考えているとくいっ、とジーパンを引っ張られた。

「なら、さいごにいいか」
「最後と言わずにこれから当面は外出したくないから欲しい物は今のうちに買っとかないと困るよ」
「‥‥‥‥‥。‥‥‥こうちゃの、ちゃばがほしい」
「紅茶?じゃあこっちかな」

なるほど、リヴァイはコーヒーではなく紅茶派だったか。ちなみに俺はどちらでもいい。家にあるものを飲むだけだ。ただ、少し前にボタン一つで色々な種類のコーヒーを淹れてくれる画期的マシーンを購入したので、紅茶は随分と飲んでいなかった。

茶葉のついでにマシーン専用のコーヒー豆を買い足しておこう。

山盛りのカゴを載せたカートをガラガラと押し、ちょこちょこと歩くリヴァイを引き連れて売り場を目指す。道中、あらゆる方面から買い物客や店員の視線が注がれる。本来の許容量を遥かに超えた二つのカゴを最大サイズのカートに載せ、それを押す能面男と目付きの悪い小さな子供。男と子供は兄弟とすれば年が離れすぎているし、かといって親子というわけではない。親戚とかそのような関係かと思えば仲が良さそうな様子はない。
明らかに目立っていた。
だが当の俺達は己が目的の方が重要なので野次馬達の目線を完全に無視し、進む。何と無くだがリヴァイはこういった他人からの好機の目に慣れているような感じがした。

それから無事に辿り着いた先で紅茶のパックとマシーン専用コーヒー豆をしこたまカゴに投入し、レジまでの道順の間でトイレットペーパーとボックスティッシュ、食洗機用洗剤といった消耗品を追加した。

レジのおばさんに、大量にすみません、と表だけの言葉を言うとやりがいがあると大笑いを返された。さすがに一人では時間がかかるということでもう一人おばさんが召喚され、二人体制で商品をレジに通していく。
五分弱で会計し終えたおばさん達は最後にとびきりの笑顔で合計金額を提示する。占めて二万三千五百八円。食品、生活消耗品をこんなに買うのは初めてだ。
三万円を出して、お釣りをもらう。
下からの「文字と一緒に金の事も教えろ」という声にいいよ、と返した。「仲が良いのねー」「いいお兄ちゃんねー」と俺達を見るおばさんズにいやぁそれほどでも、と適当に返してその場を後にする。

その後、買い込んだ荷物を車の荷台と後部座席に押し込んでショッピングモールを後にした。暫くはサンダルを履いた足をぷらぷらと揺らしていたリヴァイはいつのまにか頭をかくん、かくん、と上下にさせ、船を漕いでいた。

「眠いなら寝てていいよ。うちまではまだ時間あるから」
「‥‥‥‥ん、」

小さくなった身体で大勢の人間の中、しかも慣れない場所を歩き回って疲れたのだろう。
俺も久し振りの外に疲れている。返事をした後リヴァイはすぐに眠りに落ちた。

ちろりと目だけでそれを見る。

あの凶器的な目が閉じられているおかげで、眠っている顔は身体のサイズにあった子供らしいあどけないものだった。

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